「そこの君、ちょっと待ちなさい!!!こらあ!、止まりなさい~!」 大人の怒号がした。
100円玉を身にまとった彼の背後から、どこかで聞いたことのある声色の怒号。
これははたして、誰の声に似ているのか?
脳味噌をいきなりトップギアに入れ、必死で思い出す。
答えはすぐ出た。年末の紅白歌合戦で見た森進一の声に限りなく似ていると思った。
キメゼリフで威嚇しようとしているわりには、どこか頓狂で憎めない怒号。まろやかな怒号。
背後から、そんな非力な怒号が発せられてから、わずか約0、3秒の間に、
冷静な分析結果が、脳内を駆けめぐった。
しかし、どうやらこんなことを、考えている場面ではなさそうだ。
・・・・・(早く、逃げろ!!!)
思わず、自分が、自分に対して、心の怒号を浴びせた。
もちろん、森進一では決してない。 北島三郎ばりの超弩級の怒号だ。
北島三郎 a.k.a sabuyang。 紅白歌合戦で、幾度となくトリをつとめる演歌界の大御所。サブヤン。
あの「永谷園のお茶漬けのり」のCMの北島三郎は時代を映すPOP STARである。
一瞬にして、気持ちが引き締まった。
走るしかない。ただひたすら。
大丈夫。ゆるぎない自信が、心臓を占拠した。
天はまたしても、我に味方してくれた。
偶然今日は、100メートル競争で1位になった時の、最新のNIKEを履いている。
「スニーカーブルース」で近藤真彦が履いていて、初めてNIKEの存在を知った。
そんなNIKEも、北島三郎 a.k.a sabuyang と同様、
ある意味、存在がPOP STARだ。
しかし、どうやら、こんなことを考えている場面ではなさそうだ。
現実は、悪いことをして逃げまどう一人の少年。
森進一に、追いかけられようとしている、NIKEを履いた北島三郎 a.k.a sabuyang。
無制限短距離競争の勝負は、みえていた。
しかし、とにかく走った。 そして、走った。 たまに、チャリン!チャリン!
ポケットからこぼれ落ちる100円玉の残念な音色。チャリン! チャリン!
なぜか、チャリン!をカウントする余裕があった。
まだチャリン!は5回だけだ。おそらく500円。間違いない。暗算は得意なほうだ。
あと、どれくらい走ればいいのだろう・・・。
いったい、何処まで逃げればいいんだろう・・・。
スニーカーブルースが聴こえてきた。
さて、この続きは、また次回。
つづく。 (ハズ)

