今回はDTMでの音楽製作初心者向けの内容です。
まず昨今は既に音圧戦争なる音が大きいことが何よりも優先とされる風潮がラウドネスノーマライゼーションの登場によって変わりつつあるということを念頭において欲しく思います。
つまりカマボコみたいな波形にして音圧を出す時代は終わり、音楽は徐々に元の自然なダイナミクスを取戻しつつあるということです。多分ですが、未来においてはどこのネットサービスも、もしかしたらMP3プレーヤーでさえもラウドネスノーマライゼーションが一般的になるかもしれません。そうすると単に音圧を稼ぐという名目で音圧を出すということがデメリットしか生まない不毛な作業になります。
前回のVUメーターの記事と内容はそのままリンクするのですが、マスタリング前の丁度良い2mixのダイナミクスがどれくらいなのか?について個人的な見解を述べてみたいと思います。
なぜわざわざこんなことを記事にするかというと、ミックスの初心者の方はよくマスタリング前の段階で音圧を稼ぎ過ぎてマスタリング時のコンプ・リミッターで上手くいっていない生徒さんをよく見かけるからです。当たり前のことでありつつ、また大事なことでもありますので人それぞれ考え方やアプローチは色々とあると思いますが、このことについて考えてみましょう。
まずあまりお勧め出来ない極端な例から見てみます。
まるでマスタリング済みの波形のようです。
上の画像はまるでマスタリングが終了した後の波形のようです。マスタリング後は実際こんな感じになると思うのですが、マスタリング前でこの状態ではほとんどダイナミクスが残っていませんのでこの状態からEQをブーストして使うことは出来ませんし、コンプやリミッターをこれ以上掛ける余地はないように思えます。
これはかなり極端な悪い例を挙げていますが、ここまで酷くなくても似たようなケースに陥ってしまう理由はDAWのピークメーターの0dBを基準にミックスしているからだと思います。
ちょっとやり過ぎかも?でもギリギリあり?やっぱりちょっと大きいか?
最初の例ほど酷くはありませんが、こちらも割と波形サイズがマスタリングでの大きくコンプレッションの余地が少なめです。さっきに比べたら全然マシですが、マスタリング前としてはもう少し波形が小さく、ダイナミクスも残っていたほうがいいかな?というのが個人的な感想です。
ラウドネスノーマライゼーションが一般的になればこういった単なる波形上の大きいさは無駄にダイナミクスを削るだけの不毛な作業になります。
もちろん何をどうするか?どういう考え方を持ち、どういうコンセプトで作業するのかは人それぞれであり、また曲によっても変わってきます。上の画像のような状態でミキシングが終了するのも絶対にダメとは個人的には思っていません。
要はネット配信などにおいてどのように再生されるのか?あるいはミキシングにおける領域とマスタリングにおける領域において、出来ることとその効果が違うためその両者を理解して、バランスの問題を考える必要があるということです。
これについてどんな曲でもどんなジャンルでも画一的に絶対的に固定されたアプローチがあるとは思えませんし、音楽的にという条件を付けるなら、稼げる音圧レベルにはある程度の限界がありますので、何処までをミックスで行い、どこからをマスタリングで行うかの問題です。但し行程上絶対にマスタリングが後になりますので、常にミックスでは後ろの行程のことを考えて作業する必要があります。
特に自分でミックスもマスタリングも両方やる場合は何を何処までどちらに分担させるのか多いに考える必要があるでしょう。
概ねミックス終了時点で音が大き過ぎるケースは下記のような感じが多いようです。
ピークメーターのクリップランプは音が割れるから付いてはいなけい。
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クリップランプが付かなければOK。音は大きいほうが良いので0dB直前くらいにする。
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でもそこを基準にすると色々なトラックでバスが飽和するのでリミッターを入れたり、コンプを強めに掛けないと…
または
音は大きい方がカッコ良いのでついついトラックの音量を上げてしまう。
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そうするとクリップランプがたまについてしまうのでマスターフェーダーやミックスバスにリミッターを入れて解決する
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結果、2mixが仕上がった時点でかなり波形の大きい、マスタリングでコンプを掛ける余地のない2mixが出来上がってしまう。
…というようなケースが初心者の方には多いのでないかと思います。
ミックス時のマスターフェーダーやバスにコンプやリミッターを掛けるのとマスタリングで掛けるのは一緒なのでは?という考えもありますが、まずマスタリングではコンプの前に行うEQ補整や取り込み行程を行うことが多いので、その行程なしでマスターフェーダーに直接リミッターを入れるならば行程が異なるため結果は変わってきます。
また大抵はマスタリング専用の音は良いけれど動作の重いコンプを使うことが多いですし、プラグイン(またはアウトボード)のルーティング順もあるので、マスターフェーダーに直接やコンプを指してリミッター終了というわけにはいかないことが多いため、個人的には分けて考えた方が良いように思えますし、実際に分けて考えられています。
やり過ぎてマスタリングしていない状態の波形なのに、マスタリング後みたいな波形になってしまっている方もいらっしゃいます。
入力レベルが高すぎるとマスタリング時のコンプやリミッターを上手く使えない場合もありますし、EQも最初から飽和しているような状態から始めるのはあまりお勧め出来ません。
ではマスタリング前にダイナミクスが残っており、なお且つ丁度良い音量でミックスを終わらせるにはどうしたらいいのか?という問題になりますが、これはVUメーターを使うことをお勧めしたいです。
詳しくはこちらの過去記事で色々述べていますが、簡単にいうとVUメーターの「0dB」位置は固定ではなく設定次第でDAWのピークメーターとの相関関係を変化させることが出来ます。
上の画像の青線のReference Level-14dBというのは正確な数値ではありませんが、おおよそDAWのピークメーターの-14dBの位置がVUメーターの0dBの位置になるという意味です。
常に0dBを基準にミックスしている人にとっては「-14dBも天井が空いたら音が小さすぎないか?」と思われるかもしれませんが、VUメーターはハイハットなどの高い音には反応しにくいですし、300ms以下の瞬間的な音には反応出来ないので、VUメーターが0dBを指していても実際のドラムあり、ベースあり、ギターあり、ボーカルあり、…etcの曲ではDAWのピークメーターは-14dBを大きく超えています。
ミックスではおおよそ-18dB~-10dBの間で使われることが多く(-18dBがお勧めです)、私は普通のBGMっぽい作品ならVUメーターを-18dB~-16dBに設定してすることが多いです。この設定で作業すると大体どんな感じになるのかイメージの波形を見てみましょう。
VUメーターを-18dB~-16dBで設定した場合のイメージ画像
大きすぎず、小さすぎず丁度良い感じです。これならマスタリングでコンプレッションの余地が残っていますし、EQ処理にも取り掛かることが出来ます。ラウドネスノーマライゼーションが例えば-15LUFSなら大体こんな感じでです。
作業時に音量に対する絶対的な基準があるということですが、VUメーターを使わないと下の画像のようになってしまっている生徒さんも時折見かけます。
波形が小さすぎる例
元の波形やDAWのパラメーターやフェーダーが小さいのをオーディオインターフェースのボリュームを上げることで音を大きくして作業していると思うのですが、これだとちょっと小さ過ぎますね。音量を上げると同時にノイズも持ち上がってきたりするのでやはり適切な大きさの波形で仕上げることに越したことはありません。
こういった問題はVUメーターを使うことで解決出来ます。
ラウドネスノーマライゼーションが普及すればこれは不毛な作業になりますが、もっと数字を上げてVUメーターをReference Level-12dBや-10dBで作業する場合もあります(ありました)。ダンス系やロック系のように音圧重視で作っていく場合はミックスの時点である程度音圧を出しておいた方が良い結果が得られるため、その場合は必然的にミックスないで強めにコンプレッションやリミッターを使うことになります。
分かりやすくするために比較画像を見てみましょう。
VUメーターを-18dB~-16dBで設定した場合のイメージ画像
VUメーターを-10dBで設定した場合のイメージ画像
VUメーターを-10dBに設定したほうが明らかに波形が大きいです。これはヘッドルームが狭くなる分だけ瞬間的なダイナミクスをコンプレッションしなければならないためにこのように波形が大きくなってしまいます。
ただし幾ら波形上の見た目を大きくしてもユーザーがプレイヤーのボリュームを小さくしてしまえば大きい音では聞いてもらえませんし、ラウドネスノーマライゼーションが一般化しつつあるWEBサービスでは大きくしても、再生時に小さくされてしまいますのでその点はよくよく考える必要があります。
基本的にコンプレッションは一度行ってしまうと原則的には戻すことができません。トランジェントなどのエフェクトを使って擬似的にダイナミクスを復活させることが出来ますが、元々持っていたその音楽のダイナミクスの自然さが復活するわけではないので個人的には一度コンプレッションしたものをトランジェントなどでダイナミクスを戻す方法はあまりやりたくない単なる対症療法みたいなものとして考えています。
ミックスでコンプレッサーやリミッターを使えば使うほどマスタリングでダイナミクスを扱う余地が減っていきますので個人的にはどれだけ大きくてもReference Levelは-10dBくらいが限度なのかな?と思ってます。ラウドネスノーマライゼーションを目当てに考えるなら昔ながらのVUメーターの-18dB設定が適切であると個人的には考えています。
注意点としてはいくらVUメーターを使って作業してもコンプやリミッターをミックス内で使い過ぎると下のような波形になってしまうことです。
波形そのものは小さいけれどダイナミクスがなくなっている例
これもかなり極端な例を出していますが、音量は小さいですが、ダイナミクスがなくなっているためマスタリング後の波形とあまり変わらない状態になっています。音圧を稼いだ後の波形を小さくすればこんな感じになります。
VUメーターのリファレンスレベルをいくつに設定するのかは人それぞれですが、高めに設定してミックスでやや音圧を稼ぐ感じで仕上げるのも良いですし、後段のマスタリングにそれを残しておくのもありです。
結局は曲によって変わってくるので、自分で何曲も取り組みながら丁度良い数字を見つけていくことになります。
マスタリング前に波形が大きすぎたり、小さすぎたり、ダイナミクスがあり過ぎたり、なさ過ぎたりするとマスタリング上手くいかないことが多々あります。
特にDTMを初めて最初のうちは悩むことが多いと思いますので、是非参考にして下さい。
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