ちょっと小遣いを持たせると、比々流はこういった本を買い込むのである。
3日分の食料=本一冊。おかげで給料日前に財布の中身がだな。
さてこの本、テンペラ画(卵の黄身を絵具に混ぜて描く絵の事)の技法書であるが、テンペラ技法の中でも、特に羊皮紙に描くことをテーマとしている所が画期的である。
通常、テンペラ画は「板に石膏を塗り、その上に金箔を貼ってから描く」ものであり、主に宗教画や家具の装飾に使われる。
明治維新以来、数少ない画学生が留学して習得したテンペラ画といえばこれであり、石原靖夫氏が1970年代に紹介した技法もまさにこれである。
一方で、テンペラ画にはヨーロッパの羊皮紙製豪華手書写本の系譜もあり、田崎氏の著作はまさにこちらの技法を詳細に取り上げた、本当に数少ない資料と言える。
さて、羊皮紙とは何か?羊の生皮をピンと張って乾かした、紙…のようなものである。
以前紹介した「羊皮紙工房」でも本物の生皮で造られた羊皮紙を売っている↓
普通の文房具屋で「羊皮紙下さい」というと、羊皮紙”風”の「パーチメント・ペーパー」を出してくれる。本物の羊皮紙は、確かにちょうどあんな風合いなのだが、生皮だけに、毛穴のあとが残っていたりする。
まだ紙すきの技術がなかった時代、紙と言えばパピルス。もっと丈夫な紙が欲しければ、この羊皮紙しかなかったわけだ。
生皮ゆえの特性を生かした絵画技法として、非常に興味深い。そして、ヨーロッパは牧畜民族の文化を持っているという事実も思い知らされる。
そんなことは抜きにしても、高山植物や風景、そして愛らしい手書写本の模写など、宝石のように美しい。作品集としても楽しめる。