あれ? いまは「高床式倉庫」は習わないの?
という人がいるかもしれませんが、「高床式倉庫」の写真や構造の説明は小学校・中学校・高校の教科書すべて出てきます。
問題は「式」なのです。
現在の教科書では、「高床式倉庫」とは言わず、
「高床倉庫」
と、表記するようになりました。
「式」がとれたのはこれだけではありません。
「竪穴式住居」
「縄文式土器」
「弥生式土器」
すべて「式」がとれました。(土器の名称についての詳しい話は、拙著『日本人の8割が知らなかったほんとうの日本史』を是非ごらんください。)
かつては、縄文土器は「縄目の文様があり、黒褐色で厚くて低温で焼いていた」と、説明されてきました。また弥生土器も「模様が簡素で、赤褐色で薄くて高温で焼いていた」と、説明されていました。
ところが、発見されたときは、このようなタイプ別分類が可能だったのですが…
あれ? 縄文時代の土器のはずなのに、薄手だよな、あれ? 弥生時代の土器のはずなのに、わりと黒褐色だな…
というように、発見と研究が進むにつれて、土器の「Type=式」別の分類が不可能になってきました。現在では焼成温度すらほぼ同じであることがわかり、「~式」という説明が難しくなり、時代別に「弥生土器」「縄文土器」と説明するようになりました。
縄文土器だと、草創期・早期・前期・中期・後期・晩期など次期すら細かく分かれるので、
縄文土器の亀ヶ岡式、というように「縄文土器の○○式土器」のような説明をするようになっています。
高床倉庫、の場合は、とりたてて「高床式」としてしまうと、他の「○○式倉庫」を連想させてしまうために、もう「式」をとってしまおう、ということになりました。
そういえば… 歴史ではないのですが、
「リアス式海岸」
も、「式」がなくなり、現在では「リアス海岸」と表記しています。
ただ、こちらのほうは、地理学者の中には異論をとなえる方も多いのです。
実は「リアス式」の“リアス”とは、スペインのリアス=バハス海岸から名前がとられていて、その海岸の「ような」海岸、ということでリアス式、と、表記していました。
ですから「リアス海岸」としたら、ほんとうのリアス=バハス海岸と紛らわしいじゃないか、ということを言われる方も多いのです。
ちょっとレベルの高いことを申しますと、(地理のセンター試験には出ず、二次試験のレベルにはなりますが)、沈降(土地が沈んでできる)海岸は
リアス式海岸とダルマティア式海岸
の2種類があります。前者は海岸線に対して垂直な山脈が、後者は海岸線に対して平行な山脈が沈降してできた地形なのです。
で、リアス式海岸は「リアス海岸」なのに、ダルマティア式海岸は、そのままの表記なんですよ。
なんでリアス式海岸だけ「式」をとるねんっ
ということの説明ができないんですよね…
よって、竪穴式住居も縄文式土器も弥生式土器も、そう書いて誤りか、というと、とりたてて間違いだっ といえないのが実際ですが、教科書の表記は統一されるようになりました。
中学入試や高校入試では、漢字4字で書きなさい、というような字数制限もありますので、まぁ、「竪穴住居」「縄文土器」「弥生土器」「高床倉庫」とおぼえておけばよいと思います。
ただ… 塾の先生などの中には、ご自身が習ったことをそのまま(このように教科書の内容が変わっているのを知らずに)子どもに教えてしまう場合がありますので、たとえばこのブログをご覧になっている受験生の保護者(とくに中学受験生の保護者)は、どのように習っているのか、ちょっと確認されたほうがよいですよ。「式」がついていると、ちょっと古いことを習っているな、と、思ってください。
以前に、ちょっとした「事件」が関東地方の中学受験の「模試」で起こりました。
「高床倉庫」
を模範解答とする設問があったのですが、受験者の多くが
「高床の倉庫」
と、書いていた、ということが起こったのです。採点者(塾側)は、きっと「はぁ? ちゃんと用語として答えろよ」とでも思われたのでしょう、「高床の倉庫」を×として採点されたようです。
ところが、現在、小学校の教科書では「高床倉庫」は、「高床の倉庫」という表記になっているんです。
びっくりするでしょ?
もう、高床倉庫は、歴史用語として小学校では教えないのです。
おそらくそのときの塾の先生はこのことをご存知ではなかったのでしょう。むろん、「高床の倉庫」でも○にすべきであって、中学受験の採点者として申し上げますと、「高床の倉庫」を×にはいたしません。というか、できないのです。「高床倉庫」という語句を小学校では教えないからです。(入試では×になるっ と言われる先生がおられたとすると、ちょっと言い過ぎです。中学受験では×にはなりません。)
ところで…
高床倉庫が「高床」になっている理由はわかりますか?
ネズミなどが来ないように、という説明は実は×です。
ネズミの侵入をふせぐために高くするならば、「ねずみ返し」は不要なはずです。
ネズミさんたちは、高くても、のぼってきますからね。
「湿気を避ける」
というのが正解です。理科で習う「百葉箱」が「高床式」になっているのと同じです。
さらにさらに… 一部の研究家の中には、「高床倉庫」は単なる「倉庫」ではないのではないか?
という意見をおっしゃる方もおられます。
高床でない倉庫もけっこうたくさんあるので、わざわざ「高床」にしているモノがあるのは、別に理由があるのではないか、と…
教科書に「明確にとりあげられている」からといって、「すべてわかっている」ことばかりではない、というのが実際なんですよね。
わからない“未解決”部分は、けっこう含まれているんです。