- 豊島 ミホ
- エバーグリーン
2人をつなぐものは…約束。中学校の卒業式で、10年後の再会を約束したシンとアヤコ。夢をかなえるため、シンは地元に残りアヤコは東京に向かう。それぞれの日常の中で、時間も距離も離れた2人の心は、揺れていた。ほろ苦い青春の日々を通して描かれる切なさにキュッとなる恋愛小説。
「夜の朝顔 」がよかったので、続けて新作を読んでみました。
さわやかな青春小説。
シンとアヤコの視線で交互に描かれていきます。
中学生のシンとアヤコ。
シン君は「もし、このまま何者にもなれなかったらどうしよう。」という漠然とした不安を抱えながらも、田舎で埋もれてたまるか!とミュージシャンになることを目指します。
そんな決して目立つ存在ではないシン君に憧れていたアヤコ。シン君はきっと「何か」をしてくれる人だと。
そして卒業式の日、シンとアヤコはあぜ道で10年後に再会することを約束する。
決して恋人同士だったわけではない、けれどもお互いにちょっと特別な存在だった二人の10年後の約束。
そしてそれから約10年後、お互いの道を進んでいる大人になったシンとアヤコ。
10年前に漫画家になって本を持ってくると言ったアヤコは、夢を叶えて本当に漫画家になった。10年間、シン君に会える日を楽しみに、シン君を思い続けてきたアヤコ。
一方、ミュージシャンになるはずだったのに、結局何者にもなれずにリネンの会社で働いているシン君。
そんな二人の再会までの2ヶ月間の心の揺れが描かれています。
シン君が彼女に借りたマンガでアヤコが漫画家になったこを知り、あわててギターを持つ姿は痛々しくそしてリアルだなぁと思いました。シン君は中学生の頃は自分の方がちょっと上にいたはずで、そんな自分は夢を叶えられなかったのに、アヤコは本当に夢を叶えてしまった。その焦る姿が生々しいな、と。
また10年間シン君を思い続けて、そしてシン君以上に思える人はいないと思っていたアヤコが気づいた気持ち。
「そばに居る人と居ない人は全然異質の『好き』になるよね」
この台詞は上手いですね。
現実的にこの話のように二人とも10年後に約束を果たすかどうかは別として、再会シーンは素敵でした。最初はアヤコにとってはよくない約束だったのではないかと思ったのですが、お互いにとって昔を懐かしみ、現実を見つめなおせる素敵な約束だったんじゃないかな、と思います。
甘酸っぱい感じの素敵な青春小説でした。
余談ですが、アヤコがアシスタントと古今東西・世界名作劇場のタイトルを言い合うシーン、タイトル間違ってますよね。
★★★☆