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婚姻関係が破綻し、離婚する場合には、夫または妻が家を出て別居することになる。未成年の子どもがいる場合も、それは同じである。父母が離婚を争っている環境に子を置き続けることは、子どもに深刻な被害を引き起こす。子どもの前で争わなければ大丈夫などという人がいるかもしれないが、子どもは敏感で不穏な空気を察知する。

 

ハーグ条約を批准した頃から、子連れ別居に対して、「違法な連れ去り」と非難する人たちが表れた。しかし、ハーグ条約は、子を常居所地に戻して裁判をするという裁判管轄の問題でああって国内の子連れ別居とは関係がない。諸外国では、離婚は一定期間の別居で成立する制度(法定別居制度)がとられており、同居親は別居の時点で決定される。別居にあたってどちらかの親が子どもを連れて家を出たとしても、「子の連れ去り」という問題は生じない。

 

しかし、日本の制度下においても諸外国と同様に解決は可能である。別居親は、当該子連れ別居のことを違法な連れ去りだと思うのなら、監護権者指定・引渡しの審判を申し立てることができる。面会交流の調停を申し立てることもできる。別居後、適時に、離婚もしくは復縁を目指して、協議や調停を行うことは十分に可能である。

 

そして、子連れ別居の適法性については、「子の利益」に反するか否かで判断されるべきという考えが、現在の実務の到達点である。例えば、東京高等裁判所平成29年1月26日判決(いわゆる松戸100日面会交流事件の控訴審判決)は、夫(被控訴人)の意に反する子連れ別居に関して、「なお書き」ではあるが、以下のとおり判示する。

 

「控訴人が長女を連れて被控訴人と別居した平成22年5月6日当時、長女は満2歳4ヶ月であり、業務で多忙な被控訴人に長女の監護を委ねることは困難であったと認められるし、その前の時期、控訴人と被控訴人の婚姻関係も険悪で破綻に瀕していたものであるから、長女の今後の監護についてあらかじめ協議することも困難であったと認められる。」


これは、配偶者に無断の子連れ別居を判断する際の基準として、①子を連れて家を出た場合と、子を残して自分だけが家を出た場合とで、どちらが子の健全な生育に資するか、②協議の実現可能性があったかどうか、という2点を挙げたものと理解されている。子連れ別居を切り取って厳罰化せずとも、家庭裁判所において、その子連れ別居が適法だったのかどうかを判断して、子の利益にかなう監護親を決めれば良いだけのことである。それは、これまでやってきたことと同じであって、とりたてて社会問題とする必要はない。

 

私は、離婚後共同親権の導入に全力で反対することを目的として、8ヶ月前にTwitterを始めたが、これまで観察した結果、離婚後共同親権という看板をかかげながら、求めているのは「連れ去り厳罰化」という主張が散見された。しかし、「連れ去り厳罰化」の主張の行き着く先は、「単独親権」ではないのか。

 

連れ去りを社会問題であるかのようにとらえる人たち-それは、弁護士にも、学者にも、議員にも、マスコミにもいるが、そのような社会問題の立て方は、DV被害者の子連れ避難を萎縮させる。現に、相談者がその不安を口にする。DV被害者にとっては、生命・身体の危険を招くものであり、「連れ去り厳罰化」は何があっても承服できない。

 

そして、「連れ去り厳罰化」を主張する人たちが口を揃えていう台詞がある。

 

「子ども思いで、家事も育児も十分な分担をしてきた、DVもモラハラもしていない。私は一つも悪いところがないのに、妻が子どもを連れて出たのだ」

 

そりゃそうだ。そうでも言わないと、それはただの子連れ別居になってしまう。

「連れ去り厳罰化」ガチ勢は、俺に落ち度があってはいけないのだ。

 

しかし、それは、事実だろうか。

 

 

 

 

このツイートに対して、「私もそこそこ離婚案件はやっていますが、そういう事例が多発しているとは思いませんが、無視していいレベルで少ないとも思いません。一方をあたかも(ほとんど)存在しないかのように扱うのは、不適当かと思います。」という指摘があった。

 

分からなくはない。一般的な弁護士はそういう感覚なのだろうとも推測する。しかし、その指摘が、誰を喜ばせるのか、それで良いのか、その点は、慎重に考えていただきたい。


「子ども思いで、家事も育児も十分な分担をしてきた育メンで、DVもモラハラもしていない夫」が日本にどれだけいるのかという問題はさておき、「子ども思いで、家事も育児も十分な分担をしてきた育メンで、DVもモラハラもしていない夫」から妻が子どもを連れて家を出ていく理由が私には分からないのである。女性のDV加害者もいるだろう、でも、「子ども思いで、家事も育児も十分な分担をしてきた育メンで、DVもモラハラもしていない夫」から、妻が黙って子どもを連れ去る事案が無視できない程に横行しているとは思わない。

 

私のツイートは、ほとんどなかったことにされてきたDV被害者から見た景色を報告する発信である。「子ども思いで、家事も育児も十分な分担をしてきた育メンで、DVもモラハラもしていない夫」という言葉を口にする者がどういう人間であるのか。この国の、家事育児に関する男女の非対称性は甚だくて、DVに遭っている女性ほど、上から目線の夫を上手にたててわきまえることが要求されていることに目を向けてほしいと願わずにはいられない。