先日、京都市にある定子顕彰碑に行ってきました。大の定子ファンである私にとってはまさしく聖地巡礼です。同行者には、「君が定子ファン? アンチファンの間違いではないのか」と言われましたが、心外な話です。私はただ、「一条天皇の定子純愛説」と、「平安時代の後宮サロン=定子サロン」という風潮を否定しているだけで、定子のサロンの女主人としてのリーダーシップ、清少納言という才媛を生み出した功績等を高く評価していますので、定子の全てを否定しているわけではありません。

 ちなみに三枚目の写真は定子顕彰碑の隣にある「然花祥院」さんのカステラです。カステラはとても美味しかったです。顕彰碑に行くときはぜひお立ち寄りください。(回し者ではありません)

 

 

 

 
 さて、個人的に疑問視しているY氏の「定子純愛説」ですが、2001年4月勉誠出版から発行された「枕草子大事典」P120に、「この可憐なカップルは(中略)稀に見る「純愛」を育んでいく」と書かれている(「一条天皇とその後宮」より)ので、別にY氏が言い出したことではないようです。この点、Y氏の著書「源氏物〇の時代」(2007年発行)P35「筆者のみならずこの時代を研究する人々の多くが口にすることだ」の記述の通りなので、あたかもY氏の提唱であったかのように当ブログに書いてしまったことは私の誤りなので、ここに訂正してお詫び申し上げます。
 ただ、一条天皇と定子純愛説を研究者の方々の何割が支持しているのかよく分からない上、個人的には純愛説には否定的なので、当ブログではそのスタンスは変えない方針でいきたいと思っています。一条天皇が定子だけを愛しているなら、定子が命懸けで第三子を産んでけっこうすぐに末の妹に手を出して懐妊させるなんてやりません。この話も情報源は栄花物語で信用ならない部分はありますが、その部分も踏まえて地道に勉強していきたいところです。
 
 ただ、平安時代の後宮サロンの文学は定子サロンだけではないですよ~! 大斎院選子内親王のサロンもありますし、漢文に優れた女性なら貴子&定子より先に有智子内親王(嵯峨天皇皇女)がいますよ、ということも伝えたいです。また、2021年3月に発行された「平安文学の人物と史的世界」(高橋由記著、武蔵野書院)P123では、堀川中宮(円融天皇中宮)の文化圏の質の高さについて、「中宮定子やその文化圏に勝るとも劣らない印象を受ける」という指摘がなされています。
 
 大河ドラマも終わったことですし世の中には平安時代に関する本や情報にあふれていると思います。定子サロン以外にも面白い要素はいっぱいありますので、平安時代の面白さに触れていただきたいです。上から目線に感じられたら申し訳ないです。私も頑張ります。
 

 

 感想を書く前に、個人的なスタンスを少々書いておきます。

 

 私は当該ドラマは本放送と見逃し配信のみ視聴です。公式サイトの解説、総集編、ガイドブック、俳優さんのトークショー、インタビューなどは一切見ていません。あくまでドラマ本放送を見たときに思ったことを大事にしたいからです。

 色々なスタッフが携わった商業作品である以上、気に入らない展開があったとしても、脚本家さんや時代考証の先生を責める意思は毛頭ありません。脚本家さんや時代考証の先生にドラマのすべてを決める権利はないと考えています。

 以上のことを踏まえて読んでいただければ、と思います。

 

 

 さて。

 良かったところ。

 衣装やセット、小道具は本当に素晴らしかったです。美しい平安装束を拝めることは至福の一時でした。

 平安時代の政争劇も、まひろと三郎が絡まなければ面白かったです。物議をかもした、道兼による〇人も、「まひろと三郎が結婚できない理由」「道兼が汚れ仕事を引き受けるきっかけ」と考えるとそれなりに納得のいく設定ではありました。

 

 中関白家の描写も良かったですね。

 俳優さんも皆ハマリ役ばかりで、特に定子役の高畑充希さんは儚げな美人で、一条天皇が夢中になるのもよく分かりました。

 一部の中関白家ファンが、「中関白家の扱いが悪い」とストーリーについて苦言を呈しているのをネット上で見かけましたが、一方で、私が知る限り、キャストについて不平を言っているのは見当たりませんでした。熱烈な中関白家ファンも黙らせた高畑さんの美貌と演技……本当にすごいです。

 一条天皇が政務をなおざりにして定子や娘のところに通う、という設定も、中関白家ファンからは抵抗があったようですが、「そりゃ高畑充希と可愛い娘が待っていたら仕事もなおざりになるよな…」と納得できてしまいました。

 ……というより、「出家した女性を追いかけて懐妊させる」という一歩間違えればストーカーまがいの行いを、美しい恋愛の描写に転換させた、演出や演技や脚本は本当に凄いです。しかも定子の末の妹(定子崩御後一条天皇の手が付き懐妊してしまう)の存在もカットされ、同じく一条天皇の子を懐妊した元子も懐妊の事実はドラマでは触れられることなく、定子の引き立て役としか登場しなかったことを考えると、定子の扱いはVIP待遇と言えるのではないでしょうか。

 隆家も刀伊の入寇で活躍してカッコよかったですね。…まあ、現実的に考えれば、隆家が陣頭に立って異民族と戦うことなどあり得ないでしょうが、おそらくアクションシーンを入れてメリハリをつけたかったのでしょう。個人的にこういう改変は大歓迎です! カッコいいですから!

 伊周は…あくまで三郎視点での話作りだと、ああいうポジションになるのはやむを得ないとは思います。イケメン貴公子から呪いマタハラキャラまで、俳優さんの演技の幅の広さを見せてもらえました。

 

 

 次回に続きます。

 個人的に興味のある一条朝を舞台とした大河ドラマ「光る君へ」が終了しました自分が生きている間は見られないであろうと思っていたので本当に嬉しかったです。普段、本や展示物でイメージしていたものが映像として見られて感慨深いものがありました。 

 以下、批判も交えながら主な感想を書いていきたいと思います。  

 俳優さんの演技は圧巻でした。さすがプロの仕事! まひろ役の方は左利きなのにこのドラマのために右利きに矯正されたと聞いて驚きました。また、三郎役の方の顔芸や、出家シーンでカツラを使わず本当に剃ったと聞き、体を張っているなと思いました。  

 若干不安だった実資役の方もまさかのハマリ役! ラストの方になると文字通り「朝廷の重鎮」というオーラを醸し出していて頼もしかったですね。はん〇ゃ金田さんも思ったより平安装束が似合うと思いましたし、オリキャラの乙丸夫婦やいとさんもいい味を出していました。  

 天皇を演じられた方々もハマリ役ばかりでしたが、もったいないことに、最終回でいきなり彰子が言及していた「皇統の分裂」がほとんど解説されていなかったため、各天皇同士の関係もよくわからず、天皇の行動の理由について、初めて平安大河を見る視聴者の方には説明不足だったかな? と思いました。  

 

 もうネット上でも語りつくされていると思いますので私が今更言及することでもないかもしれませんが、一応補足しておきます。  

 天皇は「父から子へ」即位していくイメージがあるかもしれませんが、この時代は「兄弟間継承」も割とありました。「光る君へ」第一話当時の天皇は円融天皇(一条天皇の父親)でしたが、円融天皇は、もともと兄冷泉天皇の第一皇子(花山天皇)が即位するまでの「つなぎ」の天皇という扱いでした。ところがドラマでは冷泉天皇の存在すら言及されていなかったため、円融天皇と花山天皇の関係について「親子」と誤解されていないかな? という懸念はありました。(本当は叔父と甥)  

 兄弟間で家督相続というのはお家騒動の元になりやすいもので、円融天皇も兼家の次女詮子との間に皇子(後の一条天皇)が産まれると皇位につけたくなったのでしょう、兼家はもっと分かりやすい野心家ですので、円融天皇にも花山天皇にも譲位してもらって、自分の幼い孫に即位してもらって、国政を牛耳りたくなったのだと思われます。さすがに円融天皇の食事に毒を盛ることはしなかったでしょうが、女好きで自由奔放で、しかも若い花山天皇が弘徽殿女御の死に落ち込んでいるところを好機ととらえ、出家に追い込んだのは確実でしょう。先ほども書きましたが本来は花山天皇のほうが嫡流なので、彼が長く在位して、皇子がたくさん出来れば兼家は困るわけですから。  

 こうして兼家の野望通り一条天皇が即位し、冷泉天皇と兼家の長女超子の間に産まれた三条天皇が皇太子となりました。兼家は天皇・皇太子の祖父となって権力を握れれば良く、皇統がどうなろうとどうでもよかったのでしょう。(そしてその考えは三郎も同じという…)  

 一条天皇が定子や彰子とイチャイチャしている間ずっと三条天皇は皇太子として過ごしてきて、彼には「私こそ嫡流である」というプライドがあったことでしょう。彼には兼家娘、道隆娘原子(定子の妹)が入内していましたが二人とも子供を産まず亡くなり、唯一、済時娘だけが子宝に恵まれている状態でした。もちろん、三郎も次女を入内させましたが皇女しか産まれず、三条天皇は済時娘の皇子たちに跡を継がせるために、済時娘を無茶をしてでも皇后に立てたのでしょう。もちろん、長年連れ添った済時娘に対する愛情もあったと思います。

 三条天皇が体調が悪化しても三郎にいびられても、頑なに譲位を拒んだ理由をドラマの中できちんと書いてくれなかったのはもったいないと思いました。三郎次女はオッサン呼ばわりしていましたが、三条天皇役の方はイケメンなので、何が不満なのかよくわかりませんでした(苦笑)。花山天皇役の方が強烈でインパクトのあるキャラクターを演じてくださったので、せめて「花山天皇の異母弟」という説明は入れて欲しかったですね。 


 和泉式部の恋の相手である「宮様」も、三条天皇の同母弟たちであるという説明もあれば、もっと良かったですね。

 

  

 思ったより長くなったので次回に続きます。