映画『燃えよドラゴン』の名台詞「Don't think! Feel.(考えるな!感じろ。)」
フィィィールの言い方がカッコいいですよねw。深い台詞です。
さてこの言葉、よく引用されて「ごちゃごちゃ考えるな!感覚で勝負だぜ!」みたいな感じで使われることが多いと思うんですが・・・え?ちょっと待ってください。ブルース・リーってそういう人でしたっけ?
ブルース・リーって生涯通じて格闘の理論について考えて!考えて!考え抜いた人だったと思うんですよ。その結果「ジークンドー(截拳道)」という思想に辿り着いたわけだし、それに関する著書も残してます。
ブルース・リーって今風に言えばアスリートです。アスリートやスポーツ選手たちが肉体を鍛えるだけでなく、スポーツ理論を学んで自分のプレイに取り入れていかないと勝てないのは今やもう常識です。
アスリートたちは個人トレーナーをつけて最新のスポーツ理論を学びます。理想のフォームについて研究して自分のフォームを修正していったり、身体つくりにおいては自分の競技に必要な筋肉を鍛え、そうでない筋肉は鍛えずにおいて酸素の消費量をコントロールしたり・・・。それら頭を使ったトレーニングはアスリート達にとっていまや必要不可欠なもの。「Don't think! Feel.(考えるな!感じろ。)」などとは言ってられない。感覚だけではどうにもならないんです。
だからブルース・リーも考えたんです。考えに考え抜いた。では「Don't think! Feel.(考えるな!感じろ。)」って何なんでしょう?なんでそんなことを言ったんでしょう?なんか他の意味があるんじゃないでしょうか?
ところで最近はハリウッドの俳優たちもほとんどアスリート並みのスタンスで演技に取り組んでるらしいですね。それぞれ演技の個人トレーナーをつけて、最新の演技法を学んだり、自分の演技の欠点を克服したり。そして脚本の解釈も個人トレーナーと一緒にやるらしいですね。考えに考えまくって、そして撮影現場に臨む。それが演技のプロフェッショナルなわけです。
そういえば演技ワークショップという場所には、ボクが「Don't think! Feelの人」と呼ぶタイプの俳優さんがたまに現われます。「演技理論とか演技ワークショップとか意味ないですよ!心意気ですよ!テンション揚げてやるだけですよ!」とか言って。じゃあワークショップに何しに来てるんだ?って話なんですけど(笑)。たぶん監督やプロデューサーとの出会いを求めて来てるんでしょうね。
そういう俳優さんはろくに脚本も読み込まないでセリフだけ入れて、芝居も相手役なんか無視して、自分勝手な感情を込めて渾身の自己満足的な演技をします。で「どーすか!?俺の演技!」みたいな感じでくるので、ワークショップ講師が普通にダメ出しするとキレたりするんですよねw。
そういう俳優さんは自意識の塊で、自分しか見えなくなっちゃってるんですよ。だから脚本の意図通りに演じられないし、相手役との連携も取れないし。結果、観客にも届く芝居ができないんです。
そういうタイプの俳優がよくブルース・リーの「Don't think! Feel.」を信奉してたりするんですけど・・・じつは映画『燃えよドラゴン』のこの台詞のシーンは、そのテの修行者に対してダメ出しをしてるシーンなんですよね(笑)。
「Don't think! Feel. (考えるな!感じろ。)」の台詞には続きがあります。「It is like a finger pointing away to the moon.(これは月を指さすのと似ている。)Don’t concentrate on the finger, or you will miss all that heavenly glory.(指に気を取られていると栄光(月)を見失うぞ。)」
この場合「指」とは「自分(の技)」で「月」とは「相手(を倒すこと)」でしょう。つまり「自分の技に集中するな。相手を倒すことに集中しろ!」と言ってるんです。自意識にとらわれるな!と言ってるんです。
となると「Don't think! Feel.」はこんな意味に解釈できるんじゃないでしょうか?
「自分の技をどうするかを考えるな。相手がどう出てくるかを感じて的確に対応するんだ。」
じゃあ演技についてこの言葉を応用した場合、「指」とは「自分の演技」で、「月」は「芝居をモノにすること」でしょう。「自分の演技の事ばっかり考えてると、肝心の芝居をモノにできなくなるぞ」っていう話になりますね。・・・となると演技における「Don't think! Feel.」の意味はこんな感じに解釈できるんじゃないでしょうか。
「Don't think! Feel.
(自分の演技をどうするかを考えるな。芝居が求めるままに演じろ。)」
なのでボクはブルース・リーのこの台詞は試合中(本番中)限定のことだと思ってます。
本番以外の時は脚本について、そして自分の演技について死ぬほど考えに考え抜く。そして現場に行って本番が始まったら「Don't think! Feel.」だと。
あれ?でもこの言葉ってどこかで聞いた事ないですか?
新人俳優の頃にみな一度は言われる定番のアドバイスがあります。
「家でとにかく脚本を読み込んで演技プランを考えまくりなさい。でも本番ではそれを全部捨ててまっさらで演じること。」(これ最初に言ったのは誰なんでしょうね?)
つまりブルース・リーの「Don't think! Feel.」は「全部捨てて現場に臨みなさい」というこのアドバイスと同じ意味だったんです。そう考えると面白いですね。
俳優は、本番以外の時間は「頭」を使いまくって脚本の解釈や自分の演技について考える。そして本番中はもう一切頭を使うのをやめて「心」をつかって演じる。そういうスタンスが良いのではないでしょうか。
小林でび
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