第1516作目・『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』

(2024年・日本)

〈ジャンル〉アニメ/SF



~オススメ値~

★★★☆☆

・原作とは異なるオリジナルのエンディング。

・自分が信じる道を生きるおんたんの強さ。

・来るべき日が訪れる、驚愕のエンディング。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『兵器による攻撃を受け、生き残った侵略者たちが街中に侵入した。政府や侵略者狩りの民間団体によって、侵略者たちは殲滅されていく。大学に入学したおんたんと門出はオカルト研究会になんとなく誘われてしまう。学内で知り合ったふたばと仲良くなると、ふたば活動する侵略者保護団体の活動も知るようになった。ある日、人間社会に溶け込んだ侵略者の大葉と出会うおんたん。大葉は母艦の「炉」が崩壊に近づいており、暴発して墜落する危機にあることを知る。また、大葉はおんたんこそが門出を救うために世界の滅亡をもたらした張本人であることを知るのだ。夏、オカルト研究会は合宿として海辺の港町に訪れた。おんたんはそこで大葉への好意を告白する。しかし、大葉はおんたんの忘れていた記憶を伝える。かつておんたんが門出を失っていたこと、そして、門出を救うために当時知り合った侵略者の助けを借りて並行世界の自分自身に意識を乗り移らせていたことを教えるのだ。


〜君は僕の絶対だから。〜


《監督》黒田智之

(「ぼくらのよあけ」)

《脚本》吉田玲子

(「映画「けいおん!」」「リズと青い鳥」「劇場 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」)

《声の出演》幾田りら、あの、島袋美由利、大木咲絵子、和氣あず末、白石涼子、入野自由、内山昂輝、坂泰斗、諏訪部順一、竹中直人、ほか





【世界を捨てても、揺るがない願い】

驚いた。
でも同時に、「来たるべき日が来た」だけなのだと知った。

ある日、東京上空に「母艦」と呼ばれる巨大な未確認飛行物体が停留することとなった"非日常"の中の"日常"を描いた前章に続き、後章である。
原作とは異なるエンディングとなっているとのことで、劇場版でしか見られないラストが楽しめる。

前章ではおんたんと門出の出会いとなった小学校時代のエピソードが語られており、そこでは門出が暴走してしまい、取り仕返しのつかない悲劇が生まれるところが描かれていた。
それは今現在のおんたんと門出の時間軸にはどう考えても繋がらない過去の記憶であり、謎に包まれたまま前章は幕を閉じる。

後章ではその辺りの理由と、そしていよいよ母艦から降り立ち、地上で姿が見られるようになった侵略者たちの視点に立ったストーリーも併せて展開されていく。
そのどちらの鍵も握るのが、前章の後半に突如として現れた大葉くんである。アイドルグループのメンバーの姿形をしている彼なのだが、その中身は侵略者。8.31の事故に巻き込まれて亡くなっていた大葉くんの体を借りて侵略者が生き延びていたのだ。
そんな大葉くんと出会ったおんたんたちは、彼を侵略者だと知った上で匿い、行動を共にする。
侵略者にとって人類は知能が低い存在で、武力を持って侵略者の殺戮を繰り返す脅威の存在であった。しかし、おんたんたちと出会った大葉くん(型侵略者)は、人間は時として平和的で優しい者もいることを再認識する。

侵略者たちは人類より遥かに素晴らしい科学技術を持っている。
その技術によっておんたんの過去の記憶を覗いた大葉くんは、彼女がかつて門出を失い、その当時地球に訪れていた調査員の侵略者の導きにより、時間軸を超えて意識だけ飛ばしてきた異質な存在であることを知るのだ。
つまり、おんたんは門出を失った違う次元の世界から意識のみ転送されてきた存在なのだ。

一方で、それは門出という一人の少女を救うことの代償に、世界を破滅へと導く可能性のある旅であった。おんたんがそうまでして並行世界を超えることを望んでいたのは、門出を救いたいという一心に過ぎなかったのだ。
激しい後悔を背負い、心強い兄の一言に心を押され、彼女は世界を捨てる覚悟でこの世界へやって来た。
門出のためなら、たとえ世界を犠牲にしても良い。その決心があったから、おんたんはそれ以来、門出にとっての「絶対」であり続けていた
前の世界での記憶は失われていたが、どんな時も門出のそばを離れず、彼女の全てを支え続けてきたのだ。絶対的な親友である。
もう二度と、門出を失わないように……。

そんなおんたんの前に新たに現れた、大葉くんという存在は、おんたんにとって門出と同じぐらい失いたくない存在へと変わっていく



【「自分の道を生きろ」】

上空に母艦があるという状況が"日常"になっていた世界で平凡な日々を繰り返していた人々であったが、その"終わり"は突如としてやってくる。
母艦のエネルギーが暴発し、母艦は制御不能となって大爆発を起こしてしまう危険性が高まっていたのだ。東京の上空に原発相当の巨大な建造物が鎮座しており、今にも墜落しそうになっているという超緊急事態である。
それ以前に、侵略者より更に高次元の存在によって、触れたものを爆発させる発光するシャボン玉のような物質も世界中に降り注いでいた。
世界中の人類はこの物質によって絶滅の危機に瀕していた

大葉くんは母艦の爆発から人類を守るため単身で母艦に飛び込んで活躍するのだが、過激派の侵略者駆逐信者と化した小比類巻がそれを阻止しようとする。
小比類巻の追手を振り切った大葉くんだったが、残念ながら既に母艦の暴発は手遅れであった。母艦は制御不能となり、大爆発を起こしてしまう
不幸中の幸いは、母艦の爆発の影響で死の光の効力が奪われ、世界滅亡は免れたということ。
東京という一都市を犠牲にして、世界は救われたのだ。

巨大な閃光によって人々は"日常"を続けたまま消し飛び、キノコ雲が登り、東京壊滅という歴史的な悲劇がもたらされた。
おんたんの兄ひろしや、渡良瀬ら東京にいたすべての人々が閃光に包まれて消滅していく
おんたんも門出もたまたま東京郊外に出ており、彼女たちは遠くに登るキノコ雲から"その日"が訪れたことを知るのだ。

しかしその危機は、母艦が上空に現れたあの日から分かっていたことだったのではないだろうか。
政府がいくら嘘の情報で国民に混乱をもたらさないように発信しても、若者たちはそれぞれの立場で異変に気付いている。侵略者を駆逐する立場の者、殺戮される侵略者を守ろうとする者。それぞれが異変を異変として捉えていた。その現象はあらゆるところに現れていた。
実際、侵略者の登場によって世界が歪んでいたように見えるが、実はもともと世界は歪んでいた。それが本作の若者たちの閉塞感に繋がっている。
破壊や暴力によって閉塞感を打破し新世界を作り出そうとする者、あくまでも平和的解決を望む理想主義者。
それは現代にも通じる若者たちの不満や主張なのだ。

閉塞感に包まれていた長い長い時間が再び動き出し、東京という街はリセットされた。
おんたんと門出はその爆煙を見ても涙一つ流さないのが印象的であった。むしろそこに一抹の清々しさすら感じているかのようである。
二人もまた、この社会に複雑な重たさを感じていたに違いない。特に門出の周囲は複雑である。A線を気にし過ぎている神経過敏な母親、その母親に近付く距離感の近い再婚相手、行方不明となった父、好意を寄せていると知っているのに一線を越えようとも拒絶しようともせずにはぐらかす教師。

おんたんも門出のそんな複雑な生き方を見て、そして社会に蔓延る若者たちの不安定な要素を見て、どこかで陰鬱な気持ちを抱えていた。友達との間の時間だけは美しく輝いている。しかし外に目をやれば、つまらない世界なのだ。
飲み会の席で侵略者排除派と擁護派が口論となった時、酔っ払ったおんたんは面倒くさいと一喝していた。彼女は何派であるとかいうくだらないカテゴリーに捉われる人々に辟易していたに違いない。
その全てが一切合切リセットされたのだ。たった一瞬の出来事で、頭を悩ます有象無象は消え去ってしまった。

おんたんは大葉くんが侵略者であったとしても、好きになってしまうような女の子である。たとえ人間であっても、侵略者であっても、おんたんは自分が守りたいものを守るのだ。
なぜなら彼女は、前の世界からこちらの世界へとやり直した時、兄ひろしから「自分の道を生きろ」と教え込まれていたから。
たとえ東京が壊滅しても、門出が生きている
そして、大葉くんもまた数日後に傷つきながらも戻って来た
それだけで十分。それだけで幸せなのだ。キホの時のように、もう誰も失いたくないと強く願っていたから。
たとえセカイを失っても、彼女には二人が生きていることがすべてであり、願っていたことであった。
そしてしばらく彼女たちの夏休みは長引くこととなるのだ。

あのちゃんと幾田りらの声優っぷりが素晴らしいのは前章でも見ていたので言わずもがなだが、後章では特におんたんと大葉くんの恋模様も進展があり、おんたんが女の子として普通に恋をしてしまっている。
早口で世間に対する不満や僻み嫉妬を並び立てていた前章のイメージとはまるで変わり、後章では更に可愛さを増している。
「好きーーー!」と叫ぶおんたんが可愛らしい。そんな変化もまたあのちゃんの演技に表れていて素晴らしかった。

また、前章ではメロディだけだったでんぱ組.incの「あした地球が粉々になっても」が、後章ではしっかり歌と一緒に流れる
それも東京という世界が粉々になる絶妙なシーンで。これもまた印象的な演出であった。
本当は歴史に残る凄惨な一大悲劇であるのに、清々しさすら感じる。

後章が終わって改めて気付くのは、おんたんは世界を救うとか、侵略者を救うとか一切立ち回っていないということだ。
彼女が守りたかったのは親友の門出、それと大葉くん。二人のためなら世界を捨てて、時間を改変するのに、母艦の危機には一切動き出さない。
いわば、彼女は門出を救ってからずっと、彼女との平凡な"日常"を続けたかったわけだ。彼女は決して英雄ではなく、ただの普通のティーンエイジャーなのである。
いや、むしろどちらかといえばセカイを破壊へ導いた張本人ですらある。

たとえ侵略者が地上で駆逐されていようとも、たとえ母艦から中型飛行物体が現れようとも、たとえ母艦のエネルギーが制御不能となろうとも、彼女は"日常"を続けることを第一に考えていた
侵略者が落とした不思議な器具に興奮したり、いつも学校の屋上で母艦を見上げていたり、一見するとこの"非日常"を直視しようとしているように見えたが、彼女はいつも本当は門出との"日常"を何より重視していたのだ。母艦の報道が垂れ流される"非日常"は彼女にとって、"日常"の一つのエッセンスに過ぎない。

世界がどのような混乱に陥ろうとも、いつも目の前にある"日常"を信じ、我が道を生きるおんたんの強さを感じた。

(120分)