簡易ファンコントローラーの部品選定 (1)抵抗挿入
※本記事の内容は実際に作ったわけではなく、机上検討論です。
実際の運用に当たっては、電圧の分圧や部品使用率を検証する必要があります。
以前、ファンコントローラーを作成した記事をアップしましたが…
案外この手の調べものでここに行き着かれている方がいらっしゃるようです。
というわけで、もう少し詳しく、簡単な回路を考えます。
ファンのコントロールには次の2通りが考えられます。
(1) ファンに供給する電圧を変える
→基本的にすべてのファンに適用できます。
(2) ファンのPWM信号のデューティー比を変更する
→PWM信号線を持つタイプのみに使用可能です。
今回は(1)に準ずる内容です。
※実は大変紛らわしいことに、(1)の方法を実現するために
PWMスイッチングを行って電源電圧を変えるものを「PWM方式」と呼ぶ場合があります。
決して間違いではないのですが、ここでいう(2)の方法は
「ファンの駆動電圧を変えるものではなく、PWM信号線(IntelのCPUクーラーファンでは青色の線)
に対し、PWMパルスを入力する」ことを指します。
※+12Vと+5Vの差分で7Vを得る方法、
一見合理的に見えますが、やってはいけません。
最近は12Vや5Vは独立スイッチングを行うケースが当たり前で、
電流制御も行っているようなタイプですと各電源系のフィードバックが狂ったり、
異極同士の妙なカップリングやリークルートの生成など、
電位不安定につながるリスクがあるからです。
特に、この接続をした状態でパルスセンサ線(黄色)をM/Bに接続したりしたら、
どのような影響があるのか想像できません。
さて、多くのPC用ファンは12Vを電源としています。
これを低くしていくのがいわゆる(1)のスタイルのファンコントローラーの役目です。
ファンは比較的抵抗負荷と同じような動き方をします。
入力電圧が低ければ低回転(=低消費電流・電力)、高ければ高速になります。
「比較的」と書いたのは
・回転開始の最低電圧があること
・電圧と電流のグラフが必ずしもリニア(直線的な変化)ではないこと
・回転開始時、定格を大きく超えるラッシュ電流が流れること
によります。
本物の抵抗負荷であれば、V=RIの示すとおり(温度特性を考慮しない場合)常に一定で、
VとIには直線的な変化が成り立つからです。
前回当方が記事にしたものはスイッチング方式と呼ばれる、
ほしい電圧を得るために発生するロスの少ない方法でしたが、
部品点数やイニシャルコスト(製作部品代や製作時間)が多くかかることから、
今回はドロッパー(欲しい電圧を得るために、何らかの部品にわざとロスさせる方法)
を紹介します。
この記事はその前半。
今回は『直列に抵抗を挿入する』方法を考えます。
電源に対しファンと直列に抵抗を入れます。
もっとも安価で、かつ簡単な方法です。
しかしこれ、実は非常に設計が面倒なのです。
問題なのは、ファンのDCインピーダンスが読みづらいことにあります。
ファンの定格電流はファンに記載されていることがほとんどであるため
だいたいどの程度のインピーダンスであるかはR=V/Iで計算すればわかります。
しかし先に書いたとおり、これより低い電圧の時に直線的な変化ではない
ため、『具体的な値はわからない』ということになってしまいます。
たとえば12V0.1Aのファンがあるとします。
定格時、つまり100%電圧のときは約120Ωと計算できるのですが、
75%電圧=9Vのときに75%消費電流=0.075Aになるわけではありません。
しかも厄介なことに、市販のファンで電圧-電流グラフを掲載している例は見たことがありません。
抵抗を決めるとなれば、事前に電圧を可変できる電源を用意し、
消費電流とのグラフを作っておくしかありません。
そして目的の電圧の時のファンの電流を測定する必要が出てしまいます。
…そう、抵抗法の場合は「だいたい」でしか決められないのです。
さて、そろそろ本論。
やろうとしている回路図はこちら。
上が固定抵抗の場合、、下が可変抵抗(ボリュームなど)の場合です。
Rが挿入する抵抗です。
ここではあるファンのモデルケースを考えます。
定格12V0.1A、10V時に0.09A、8V時に0.07A、5V時に0.04A流れ、
3.5Vでは回転しない(電流≒ほぼ0A)ファンがあるとします。
グラフで表すとこんな感じ。
※ある程度普通にありそうなモデルケースを想定していますが、
実在するかはわかりませんので、あしからずご了承ください。
実際にはテスターなどを使って実測し、数点プロットして自作するしかありません。
さて、それぞれ、10V、8V、5Vにする場合の抵抗がどの程度なのか求めます。
なお、言わずもがなですが抵抗はE12系列より選定しています。
(ボリュームの場合は1.0,2.0,5.0×桁ですので除外します)
○10V時
・推定インピーダンス
10V時のDCインピーダンスは推定10/0.09=111Ω→110Ω程度です。
・分圧による直列抵抗
10Vに調整するには抵抗分圧により、
ファンに (12-10)/12*110=18.3≒18Ω程度 の抵抗を直列につなげば
電圧はおよそ10Vかかる、と思われます。
※若干ずれます。正確には実機検証が必要です。
・抵抗の消費電力の検証
18Ωに流れる電流はファンの電流と同じ約0.09Aですから、
抵抗の消費電力は P=I^2*R=0.09^2*18=0.15W 程度。
従って、1/4W以上(個人的には1/2W以上を推奨)の抵抗を使用すればいいことになります。
以下、8V時と5V時は計算結果のみ。
○8V
・推定インピーダンス=114Ω→110Ω程度
・分圧による直列抵抗=38.1Ω→39Ω程度
・抵抗の消費電力=0.19W
○5V
・推定インピーダンス=166Ω→160Ω程度
・分圧による直列抵抗=97.2Ω→100Ω程度
・抵抗の消費電力=0.09W
一応、結果をグラフにします。
…と、こうしてみると、モデルケースのファン特性の場合は
いずれも1/4W程度の抵抗を選んでおけば、抵抗の定格を超えることはなさそうです。
しかも1/4W、100Ωの可変抵抗(Bカーブ)をつなぐことで
5~12Vのコントロールをかけることもできると思われます。
ただし気をつけたいのは、ファン起動時にはラッシュ電流として
定常状態の3倍程度の電流が流れる場合があります。 ※値はファンによります
あまり高い抵抗にしてしまうと電流供給不足で起動しない可能性があります。
…そう、そんな要素も考えると正直なところ
たった1つの抵抗を選定するだけでも設計は難しいのです。
なお、抵抗の温度上昇にも注意が必要です。
KOA製のMOSシリーズという酸化金属被膜抵抗のグラフ
の
1/2Wの抵抗『MOS(X)1/2CL10A』(5個のグラフの右上)を参考にみてみますと、
使用率50%のとき、表面温度上昇は約27℃。
使用率100%のとき、表面温度上昇は約55℃。
1/2Wの抵抗に1/2Wを背負わすとこれほど熱くなり、
うっかり触ればやけどの原因になります。
しかも、忘れてはならない負荷軽減曲線規格の存在。
MOSシリーズで100%の使用が認められるのは70℃まで。
55℃の上昇を考えれば、周囲温度は15℃以下でなくてはならず現実的ではありません。
つまり、1/2Wに1/2Wをかけて使用することはできないのです。
1Wのもの『MOS(X)1CL12.5A』を選定すれば、
これに1/2W(即ち使用率50%)とすれば温度上昇は50℃強のようです。
負荷軽減曲線によれば50%時は150℃ちょっとまでOK。
とすると、周囲温度は約100℃まで使用できることになり、クリアです。
設計上は問題ありません。
以上より、抵抗はできるだけ「ワットの大きいもの」を選んでください。
ただし、温度上昇50℃なんて、触ったらやけどします。
85℃対応の熱収縮チューブで覆ってあるならば溶けてしまう可能性もあります。
そこで電力に余裕がないとき、固定抵抗の場合は、
合成抵抗が同じになるように並列接続することで電力量を分散します。
たとえばモデルケースのファンは、8Vにしたいときの挿入抵抗は39Ω程度でした。
これをほぼ倍の抵抗である82Ωを2並列(合成抵抗=41Ω)で使用します。
同じ値の抵抗を2個並列に接続した場合は、電流はそれぞれに半分ずつ流れますから、
1個あたりの抵抗の負荷分担は半分に減ります。
※「2R」と書いたのは、元の抵抗の2倍のイメージを記したかったからです。
もちろん、120Ωの3並列(合成抵抗=40Ω)、150Ωの4並列(合成抵抗=37.5Ω)とやっていけば
1個あたりの電力量が「1/並列数」という格好でどんどん低減できます。
ただ可変抵抗の場合は「2連ボリューム」までなら並列使用が容易ですが、
それ以上は並列による電力低減が難しくなります。
こうなるとワッテージの高いものを選定しても温度上昇の問題は解決が難しく、
消費電流の大きなファンに対しては
今回紹介したような単純な抵抗直列の方法は使い勝手が悪い、ととらえた方が良さそうです。
※抵抗は消費電力が0.2Wを超えたあたりから発熱が非常に厳しくなります。
表記定格だけでなく、部品温度上昇と負荷軽減曲線の存在も気にしつつ設計しましょう。
次回はもうひとつ簡単なファンコントローラーの作成方法を書きます。
実はこちらの方法は、計算がもっと単純なのです。
次回(=年内最後)の記事まで文字だらけで申し訳ありませんm(_ _)m