- 島本 理生
- ナラタージュ
壊れるまでに張りつめた気持ち。そらすこともできない二十歳の恋
大学二年の春、片思いし続けていた葉山先生から電話がかかってくる。泉はときめくと同時に、卒業前に打ち明けられた先生の過去の秘密を思い出す。
切ないお話でした。
お互いに惹かれあっているのに、お互いに必要としているのに一緒になれない。
一緒になれないとわかっているのにお互いを求めてしまう。
心理描写、特に人間の”弱さ”みたいなところの描写がとても上手いと思いました。
葉山先生はずるい。
泉の気持を知っているのに、知っていて受け入れることができないのに泉に甘え、微妙な態度をとり続ける葉山先生。
でもそんな葉山先生に惹かれる泉の気持はわかる、気がする。
葉山先生が泉にだけ見せる”弱さ”にどうしようもなく惹かれていたのだと。
”弱さ”の表し方は人によって違う。
私は葉山先生の”弱さ”は許せるけれど、小野君の”弱さ”は許せなかったです。
最初はすごく優しくて好青年だったのに、泉の葉山先生に対する気持を知った上で泉に付き合って欲しいと言った時も「前に好きだった相手を忘れてなくてもいい、苦しくても都合の良いことだけ覚えていてみせる」と言ったのに。
葉山先生に対する嫉妬から泉に対してひどい行動をとる小野君。小野君の行動は痛々しい。痛々しさの表現もリアルでした。
泉は強い子だな、と思いました。
そして泉の葉山先生に対する愛は無償の愛だったと。
泉のように何年経っても忘れられないほど誰かを愛することができたことは幸せなのか、何年経っても誰といても忘れられない人がいることは不幸なのか、正直よくわからなくなりました。
ラストは本当に切なかったです。私が泉だったら耐えられないかもしれない。
そして最後まで読んでも葉山先生が泉を受け入れることができない気持は理解できませんでした。
それでも”恋”をリアルに書いたこの本は、”恋”のすばらしさを教えてくれる本でもあったように思います。
※ナラタージュ:映画などで、主人公が回想の形で、過去の出来事を物語ること。
★★★