受験生の皆さん、センター試験の問題にチャレンジした高校生の皆さん、お疲れ様でした!
こちらのサイトでは、大学受験塾の国語講師・吉田裕子が個人的に作成した2019年センター試験古文の現代語訳(現代日本語訳)の速報版を公開しています(2019年センター「漢文」の現代語訳・書き下しはこちら)。
復習などにお役立てくださいませ。
(百合!? 獣と人間の恋!? などとtwitterで見かけて気になった方もぜひ~)
2019年センター試験国語(古文)の現代語訳
【リード文】
次の文章は『玉水物語』の一節である。高柳の宰相には十四、五歳になる美しい姫君がいた。本文は、花園に遊ぶ姫君とその乳母子の月冴を一匹の狐が目にしたところから始まる。
【本文】
折節この花園に……
【現代語訳】
<第一段落>
その頃、この花園に狐が一匹いましたが、姫君を拝見し、「ああかわいらしいお姿だなぁ。せめて時々でもこのようなご様子を、遠くからでも拝見したい」と思って木陰に隠れて立ち、落ち着かずに思い申し上げたことこそ驚き呆れたことだ。姫君が帰りなさったので、狐も、こうしていられるものでもない、と思って、自分の塚に戻った。狐はひたすらに座禅をして、我が身のありようを考えてみると、
「私は前世にどのような罪を犯した報いで、このような獣として生まれたのだろうか。美しい人を見初め申し上げて、叶わない恋路に身を擦り減らし、虚しくも命を落としてしまうようなことになったら恨めしいことだ」
と心配し、さめざめと涙を流し、悩み寝込んでいたときに、身分の高い人に化けてこの姫君に会い申し上げたいと思ったけれど、また一方で思うには、
「私が姫君と結ばれ申し上げたら、必ず姫君の身は(高位の男性と結ばれ得ない)無益な状態になってしまうに違いない。両親のお嘆きもそうだが、姫君が本当に例のないほど素晴らしいご様子であるのに、虚しい状態に貶め申し上げるようなことになったら気の毒で」
と。あれこれ思い乱れて日々を暮らしていたときに、食物も食べずにいるので、狐は身も衰弱して寝込んで過ごした。「もしかしたら拝見する機会に恵まれるか」と、例の花園によろよろと出かけていったところ、人に見られ、あるときは石つぶてを投げ付けられ、別のときには矢を射かけられ、ますます心の苦しみに胸を焦がしたのが、かわいそうなありようである。
<第二段落>
(死んでしまいそうなほど苦しいのに)かえって露や霜として消えていかない命をつらく思ったが、「何とかして姫君のおそば近くに参上して朝夕拝見し、この辛い気持ちを慰めたい」と考えをめぐらして、ある民家のところに、男ばかりたくさんいて、女子がいなくて、子どもがたくさんいる中で一人は女だったらと朝夕嘆いているのをあてにして、年十四、五歳の容貌美しい女に化けて、その女子を欲しがる家に行き、
「私は西の京のあたりにいた者である。寄る辺なき身になり、あてにできる親類縁者もないために、足にまかせてここまでさまよってきたのだが、行けるところも思い付かないので、こちらを頼りにし申し上げたい」
と言う。家の主人の女性が見て、
「気の毒に。卑しからぬお姿で、どうやってここまでさまよい出てきたのだろうか。どうせなら、私を親だと思いなさってください。男はたくさんいますが、女児を持っていないので、日夜欲しいと思っていたので」
と言う。
「そのように言ってくださることは嬉しい。どこを目指して行けばいいか、行けるところもございません」
と言うと、並々でなく喜び、可愛がって家に置き申し上げる。どうやって、ふさわしいような男性と縁付かせ申し上げたいと世話をした。しかし、この娘は全く打ち解ける様子もなく、時々は泣きなどしなさるので、主の女は、
「もしお相手(の男性)がいらっしゃるなら、私隠さず語りなさってください」
と慰めたところ、女の子は、
「そのようなことは全くございません。辛い身が嫌に思われて、このように塞ぎ込んでいる様子なので、人と結婚することなどは思いも寄りません。ただ可愛らしいような姫君のおそばにお仕えして、宮仕えをし申し上げたく思います」
と言うと、
「良いところに縁付かせ申し上げたいといつも申し上げているが、そんな風にお考えなら、何はともあれ、お考えに背くつもりはありません。高柳殿の姫君こそが優美で上品にいらっしゃるので、私の妹が、こちらの御所に使用人としてお仕えしているので、聞いてみてご報告申し上げよう。安心し、何事もお思いのことは私にお話しください。裏切るようなことはし申し上げない」
と言うので、とても嬉しいと思った。
<第三段落>
こうして語らううちに、妹のところの者が来たので、この旨を伝えると、「その旨を申し上げよう」と言って、戻り、姫君の乳母に尋ねると、「それならすぐに参上させよ」とおっしゃる。喜んで、狐娘は身なりを整え参上した。身なりも顔立ちも美しかったので、姫君も喜びなさって、名前を「玉水の前」と付けなさる。
何につけても優美で上品な風情で、姫君の遊び、おそばに朝夕慣れ申し上げ、御手水を献上し、飲食物を差し上げ、乳母子の月冴と同じく姫君のもとに眠り、おそばを立ち去ることなくお仕えした。庭に犬などやって参るたび、狐娘は顔色が変わり、身の毛がよだつようになって、食事もとれず、おかしい様子なので、姫君は心配しなさって、御所には犬をいさせなさらない。
周りには「あまりにおかしな怖がりぶりだなぁ」「この人が姫君のご寵愛を受けなさるさまが羨ましいこと」と妬む人もいるに違いない。
<第四段落>
こうして時が経つうちに、五月半ばの頃、とりわけ月も曇りがなく美しい夜、姫君は御簾の近くにいざりでなさって、ぼんやり物思いにふけりなさったが、そこにほととぎすがやって来て飛び去っていったので、姫君が、
ほととぎすは遠く離れたところで鳴いている
とお詠みになったので、玉水はたちどころに、
深い思いの類で鳴いているのだろう
すぐに「私の心のうち」とぼそぼそと申し上げたので、
「何ごとであろうか、心の中を知りたい。片想いの恋であろうか、また誰かに恨みを抱えている心などか。不思議だ」
と言って、
心も晴れない五月雨の頃には
空にほととぎす
ほととぎすの鳴く音(ね)ではないが、
誰が私の思い寝(ね)の
想いを分かっているだろうか
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◆ヘッダー画像は、「受験生お疲れ様!」の気持ちをこめて、るるてあさんの癒しキャラクター「コウペンちゃん」(非商用利用可)をお借りしました。
◆お話の全編が気になる方はこちらのサイトから
「挿絵とあらすじで楽しむお伽草子 第1話 玉水物語」https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00013653/explanation/otogi_01
「御伽草子・原文繙」 http://www.geocities.jp/makarunepa/113.html
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