みなさん、ストラトキャスターのフローティング量やスプリングハンガーの締め具合は拘っていますか?私はつい最近まで殆ど気にしていませんでした。ギター改造の回でトレモロスプリングを選んで最低限のセッティングをしたのみです。あれから、自分なりにセッティングを詰めて試行錯誤し一区切り終えましたので記事にしたいと思います。
1.今までのセッティング
今まではESP type2のスプリングをハの字3本掛けにして、アームフルアップで3弦開放が1音半上がるセッティングにしています。特に意味もなく皆やってるからという理由です。強いて利点を挙げるとすればアームフルアップで3弦開放で1音上がる設定と比較して、スクィール時にアームのダウンアクションがコンパクトにできることくらい。
こうしたことから、今のセッティングがベストであるという確信が持てないけど、あてもなく無限のセッティング地獄に足を突っ込みたくないというジレンマを抱えた日々を送ることとなります。
2.セッティング模索の経緯
ネットでストラトのフローティングセッティングについて調べていくうちに、非常に興味深い記事を発見します。Muse on Museのカール・ヴァーヘイエンのインタビュー、ZENBU JAPAN井上氏の解説記事です。リンク先の記事を要約すると、「張力の異なる1~6弦をスプリングハンガーの締め具合の調整によって張力を均一化し、アーミングの操作性を向上させ、アーミングによる細かいチューニング補正を可能にする(テクニカルすぎるだろ・・・)というもの。正直、力学的なお話はさっぱりですが、セッティングが衝撃的です。リンク先のスプリングハンガーの画像をご覧になりましたでしょうか?傾いております。
具体的な調整方法ですが、以下のようにアームフルアップ時に上がる音程を目安にスプリングハンガーを締めこんで調整します。
1弦(E): 半音 (E→F)
2弦(B): 1音 (B→C#)
3弦(G): 1音半(G→B♭)
他にもこのようなセッティングをされている人はいるのか調べたところ、技巧派ギタリストの
藤岡幹大氏も同様のセッティングを実践しているとのこと。藤岡氏はセッティングの理由について詳しく説明されていませんが、恐らくカールと同等の効果を狙っているものと推測します。また、全くセッティングは異なりますが、あのリッチー・ブラックモアもスプリングハンガーを少し傾けてられており何らかの効果を狙っているようです。
上記のようにトッププロでもスプリングハンガーの傾けを実践していることから、私はベストなセッティングの大きなヒントになるのではないかと考え、偉大なる先人カールのユニークなアイディアを取り入れてみることにしました。
3.実践してみる
今回セッティングするのはFUJIGENのNCST-M10M(改)。こちらはミディアムスケールのストラトですので、通常のストラトよりも弦の張力が弱いことを考慮ください。
(1)3本ハの字がけ(ESP type2 3本)
まず第一印象ですが、やはり見た目が不安定ですね。スプリングハンガーが傾きすぎてキャビティに収まりきらないので、アームアップ時の音程についてはほんの少し妥協しています(汗)。以下感想。
・トルク感が少なく、アーミングがかなりスムーズになった。
・全弦のテンション感がほぼ同じになった。
・チューニングの安定感は特に変わらない。
まず、テクニカル系の方は一度は試してみる価値があります。低音弦に向かうにつれテンションを落とす事により、全弦のテンション感がほぼ同じになっており、全弦同じ強さで弾けます。おおげさではなく、ハムバッカーのギターを弾いているようなコンプ感があります。藤岡氏はアーミングを多用するので目的はアーミングの操作性向上が目的であり、これは副産物的な効果と思いますが、人によっては相当アドバンテージを感じるセッティングとなるでしょう。
しかし音に関してですが、今までの感覚で巻弦のフルピッキング時にピックを浅く出してコンパクトに振りぬくと、ハリの弱い柔らかいローミッドがそのまま出てしまいます。少ししっかり目にピッキングすることで比較的ハリのあるローミッドが出てきますが、全体的に音圧感が減って巻弦を用いたフレーズは迫力がランクダウンしていると感じました。プレーン弦を一回り太い弦にすればもう少しバランスが取れるかもしれません。今回はミディアムスケールであることが仇になったように思えます。
(2)4本がけ(1弦側:ESP type2、6弦側:ESP type1)
思い付きですが、1弦側を強いスプリングで張力を上げ、6弦側を弱いスプリングで張力を下げれば出音のバランスが良くなると思い、この設定にしました。(type2の方が張力が強い)。type1の中に入っているピンクの物体はLANケーブルの被膜です。スポンジや専用製品(spring no)で共鳴対策されている方もいると思いますが、LANケーブルの被膜は出し入れ簡単で共振も抑えることができ、コスパも良好なのでオススメです。
肝心の音ですが巻弦ではtype2の丸みとハリの共存したローミッドが存在せず、type1の個性がでています。一聴するとローがスッキリしているのに音に厚みもあってバランスの良い感じですが、この厚み、細かい粒子のモヤッとした霧のような成分のみで構成されており、実体の無い嘘くささを感じます。また、明瞭感、キレ、コシ、音圧が弱い。
ちなみに、このセッティングと次のセッティングは全弦のテンション感が同じにはなりませんでした。等間隔で同じ張力のスプリングを張らないと意味ないのかもしれません。あとチューニングの安定感も特に変わらないです。
(3)3本がけ(6弦側1本、1弦側2本 共にESP type2)
ということで素直に6弦側にtype2を1本。これ、凄いです。(1)と同じ3本なのに全弦で粒立ち感、音圧感が増し、巻弦ではしっかりローミッドが出ています。解像度が高く、比較的ドンシャリで雑味が少ないです。また、テンション感も強めです。やっと理想にたどり着いたかと思いましたが、少し弾き続けているとキレイすぎるというか、味がないというか、色気がないです。いわゆるギタートーンのおいしいモヤ成分が全く無い状態です。今回のセッティングの中では断トツにCOOLでモダンな音ですが、少々やりすぎです。トーンノブを使う人やハムバッカーには合うかもしれません。
このセッティングの中で、気づいたことがあります。スプリングハンガーを締めこむ中で、巻弦が明らかにローミッドと音圧が出てくる良音ポイント(2mmくらいの距離)が存在します。そのポイントは3弦開放アームフルアップで1音~1音半の中にあります。それ以上緩めると音圧が減り、締めすぎるとローミッドが削れます。サウンドハウスのトレモロスプリングのレビューでも同じ感想を仰っている方いましたが、そういうことかと納得しました。
(4)3本がけ(6弦側1本、1弦側2本 共にESP type2) ハンガー平行
ということでハンガーを平行にしてみます。アームフルアップで3弦開放が1音半に及ばない場所に良音ポイントがありました。(3)の音をそのままに、モヤ成分をプラスした音(悪く言えば少し曇っている音)になりましたが、これくらいが丁度よく感じますのでこれに決定!
また、画像はありませんが、6-5弦、5-4弦、1-2弦の間にスプリングを取付けた逆?パターンや一般的な川の字パターンも改めて確認しています。低音弦側の張力が強くなるためか、巻弦のローミッドが削れ、音がタイトになりました。巻弦をブリブリさせたい場合は敢えて低音弦側のスプリングを減らす方が吉になる場合もあるようです。
4.まとめ
最近まで3本ハの字のハンガー平行にしていましたが、今や粒立ちとキレの弱いもっさりしている微妙なセッティングだったと感じます。恐らくミディアムスケールであることで、張力が弱すぎて真ん中のスプリングの伸びが足らず音質的に悪さをしていたと思われます。やはり自分の耳、感覚でセッティングしなきゃダメですね。以下まとめ。
・スプリングハンガーが傾いていてもチューニングの安定には影響しなかった。
・スプリングの伸びが小さい場合、テンションが下がり音の粒立ち、音圧が下がる傾向がある。
・スプリングの伸びが多い場合、テンションが上がり、巻弦のローミッドが削れてタイトな音になる傾向がある。
・上記の兼ね合いで巻弦のローミッド、粒立ち、音圧をバランスよく出せる良音ポイントが存在する。
・音質面で優位なフローティング量は確認できなかった。スプリング調整時の良音ポイントが最適なフローティング量と言える。
・スプリングの調整で得られる音質の変化とピックアップの高さ調整で得られる音質の変化は全く異質であるため、スプリング調整中はピックアップの高さにシビアになる必要はない
上記の事から、他人がやっているフローティング量をそのまま真似しても良好な結果を得る事は期待できないといえます。自分の耳と感覚を信じて音を探ることが肝要です。
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