PWM制御ファン用ファンコントローラーの製作 (1)PWM制御とは?
PWM制御ファン。
IntelがCPUクーラー用として採用して早10年近くになるでしょか。
ぱっと回顧してみるとどうもIntelとしてはsocket775世代、
AMDとしてはsocketAM2世代あたりから搭載が始まったようですね。
パルスセンサー付きが当たり前になりつつも、
案外PWM制御ファンは増えていない印象にあります。
実際、メーカー(産業用)のラインナップを見ても、
ここ最近になってやっとPWM制御ファンが増え始めた印象です。
○PWM制御とは?
PWM制御ファンの世界に限っていえば、
電源電圧を変えずに、PWM制御線のパルス信号のON幅を変えることで
ファンの回転速度も変える機能です。
PWM制御対応のファンのみがこの機能を使用できます。
PWMとはPulse Width Modulation(パルス幅変調)の略称で、
名前の通りパルスの幅を変調(変化)させることを意味します。
スイッチングDC-DCコンバータの制御にもよく使われる手法です。
一般にPWM制御というと周波数(1秒あたりのパルスの数)も決まっています。
このパルスのHigh側の割合を「Duty(デューティー)」と表現します。
0%が最も遅く、100%で最速になります。
CPUクーラー用ファンなどのPWM端子は
Lowが0V、Highが+5V、周波数が25kHz(40μsecに1発)です。
※25kHzという仕様は
山洋電気の技術資料に記載されているものに準拠
、といたしました。
リンク先の右側、DCファン技術資料より閲覧できます。
また、Intelのリテールクーラーの仕様も同じく25kHzです。
第4世代CoreシリーズのThermal Mechanical Design Guidelines の
Table 6などに記載されています。
※後にわかったことです が、どうも実際には
M/BのPWM制御の周波数はメーカーやモデルでばらばらの模様です。
一応、ここではあくまでも25kHzとして説明を通します。
Duty=50%なら、0Vと+5Vがちょうど半々。
Duty=100%なら、+5Vの一直線。
ちなみにPWM制御ファンのPWM信号端子(4番ピン、写真の青線)は
(ファン内部にて)オープンコレクタでHigh側にプルアップされる仕様になっています。
以前、ぐるっぽで質問があがったこともありますが、
3ピンのファンコネクタに
PWM制御対応の4番ピンのファンをつないでも、まったく問題ありません。
※ただし周辺部品に干渉なきこと。
このとき、接続されない4番ピンはファン内部でずっとHigh側にプルアップされたまま。
つまり自然にDuty=100%固定になり、普通のファンと同じ振る舞いになります。
○PWM制御ファンのメリット
(1)省エネ
最大のメリットは、速度可変に余計な電力を使わない点です。
従来のファンの場合、ファンの回転速度を(低い方に)変化させる場合、
ファンにとっての電源電圧を降下させる必要があります。
降下させるには
・抵抗をファンと直列に接続し、抵抗に電圧分担させる
・電源そのものをDC-DCコンバータで変換する
のいずれかが簡単ですが、いずれの場合も変換にロスが生じます。
ファンコントローラーは
①非常に簡易なもので可変抵抗(ZALMANの「FAN MATE 2」
など)、
②市販されているものの多くが電圧可変のシリーズレギュレーター(ドロッパー)、
③一部高級なものでスイッチングレギュレータ
と分類できますが、
①と②は電圧降下分をすべて熱(ロス)にしてしまうため電力の実使用効率が低く、
③でもDC-DCコンバータの変換ロスで概ね10%程度は無駄が出てしまいます。
たとえば、こんなファン。
これは以前作成した仮想ファンモデル (+12V定格時0.1A、消費電力1.2W)ですが、
仮にこのファンを8V(+8V時0.07A、消費電力0.56W)で使いたいとき、
①可変抵抗:(12-8)×0.07=0.28W
②シリーズレギュレーター:(12-8)×0.07=0.28W ←実は①とまったく同じ
③スイッチングタイプ:8×0.07×(1-0.9)=0.056W ※コンバータの効率が90%の場合
という変換ロスが生じてしまいます。
さて、PWM制御機能は、そもそもファン自体が
回転速度そのものをコントロールしてしまうため
電源電圧を+12Vから変える必要がありません。
つまり、電圧変換ロスが生じないのです。
しかも(比例ではないにしても)回転数が減少すれば消費電流もきちんと下がります。
よほどエコを意識するなら、PWM制御ファンを、PWM制御で用いるほうが得策です。
※強いて言えばPWM信号の吸込/吐出電流が最大1mAなので
5mW(=0.005W)程度、信号に伴う消費電力がありますが、
それでもスイッチングコンバータと比べても微々たる物です。
Duty 100%のプルアップ時は、それも流れませんし。
しかもファンとしては従来品と何ら変わりませんから、
電源電圧によるファンコントロールを行うこともできますので、
PWM制御ファンは従来型のファンコントローラーでも使えるわけです。
そういう意味では、イニシャルコストさえめどがつけば
積極的にPWM制御ファンを使いたいところです。
(ほしいファンにPWMモデルがあればよいのですけどね)
※PWM制御と電圧制御はプルアップが働く電源電圧が+5V+α以上であれば
併用できなくはないですが、メリットが少なく避けたほうが無難です。
(2)絞りすぎによるファン駆動不良に悩まされない ←追記あり
従来の電圧可変のファンコントローラーの場合、
電圧を低くしすぎるとファンが回らない可能性があります。
始動トルク不足が大半の理由です。
(基本的にPC用のファンは電源電圧(+12V±10%)以外での
動作保証は謳われておらず、
当然ながらどの程度まで電圧を下げても動くのかは
ファンの種類だけでなく個体差によっても変わります)
ファンコントローラーによっては始動時に
数秒ほどフル回転(=12Vを出力)させるタイプもありますが、
そもそも始動トルクが賄いきれないような
低い電圧を常用にして無理に動かすことは
システム設計上、当方は過ちであると考えます。
(それなら、もともと低い回転数のファンを選定すべきです)
ファンコントローラーは汎用品ですから、
ファンの始動特性を考慮なんてしていません。
この辺りを考慮、設計、設定、運用するのはあくまでもユーザーです。
PWM制御ファンは、電源電圧はあくまでも+12Vで、
Duty0%~100%の間の、どの領域で常用しても問題ないように
メーカーが設計、保証したものですから、
どのようなDutyで動かしても、(故障時、汚損時を除き)
故障の心配をする必要がありません。
※ここでいう「汚損」は、塵埃によってファンの軸周りが汚れ、
回転トルクが上昇して回りづらくなった状況を指しています。
!! 追記 !!
「常用しても問題ない」ことには間違いありませんが、
Duty0%時に回転数が0になるファンも存在します。
当方としてはどのDutyであっても回転数が0にならないような
ファンの選定をお勧めいたします。
というのも、回転数が0(=ファンレス)の環境下の放熱考察は
まったく別次元で考えなくてはならないからです。
ゆるゆるでも風がある場合とファンレスは雲泥の差になります。
(3)デジタル制御が極めて行いやすい
M/BのPWM端子付きポートは大半の場合、
M/BのBIOSや付属(もしくはダウンロード)する回転制御ツールで
スピードを任意に変えることができます。
M/B付属機能でコントロールすれば費用もかからず、場所も取らない。
これだけでもメリットといえます。
PICを使いこなせる方なら非常に簡単に制御できるはずです。
(4)最小回転速度で動かすことが簡単
先ほど『PWM信号端子(4番ピン)はオープンコレクタで
High側にプルアップされる仕様』と書きました。
4番ピンをGNDに直結すれば、Duty=0%となり、
たちまちそのファンの最小回転速度にすることができます。
GNDの1番ピンと短絡するだけでOK。
これ、意外と使える技(技というほどでもないですが)だと思います。
※くれぐれもほかのピンと短絡しないようにご注意を。
...と、なかなか良いこと尽くめのPWM制御ですが、
残念ながらM/B上のPWM制御対応のFANコネクタは数が限られており、
また従来のつまみによる回転数制御を行えた方が
便利だなぁと思う方は少なからずいるはず。
そんなPWM制御ファンをPWM制御でき、
かつ従来と同じような、ボリュームによる使い心地である
そんなPWM制御ファン専用コントローラーを製作してみたいと思います。
が、すでに説明が長くなりましたので、
具体的な作成の話は次回に回すことにします
。
(というか、まだ回路検討しか行っていないのですけどね)
(2020.06.28追記 1つのPWM制御付きポートに複数ファン)
○付録1 1つのPWM制御線に複数のファンを接続できるか?
複数個のファンを1つのポートに接続しても、
理論上はそれぞれのファンがPWM Dutyの指示を受けることができますから
問題なく動作する...ように思えます。
実際、2個程度なら動く可能性は大きいです。
が、電気的にはPWM信号線の吸込/吐出電流に注意が必要です。
この制御は
・PWM信号のHighの時にはファンのPWM制御線に吸込電流(ソース電流)
・PWM信号のLowの時にはファンのPWM制御線から吐出電流(シンク電流)
が流れる...という仕様になっています。
山洋電気のPWM制御ファンの仕様でいえばいずれも最大1mAです。
(もっとも山洋電気のPWM制御ファンは自らもPWM制御線をプルアップしているため
おそらく吸込電流は大きくない、と思います)
ファンを複数接続すると、その数の分だけ吸込/吐出電流が増えます。
吸込電流が供給不足になるとHighの電圧に達せずHighと認識できなかったり
吐出電流を吸いきれないとLowの電圧まで下がらずLowと認識できなかったり
する問題が生まれます。
これも山洋電気の仕様になりますが、LowとHighの電圧範囲は
・High:4.75 ~ 5.25V
・Low:0 ~ 0.4V
と定義されています。
例えばオープンコレクタの回路構成でLowに落とす場合
電流が増えるとVCE(sat.)が上昇し、0.4Vまで下回らない可能性があります。
0.4V~4.75Vの間はいわゆる「どちらにも定義されないゾーン(不感帯)」とされ
必ずしもLowと判定されるとは限らなくなります。
これはファンの種類によっても様々でしょうし、個体差もあるかもしれません。
M/B側の設計陣が、果たして1ポートあたりどの程度の吸込/吐出電流を
想定して設計をしているかは未知数ですし、
もちろん回路図や部品表が出てくるはずもありません。
このあたりは実際に意図通りの回転数になっているかを
実物検証するしかないでしょう。
巷にはPWM信号線を含めたファン分岐ケーブルが多数販売されております。
具体的にはアイネックスの「WA-864PS」 は4分岐、
サンワサプライの「TK-PWFAN2」 は5分岐にも及びます。
ただ、これらがM/Bにとって
“仕様を満足して”使えるものであるかはまったくわかりません。
個人的には分岐する使い方は、あまりおすすめいたしません。
あくまでも個人的な経験則であることをお断りしたうえで、
2個分岐なら問題となった経験はないものの、
それ以上は自身がすすめないこともあってほとんど試したことがありません。
ついでにファンのコネクタの定格は2Aですので、
そもそも消費電流の合計値が2Aを超えないようにする点も注意してください。
○付録2 1つのPWM制御線に仕様の異なるファンを接続した場合
基本的には「付録1」の注意の通りです。
ファンが違えど、吸込/吐出電流さえ満足すれば、
それぞれのファンがPWM Dutyの指示を受け、それに応じた動作をします。
実際に山洋電機の技術資料にも
『デジタル入力(PWM信号)による制御のため,ファンの種類や入力
電圧に関係なく,複数のファンを同時に制御することができます。』
と表記されていますので、混在自体は問題ありません。
ひとつご参考までに、ファンの仕様を2つ並べてみましょう。
この図は山洋電気「San Ace」の12V120mm角25mm厚ファンのうち、
「9GA1212P4G001
(以下「9GA」)」と「9GV1212P4G01
(以下「9GV」)」の
2つの特性をグラフの縮尺を合わせて合成表示したものです。
9GAはDuty 0%時は0rpm(停止)になり、25%以上で回転をはじめ
100%で6,400rpmの高速で回転します。
9GVはDuty 0%時でもTyp.1,650rpmで回転し、100%で5,100rpmとなります。
風量は全般的に9GVのほうが優れますが、
最大静圧はDuty 50%以上なら9GAのほうが強めです。
並列で使う場面ですと同じ製品を並べないと
回り込みなどによる性能低下が懸念されますが、
うまく特性の違いを利用できると
より省エネなクーリングもできる可能性もあります。