
白銀の光が、静かに部屋を満たしていた。
星々を刻んだ天球儀が淡く輝き、古い魔導書の表紙には、忘れ去られた時代の紋章が浮かび上がる。
その光の中で、二つの影が向かい合っていた。
一人は、黒衣の僧兵。
**チョコ・ノクティス・ルミナス。**
かつて魔王討伐の旅に加わり、その拳で数多の魔物を打ち倒した歴戦の戦士。
そして、もう一人。
**アイ・ノクスフェリア。**
十七年前、勇者たちによって討ち果たされた魔王その人である。
今では二人とも猫の姿をしている。
チョコは漆黒の長毛をまとい、魔王は縞模様の小さな身体で、白銀の寝台に横たわっていた。
「……随分とくつろいでいるな」
チョコが低く告げる。
魔王は薄く目を開けた。
「何か問題でも?」
「ここが、かつてお前を討った者たちの住まいだと忘れたか」
「忘れるものか」
魔王は静かに答えた。
「だからこそ、ここにいる」
その言葉に、チョコは沈黙した。
かつて世界を闇に沈めた存在。
その魔王が今、柔らかな寝台の上で、何の警戒もなく身体を横たえている。
十七年前、誰がこんな未来を想像できただろう。
「チョコよ」
「何だ」
「お前は、いつまで我を見張り続けるつもりだ?」
「必要がなくなるまでだ」
魔王は小さく笑った。
「相変わらず、つまらぬ男よ」
「お前も変わらんな」
しばしの沈黙。
白銀の魔力が、二人の間を静かに流れていく。
その奥底で、かつて封じられた力が微かに揺らいだことに、チョコは気づいていた。
だが、何も言わなかった。
魔王もまた、何も語らない。
かつて拳を交えた二人。
敵として出会い、今は同じ屋根の下で暮らしている。
それが運命なのか、あるいは何者かの意志なのか。
答えはまだ、誰も知らない。
ただ一つ確かなことがある。
**魔王アイ・ノクスフェリアは、今もそこにいる。**
そして黒衣の僧兵は、今日も静かにその姿を見つめている。
白銀のウィザードの物語は、まだ終わらない。