恐山とかイタコとか。無宗教とか殺人とか。みんな幸せになればいい。 | 拝啓 おばあさま

拝啓 おばあさま

職なし、家なし、胸なし。全国を車でふらふらしています。   おばあちゃん。 ほら、孫はこんなに元気です。

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青森県。

猿にガン飛ばされ、あげく無視されました。

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雨の函館を抜け、船が到着した青森県大間は、日差しが痛いくらい眩しかった。

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それなのに、恐山に入ったとたん、豪雨強風。坂も歪曲もはげしい山道を呪われてんのかとびくびくしながら霊場まで辿り着く。
霊場は宇曽利山湖のとなりにあるのですが、湖、大荒れ。
そして卵の腐ったにおい。硫黄だ。

三途の川(って名前の川)を越えて、霊場内へ。

それが、霊場恐山の敷地内に入ったとたん。まあ、晴れ。

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しかも今日はイタコさんもいらっしゃるそうで、寄ってみる。
おじいさんの奥さんを寄んでいるそう。その他には2人しか並んでおらず、口寄せ中のイタコさんもたんなるばあさん。もそもそと喋っている。
うーん。3000円か。迷うな。せっかくだからやってもらおうか。
田口ランディさんのイタコ体験を本で読んでからとても興味があったからかなり悩んだけれど、よくよく考えたら、口寄せしてほしい人いなかった、あたし。
無理やり記憶をたどって死んだ知り合いを捜してみるけど、どうもピンと来る人がおらん。しかもなんか、ただのばあさんだし。
うだうだ迷って立ち尽くしてるうちに、次の人の口寄せがはじまった。

イタコさんが呪文を唱えだしたとたん、ぞわぞわぞわ~っとなにかが背中を這い上がって身体をめぐった。なんだこれ、やばい。
口寄せはヤメだ。中途半端な気持ちでやると、気持ち悪くなりそうで、やめた。
本尊に行く途中にある硫黄の温泉に入って汗を流した。

そこから、霊場内を歩く。
そこかしこに観音や地蔵がいて、そのわきには鮮やかな彩りのかざぐるまが立てられている。お参り客の賽銭や、亡くなった人の名前を書いた石が供えられている。

ここにはたくさんの地獄がある。
『血の池地獄』『重罪地獄』『修羅王地獄』…
死者はそこを歩いてゆくのだろう。

「足は痛くありませんか」
「ずーっと一緒だよ」
そう書かれた、ぞうりや手ぬぐいが添えられている。
お酒に栄養ドリンク、ヤクルト、ご当地ジュース、カルシウムせんべい、ヨーグルト。
死んだ人が無事に死者の道を歩いていけるように、たくさんの人の願いと気遣いが置かれている。




生きている人たちの思いを見て、わたしは、1人の女性を思い出した。
バラバラにされて、トイレに流されてしまった23歳の女性。

犯人が捕まって、初公判の日。わたしは裁判所にいた。先輩上司に呼ばれたからだ。
となりの席には、殺された女の子のお父さん。そのとなりに遺影を抱いた母。前の席には同居していたお姉さん。
遺族の様子をメモするために、わたしはノートとペンを取り出した。

淡々と話されていく残酷な殺害風景、下水道から発見されたバラバラの遺品。
その間わたしは、ずっと残されたご家族のようすを見ていた。そしてそれを、片端からメモしていった。
弁護士の話、お姉さんの証言…聞こえることはただ文字にすることに集中した。
壁に残ったかすかな血。凶器の包丁とまな板。下水管から発見された、彼女お気に入りのブランドの文字は細かく切り刻まれていたので一部しか見えない。…目に見えるものは、ただ景色として見ることにした。
そうしないと、あまりにもやりきれない。私は無責任に泣くことができない。だって他人だもの。

2時間が経ち、休憩。
カレーなんかよく食べられるなと先輩上司の昼ご飯を見ながら、和風パスタを食べる。ゆでられたパスタがなにかに見えて気分が悪くなりそうな気もしたし、平気でたいらげられそうな気もした。
麻痺してんのか麻痺させようとしてんのか、よくわかんないなかで言葉少なに昼ご飯を食べて、私は別の場所で仕事があったので、霞ヶ関をあとにした。


あの人は、ちゃんとこの道を歩いたのかな、と、数ある地獄の間を歩きながら思う。べつに死後のことも宗教も、なんにも信じちゃいないけど。


ご家族は、イタコさんに口寄せとかしてもらったのかな。
それとも、そんなことしたくもないかな。
わたしにはわかんない。



おばあちゃん。
大学を卒業して、ニートもフリーターもやって海外へ行ってたりなんかして、帰国したあたしはしばらくこんなことをしてましたよ。その後もいろんなことをしていたけれど、わたしが東京でなにしてたかなんて、具体的にわたしの口から話したことはなかったかもしれない。
けれど、お母さんから聞いてたかな。



まあ、せっかく日本三大霊場の恐山に来たのだから、本当かどうかなんて置いておいて、もし、もしこの地獄のなかを死んだ人が歩いていくのなら、うちらもそうなんでしょう。

いくつもの地獄を抜け、“胎内くぐり”という道を抜けたときs、わたしはうまく息が吸えなくなって、空腹なのか硫黄の臭いなのか生理前だからか、なんだか気持ち悪くなって、最後の坂を駆け下りて車に戻った。

もし死んだ人が地獄のなかを歩いていくのなら、ちょっとわたしはうまく進める自信がないかも。とちゅうで「めんどいもうむり」とか言って座り込んじゃうかも。


あの女性はどうだったろうかと空想してみて、
あー、そっちには、わたしのおじいちゃんとかおばさんとか、たくさんの人がいるから大丈夫か、なんて思った。



青森入って早々、なんか感慨にふけってます。
でも、ここはそういう場所なんかな、と思って。

本州めぐりは始まったばかり。
楽しみです。


これから、六ヶ所村へ向かいます。
「六ヶ所村ラプソディー」って映画あったね。
その、六ヶ所村だ。
イーモバ電波の届かない六ヶ所村。


行ってきます。

みんな、大好き。



拝啓 おばあさま
                         恐山、極楽浜より





敬具