あの日の契約 | THE ZUTAZUTAZのブログ

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昔僕は、悪魔なのか、蜘蛛なのか、期末テストなのかわからない、何かとても凶々しいものと契約をした。
ある日とても深い所に落っこちた。
そしてそこが谷底だって分かるよう、僕を覆うように周りは硬い壁に囲まれていた。
とても狭い場所だったんだ。
そこから抜け出すか、そこで暮らすかの選択がまずあったが、僕はもともとの場所に戻ることに決めた。
エスカレーターもあるよ、と見知らぬ親切な老人も居たが、僕は無視して、爪を引っ掛けながら谷底から天空遥か地上へと登り始めた。
しかし、駄目だ。
すぐに落っこちてしまう。
傷を一つずつ増やしながら、何度も挑むものの、同じことの繰り返しだ。
ここに陽は登らない。夕日は差さない。月が照らさない。
時間の、出来事の、目安になったのは、そんなことを繰り返している途中、気付いたら息をひきとっていたエスカレーターじいさん。もうエスカレーターにも乗れない。
そして僕の爪10本すべてが剥がれた頃、悪魔なのか、蜘蛛なのか、期末テストなのかわからない、何かが眼に映った。そこにあるのかはわからないが、確かに眼に映った。
そいつは僕の心に問いかけてくる。

【死にかけてんのか?】

【あぁ、まーな。もう爪もないし、どーすりゃいーか、まるでわかんねぇ。お手上げしたいけど、衰弱して腕も上がらねぇや。死ぬのは楽だ。でも死にたかない。】

僕は心をなぞられる感覚を覚えた。
その感覚は僕から抜け出し宙を移動し、言葉に変換され、奴が汲み取る。

【教えてやろうか、這い上がる方法を....】

【そんなものが、あるのか?】

【あぁ、あるね。
まぁ俺がちょいと不思議な力を使うんだがな。さ、どーする、苦しいのはどっちも一緒だ。
地上に戻ろうが、死ぬまでここに居ようがな。動くか、動かないかだけだ。
ただ、
動くと色んなことがあるぜぇ...。】

【教えてくれよ、地上に戻る方法!生き方はそこで感じとる。】

【死にかけたことを詩に描け。】

【なに?】

【描くのだ、詩に。
お前の国の言葉の中から語句を選択して詩を描くんじゃない。世界のどの国の話でもない。お前の心を表すのが、たまたま言葉だったってゆう様な、な。
心は無限であり無形なのだ。
瞬間を描写するのだ。
二つのキモを伝えておく。
心が様にならない感受性しか持たないのならば、一瞬を切りとってもなんの価値もない写真でしかない。
また、切りとる側の角度もお決まりじゃあ何も面白くない。】

そいつは見たこともないような手から人差し指らしきものを立たせ、言葉に合わせ、チッチッチとゆうジェスチャーをした。

【死にかけたことを詩に描け、か。
分かったよ、あんたのゆう通りにしてみる、さ、ここから出してくれ。
....しかし、あんた悪魔みたいな形をしているのに、いい奴だな。】

【まぁな、地上には悪い奴が腐るほどいやがるからなぁ。お前だって好きでこんな谷底まで落ちて来たわけじゃないだろ?
あ、そうだ。】

【どーした?】

【別に言わなくてもいいことなんだけどよ、お前の魂の色は、中原中也ってやつに似てやがるぜ。生きる環境が違うから、別物だけどな、笑えるほど似ている。】

【?あぁ、ありがとう。】

そしてそいつは呪文のようなものを唱え、僕の身体は宙に浮き、地上へと上昇していった。
地上に着くと、谷底へと続く穴は、ゆっくりと消えていった。
見渡す街は驚くほどいつもと何も変わっていない。
相変わらず、相変わらず、だ。
ショーウィンドウに自分の姿が映った。
背中のジャケットには、暗い谷底で一度見た、手の形が薄っすらついていた。
僕がTHE ZUTAZUTAZのヴォーカリストになるのはそれから約三年後。
ひたすらに歌詞を描いている。
曲を作っている。
歌っている。

これは、嘘みたいな、本当の話。
by, vo.虎独野アルジ








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