今年からJRAが一部オープン競走をリステッド競走(Listed)として格付けすることになりましたが、一体何が変わったのかよくわからない方も多いと思います。
JRAは、「競走体系上および生産の指標としてグレード競走に次ぐ重要な競走であることを明示するため、2019年春季競馬から、オープン競走の一部をリステッド競走と格付けいたします。」と発表。
また、リステッド競走とは、 「パートⅠ国の主要競走は、GⅠ、GⅡ、GⅢのグレード競走とリステッド競走に格付けされており、リステッド競走は、競走体系上グレード競走の次に重要な競走として位置づけられています。 グレードおよびリステッド競走の優勝馬は、セリ名簿においてブラックタイプ(太字)で記載されます。そのためリステッド競走は、グレード競走同様に、生産の指標としても非常に重要な競走として認識されており、その競走一覧は「インターナショナル・カタロギング・スタンダーズ」に掲載されています。」 と説明しています。
はっきり言って良く分からないですね。
実際のところ何かが大きく変わったわけでは無く、これまで大々的に公表していなかったことを周知して、降級制度廃止に伴うレースのランク付けに活用しようというものでしょう。
リステッド競走の明示に伴い、リステッドとそれ以外のオープン特別に差を付けるため、賞金や斤量面で変化が出てくる可能性があります。
別定重量戦における重賞やリステッド勝利の有無により、リステッド競走とそれ以外のオープン特別で差を付け、実績馬はリステッド以外のオープン特別では今より多い斤量を背負わせられることでしょう。
馬券を買うファンとしてはこの辺りぐらいしか関係無いと思います。
事実、リステッド競走は2018年以前からずっと格付けされており、2019年にリステッド競走に追加されたのは3歳限定の15競走、3歳以上の3競走が、
「リステッド・リストリクテッド」
(Listed Restricted) 略記号=LR 制限のあるリステッド
から格上げになっているだけで、新たにブラックタイプ競走として追加されたレースはありません。
→ ICSC公式(2018年格付) https://www.tjcis.com/pdf/icsc18/ICSC-partI_Japan.pdf
※限定の項目については2018年のもの。リステッド競走への格上げに伴い「国際競走」になります。リステッド以上の国際格付けを得るためには性別・年齢以外の出走制限を無くし、国際競走としなければなりません。
2018年日本のブラックタイプ対象レース
以下、日本の競走格付について書いていきたいと思います。
一番最後に、2018年→2019年リステッドレース対比表の画像データとPDFファイルを掲載しておきます。
日本の国際格付体系
ブラックタイプ競走とは勝利または入着することにより、セリ名簿において馬名を太字で記載することができるレースということです。
また、単に「ブラックタイプ」と表記される場合は、下記の様式に沿った1枚のデータそのものの事を指します。
ブラックタイプ競走は、国際セリ名簿基準委員会(インターナショナル・カタロギング・スタンダーズ・コミッティー、International Cataloguing Standard Committee、略称ICSCまたはICS)により国際的に管理されています。
日本においては「日本グレード格付管理委員会」によりレースの格付が行われています。
日本はパートⅠ国であるため、日本グレード格付管理委員会で決定された格付がそのまま国際格付けとなります。
→ 日本グレード格付管理委員会 Wikipedia
ブラックタイプのおかげでセリ参加者は、上場された馬の牝系が繁栄しているか否かが国を問わず一目瞭然となります。
近親に活躍馬が多い馬のブラックタイプには、一番太字の馬名(G競走及びリステッド勝馬)や太字の馬名(ブラックタイプ競走勝馬かG競走及びリステッド入着馬)が多数並びます。
一枚に記載できるデータには限りがあるので、いわゆる良血馬ほど太字馬は多く、そして記載されている先祖は近くなる傾向があります。
5代母や6代母の子孫が記載されているような馬は、一般論として血統的には今ひとつということになります。
セリ名簿における馬名ブラックタイプの表記基準は、国際セリ名簿基準委員会のICSブック(International Cataloguing Standards Book)に基づき当然統一されるべきものですが日本ではそうなっていません。
2018年セレクトセールにおける馬名ブラックタイプの表記は以下のものでした。
下の図は、今年のセレクトセール1歳セッションに上場された「シンハディーパの2017」のブラックタイプです。
ということでシンハディーパ2017のブラックタイプを見てみると、母シンハディーパはJRA1勝、母としては子がまだデビューしておらず繁殖牝馬としては未知数。
2代母*シンハリーズはデルマーオークス(米G1)勝馬、子にオークス(G1)勝馬シンハライト、マーメイドS(G3)勝馬リラヴァティ、ラジオNIKKEI杯2歳S(G3)勝馬アダムスピークが重賞勝馬で一番太いゴシック体。
若駒S(OP、LR:2015年当時)勝馬アダムスブリッジ、中京2歳S(OP、国際格付無し)勝馬ディーパワンサ、モールクームS(米G3)3着馬曾祖母ベイズ、その子ゴールデンローズS(英-L)勝馬ドクトオブザベイ、ラホヤH(米G2)2着馬キッドエドワード等は少し太いゴシック体。
平地特別競走1着馬ミリッサは細字のゴシック体。
それ以外の馬は細字の明朝体。
以上のようになっています。
日本の国際格付体系で示した三角形の図と、セレクトセールにおける序列が異なっています。
セレクトセールにおいては、国際格付けではLRでしかないダートグレード競走が、国際格付けのあるJRAの重賞競走と同等に扱われています。
また、「中央競馬のオープン特別」と一括りにされていますが、ICSブックによればリステッド競走、リステッド・リストリクテッド競走、格付無しの3つに分類されます。
海外のセールにおいはG競走とリステッド競走のセリ名簿における扱いは同格で、勝馬は太字のゴシック体で名前全部が大文字で表記されています。(セレクトセールの表の1番上に該当)
G競走とリステッド競走の2、3着馬は太字ですが単語の頭文字だけが大文字で表記されています。(セレクトセールにおける表記の上から2番目に該当)
2018年タタソールズ・ディセンバー繁殖牝馬セール(英国)のブラックタイプ
INVINCIBLE SPIRITはスプリントC(英G1)勝馬、MASSARRAはエンプレスS(英-リステッド)勝馬でブラックタイプ表記は大文字の太字で同じ。
KodiacはハックウッドS(英G3)2着、Al WidyanはセルビーS(英-リステッド)でブラックタイプ表記は頭文字のみ大文字の太字で同じ。
これは日本が2007年にパート1国になりまだ日が浅いこともあり、ある程度仕方ないことだとは思います。(クラシック5競走と2歳G1が国際G1になったのは2010年からでまだ10年経っていません、杓子定規に適用するならば2008年の日本ダービー勝馬ディープスカイはグレードレースを勝っていないことになります。)
現在、JRAの競走においては新設重賞を除き国際格付けがそのままレースの格付になっています。
問題はダートグレード競走の取扱いです。
2018年ダートグレード競走の国際格付け対比表
2018年において、ダートグレード競走の中で国際G1となっているレースは東京大賞典のみです。
全日本2歳優駿がリステッド競走に格付けされていますが、それ以外の競走はリステッド・リストリクテッド競走でしかありません。
2018年は京都競馬場で行われたJBCクラシック、JBCレディースクラシック、JBCスプリントの3競走が国際競走として開催されリステッドに格付けされました。
今年は浦和競馬場で開催されますが、今後も国際競走として開催し続ければ国際格付けを得ることは可能でしょう。
パート1国になり10年以上が経過した状況で、今後も自国で勝手に付けたローカルグレードを国際格付けと同等に取り扱うのは問題だと思います。
ダートグレード競走はきちんとした手続きを踏んで国際競走となり、国際格付けを取得して行って欲しいと思います。検疫や施設の面で厳しい事情があると思いますが…
日本独自のローカルグレードを使用するのであれば国際格付けと混同しないように、jpnを「ジー」と読ませるようなことはせず、全く別表記・読み方にするべきだと思います。
国際格付けとしてはリステッド・リストリクテッド競走や格付無しだとしても、G(グレード、グループ)競走やリステッド競走よりレベルが低いということでは必ずしもありません。
香港では3つだけリステッド・リストリクテッド競走がありますが、それは香港ダービー(芝2000m、香-LR)、香港クラシックカップ(芝1800m、香-LR)、香港クラシックマイル(芝1600m、香-LR)であり香港4歳クラシック三冠レースとなっています。
香港調教馬限定という制限があるためLRという格付になっていますが、これらのレースの上位馬はそのまま香港競馬のトップクラスになり、Werther、Pakistan Star、Ambitious Dragon、Able Friend等々多数が後の国際G1勝馬になっています。
カナダでも、クイーンズプレート、プリンスオブウェールズS、ブリーダーズSの三冠レースをはじめとした多数の競走がカナダローカルグレード(カナダ産馬限定等)で開催され、こちらはICSブックにおいてLやLRにも格付けされていません。
2018年のICSブックには、リストの一番下に「Non-Listed Black-type races run in 2017:98」と表記されているだけです。
しかし、これらカナダのローカルグレードの勝馬や上位入線馬には、アメリカで2歳チャンピオンで世界的な名種牡馬となったDeputy Minister、ジェロームH(米G1)を勝利し日本でも種牡馬として成功したアフリート、アメリカで重賞8勝(うちG1・4勝)しアメリカ古牝馬チャンピオンとなり繁殖牝馬としても大成功したGlorious Song、牝馬ながらカナダ三冠馬となりBCディスタフ(米G1)を勝利しアメリカ3歳牝馬チャンピオンとなったDance Smartly、BCターフ(米G1)などG1・4勝し日本でも種牡馬として成功した*チーフベアハートなど多数の名馬が出ています。
昨年もクイーンズプレートとプリンスオブウェールズSの二冠を制した牝馬Wonder Gadotが、ケンタッキーオークス(米G1)でMonomoy Girlの1/2馬身差2着に健闘しています。
Monomoy Girlは2018年7戦6勝2着1回、BCディスタフ、ケンタッキーオークスなどG1・4勝、2着に敗れたコティリオンS(米G1)は1位入線降着となったもので他馬に先着を許していません。
無敗の三冠馬Justify、BCクラシックと北米西海岸ダート中距離G1完全制覇を果たしたAccelerateと並び、2018年北米年度代表馬の最終候補3頭に残っています。
2018年→2019年リステッドレース対比表 → PDF