いよいよ、僕が握手する順番が近づいていた。
あと10番目という辺りで、急に加速したように感じ、落ち着いていたハズの僕の緊張は、一気に高まった。
ヤバい! ヤバいって!
早い! 早いって!
カウントダウンが始まり、残り5人、4人となった時、急にその列から逃げたくなった。
こんな気持ちは、小学校のお注射以来だ。
12月に、マカオタワーからバンジージャンプをするっていうのに、こんなんで、果たして飛べるのだろうか?(予告)
ついに、自分の順番が回ってきた。
まあやは、前の人に手を振っており、まだ、僕には気づいていなかった。
この間、2秒くらいだったろうか。
僕は、その2秒間で気持ちを高め、覚悟を決めた。
「 行くしかない!」
僕はもう、1秒の時間も持ってはいなかった。
「 まあや~~~、来たよ~~」
自分でもビックリするくらいの、大声を出してしまった。
まあやは、少し驚いたようにこちらを見て、2度 3度 まばたきをした。
そして、僕の顔を見て、服装を見て、首から下げてる写真を見て、自分の記憶のパズルを、一本の線で繋ぎ合わせているように見えた。
755での出題
そのわずか1秒あるか無いかの時間で、何かを思い出し、、
「あ~~~~~~」
僕に負けないくらいの大声を出したあと、微笑んでくれた。
その瞬間、全てが報われたと思って、嬉しくなった。
その後は放心状態で、握手したのも憶えてないが、多分こんな事を言ってたと思う、、
ただ一方的に、そんな事を言っていた僕に、まあやは 優しく微笑んでくれた。
本当にあっという間の時間が過ぎ、
「終わったぁ…」
と 力が抜けてしまった。
いや、まだ終わってはいなかった!
当然居るのは、分かっていたが、その瞬間だけ忘れていた次のメンバーが、そこに立っていた。
僕の推しメン、星野みなみ!
やっと逢えた、特別な存在!
和田まあやで、全てを出し尽くした僕には、もう、何も残ってはいなかった。
全く頭の切り替えが出来ていないまま、僕は彼女と握手をしようとしていた。
何も残ってない中、やっと挨拶の言葉をしぼり出した。
握手に入ったが、みなみは、僕の顔を見たあと、首から下げてる和田まあやの写真を、いぶかしげに見ていた。
マズい!
推しメンには、見られてはいけない!
僕はそれを隠したかったが、不可能だったので、もう諦め状態だった。
そんなこともあり、僕はド緊張してしまい、まあやとはフランクに喋れたのに、みなみには敬語になってしまった。
「応援してます。頑張ってください…」
多分そんな感じの事を、言ったんだと思う。
剥がされてからホッとしたのか、別れ際、一番伝えなければいけない言葉を、思い出し、、
自分でも、今さら何を言ってるのかと思った。
全く説得力もヘチマも無かった。
ほとんど捨て台詞に近かったが、それでも彼女は、、
ぎこちない僕に、微笑んでくれた。
「終わった」
わずかな時間で、いろんな事が、いろんな意味で、全て終わってしまった。
これが、握手会に全く行った事がなく、全く何も分からないまま、握手をしてしまった男の、結末だった。
「やはり、来るんじゃなかった」
自分でも、予想外の言葉が、口をついて出てしまった。
僕にはまだ、握手会はハードルが高かったようだ。
あんなに逢いたくて来たのに…
あんなに一生懸命、用意して来たのに…
やっとの思いで、たどり着いたのに…
僕はすぐにでも、その場から立ち去りたくなった。
握手会は 終了しようとしていた
つづく
#終わったんじゃないの?