8/15 ”塞栓とビーズ” 関明彦がんカテーテル治療医(腫瘍内科、IVR医) | HER2タイプ乳癌ステージ3C 経過観察中シングルマザー

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HER2タイプ乳癌のこと、治療のことなどを書き残しておこうと思います。温かい目で見守っていただければ、幸いです。アメンバー申請、コメント、メッセージ、リブログについては、「はじめに(私のスタンス)」テーマ内の記事をご一読下さい。

ご訪問ありがとうございます。

先の記事でご紹介した関先生の
(肝臓以外の例えば肺)転移への塞栓を含めた、
塞栓術の解説記事です。

ご紹介というより、

  (ご紹介としては、
    8月にリブログしたかったのですが…
    別件、、で出来なかった)

自分用に
リブログさせていただきます。


ビーズの良さは、
その小ささと、表面の平滑性。
従来の塞栓材料よりも、
深いところまで到達します。
それが理論的には、
従来の手前で止まる塞栓材料より、
強い塞栓効果をもたらします。

これは理論であって、
相手が違えば結果は異なります。


まず、腫瘍が1個あったとして、
それを栄養する血管は1本、
ばしっと行ってることはありません。

血管を想像するには、
木の枝がわかりやすいでしょう。
川でもいいです。

上流の太い血管が、分岐を繰り返しながら、
組織に到達します。
その流れの中に腫瘍があれば、
上流から流すことで
腫瘍の中にビーズが入ります。

正常の組織を極力塞栓したくないので、
なるべく塞栓するポイントを
腫瘍に近づけます。
近づけすぎると、
数本の枝を超えてしまって、
部分的な塞栓になってしまいます。

ですので、どのレベルから塞栓するのかが、
高い塞栓効果と、正常組織への負担軽減
にとって大切になります。


塞栓が効果を出す理屈は、兵糧攻めです。

どんな腫瘍も、血液が栄養となります。
(血液で運ばれてくるものが栄養)

(中略)

欲しがるものを与えない。これが塞栓。

血流の多い腫瘍のほうが効果がでます。

一般的に、転移という病態は、
CT上は血流が少ないです。
でも血管造影してみると、
結構血流多いですよ。
黒く染まります。
むしろ、原発性の肝がん
(一番血流が多い腫瘍の代表)よりも
血流がおおい転移もあります。

ただ、血流が多い転移も
不思議とそこに向かう血管、
太くなかったりします。
従来の塞栓材料で勝負しようとすると、
腫瘍の手前で止まってしまうでしょう。
ビーズは
細い血管も通過できる可能性が高く
なるので、
転移でも塞栓効果は高くなりえます

ただ、上に書いたけど、
1つの腫瘍が1つの血管、でありません。
肝臓の転移1つ見ても、
転移を取り囲む全周囲から
細かな栄養血管が腫瘍に到達しえます。
一方から塞栓しても、
他から回り込むことがありえます。

原発性肝癌は一方からがつんと塞栓したら
そこで終わるかもですが、
転移は基本的に
塞栓単独では十分な効果がでません
(散々やってきたので、そういうものです)

不十分に生き残った転移は、
もっと血流をよこせと血管新生因子を放出、
細かな腫瘍血管がどんどん作られて、
腫瘍への血流は結局保持されます。

上記はあくまでもイメージで、
実際はそんな単純な機序ではないのですが、
やっぱり転移を塞栓だけで、
肝転移も肺転移も腹膜播種もリンパ節も、
塞栓だけでは不十分だと思っています。

だからこそ、
動注の併用が必須だと考えてますし、
病気によっては全身化学療法を併用したり、
ビーズを薬剤溶出性塞栓材料に加工して
腫瘍の中から抗がん剤を集中的に放出
させたりします。

これらは、様々な腫瘍の性格、
これは疾患名だけでなく、
同じ病気でも個性がいろいろなので、
ここを考えて攻略していかなければ
なりません。


あと、ビーズの怖いところ。

表面平滑です。そして、
血管造影ではビーズは直接見えません。
通常、造影剤と混ぜて注入しますが、
見えてるのは造影剤自体であって
ビーズではありません。
ビーズは非常に小さく、軽いです。
強く押し出せば逆流して
とんでもないところに流れます。

また非常にビーズは小さいので、

  もし、血管造影で見えないような、
  シャント、これは腫瘍に向かう動脈と、
  腫瘍から体循環に流れていく静脈が、
  異常な吻合をしているもので、
  時に、腫瘍に関係なく正常な臓器の中に
  存在したりします。

  またシャントという状況ではなく、
  腫瘍の血流が非常に多いと、
  腫瘍の中がガバガバで、
  動脈と静脈が自然と吻合するような状況
  にもなりえます。

これに気づかずに
ビーズを動脈から流したら・・・・

静脈にビーズはぶっ飛んでいきます。

その結果、肺、心臓、脳、といった、
虚血に弱い臓器にビーズが飛んで行って、
そこで正常なこれら組織を塞栓します。

どうなるか?

肺梗塞、心筋梗塞、脳梗塞

致命的な合併症が起こり得ます。


肝臓では比較的安全ですが、
肝臓の外は
これら異常な動脈静脈吻合が
血管造影上わかりにくい。
そうすると、術者が気づかずに
患者さんの意識がなくなってたりします。

恐ろしいですね。

本日も肺の塞栓しましたが、

1本の肺の血管をビーズで塞栓するだけで
20分近く時間をかけて
何度も何度も途中で血管撮影をし、
患者さんの容体を
声かけや神経麻痺がないことを確認し、

慎重に、慎重に、めちゃ慎重にやってます。


自分は、このような、
狙っていない臓器を塞栓するような、
異所性塞栓という合併症を、幸い、
10年近くビーズを扱ってますが、
起こしたことがありません。
ただ、
これはラッキーなだけかもしれません。

どんな治療もメリット、デメリット、
そしてリスクがあります。

どうしても、患者さんは
メリットばかり頭にあって、
後者を考えられない傾向がありますし、

またリスクばかり考えて、
メリットのほうがはるかに大きくても
治療に踏み出せないことも多々あります
(典型的なのは、
  全身抗がん剤治療は吐き気が強くて
  毛が抜けてボロボロになる、
  と思い込んで、
  抗がん剤治療ができず、
  体に優しいというネットの触れ込みをみて、
  やってはいけない詐欺免疫治療を受けて
  しまってがん難民となるケース)


うちのセンターでは、
やはりリスクの部分は全部お伝えしてます。
それも義務だからです。
ただ、メリットの部分も、
他の治療と比較して、
もしくは多くの人が実はほとんど
有望な治療がないことが多いので
無治療と比較してのメリットを、
説明させていただいてます。

それでも主治医として
自分も判断に迷うことも結構あります。

治療に絶対はありません。
選択に絶対はありません。

だから難しい。


とにかく、一緒に悩んで頑張って、
頑張ったあとはしっかり休んで、
そしてまた笑顔でがんばって、
人生勝ち取りましょう。
(転記させていただきました。
      一部、文字色は私のブログの定義で付けさせて
        いただきました。青:医学的事実。プラス側面
        赤:医学的事実。マイナス側面。 パープル:共感)



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