第1392作目・『新 感染半島 ファイナル・ステージ』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

『新 感染半島  ファイナル・ステージ』

(2020年・韓国)

〈ジャンル〉ホラー/アクション



~オススメ値~

★★★☆☆

・前作とのつながりは皆無なので本作からでも十分楽しめる。

・ゾンビ世界に見える切ない人間ドラマ。

・終末世界でこそ、"人間らしさ"がカッコ良い。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『未知のウイルスによって人々がゾンビ化した韓国。感染爆発で半島が崩壊してから4年の月日が流れていた。脱出の際に姉やその息子を守れなかった元軍人のジョンソクは、亡命先の香港で廃人のように暮らしていた。難民の韓国人は差別を受けている。そんな中、完全封鎖されている韓国に大量のアメリカドルが残されていることを知った闇組織から、大金の回収という裏稼業を紹介される。依頼を引き受けたジョンソクと、同じく4年前に生き残った姉の旦那だったチョルミンらは荒廃した半島へと上陸する。最初のうちはミッションは簡単であり、目当ての大金が積まれたトラックも発見できた。だが、音を聞きつけて大量のゾンビが集まってくる。そこに現れたのは、4年間、荒廃した半島に生き残っていた民兵集団の631部隊と、631部隊から抜け出したミンジョン一家だった。チョルミンは部隊にトラックごと連れて行かれ、ジョンソクはミンジョン一家に助け出される。


〜あれから4年ー。かつての祖国は、別世界となっていた。〜


《監督》ヨン・サンホ

(「我は神なり」「新感染 ファイナル・エクスプレス」「サイコキネシスー念力ー」)

《脚本》ヨン・サンホ

《出演》カン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン、キム・ミンジェ、ク・ギョファン、キム・ドユン、クォン・ヘヒョ、ほか





【変わり果てた半島の姿】

前作の続編だが、前作とのつながりは皆無。
むしろ、韓国本土でゾンビになるウイルスが蔓延し始めたのが前作なら、本作は蔓延して世界に見捨てられてから4年後の半島が舞台である。設定上のつながりはただそれだけだ。
だから、前作をまだ見たことがないという人でも十分こちらから楽しめる
とは言え、面白さで言ったら前作の方が個人的には楽しめた。

どストレートにゾンビ映画なのだが、前作同様に面白いのはゾンビに囲まれて命からがら逃げ惑う中で、切ない人間ドラマが描かれること。
今回もそのドラマが冒頭から描かれる。

半島から国外脱出しようと船に乗り込んだ軍人のジョンソクと姉一家だったが、船の受け入れ先予定の日本から寄港を拒否され、急遽香港へ向かっていた。
ところが、そうこうしているうちに客席に感染者が潜伏していたのだ。
姉一家の子供が真っ先にゾンビに噛まれ、ゾンビ化していく我が子を抱きしめるだけで母親は何もしてあげることができない
次々と乗客たちがゾンビ化していく客室から助け出そうと、ジョンソンは姉の手を引くのだが、母親はゾンビ化していく我が子を見捨てて部屋から逃げ出すことができなかった
軍人のジョンソクは船内にこれ以上感染者を生まないためにも、姉を残してゾンビたちを部屋に閉じ込める。とうとう姉は子供を抱きかかえたままゾンビたちに襲われてしまうのだ。
壊滅状態だった韓国を離れ、あと少しで生き残ることができたのにそれは叶わなかった。冒頭のこの切ない別れのドラマから心を揺さぶる

本作はそんな物語の幕開けから4年の月日がたった世界。韓国は封鎖され国際社会から見捨てられていた。香港で難民差別を受けていたジョンソクと義兄のチョルミンらが、韓国に残された大金を回収しにいくという闇稼業に駆り出され、再び半島に足を踏み入れることから始まる。
ゾンビが蔓延している封鎖された土地だ。リスクは大きい。しかし、差別を受ける生活から抜け出すためにジョンソクらも大金を欲していた。
始めのうちは簡単な仕事であった。アメリカドルが積まれたままのトラックはソウルに乗り捨てられており、仕事を請け負った4人はそこまで武装して運転しながら近づき、トラックを回収したら港まで戻って来れば良いだけなのだ。
持たされた無線で連絡を取れば、あとは迎えの船が港に近づいてくるだけである。

前作は高速列車内の閉ざされた空間が闘いの舞台であったが、今回は廃墟と化した列島が舞台である。スケールがより一層広大となっているが、それだけゾンビの数も増えている。

また、やはり見捨てられた土地にも生き残った人間がいるものだ。
631部隊の人間であった。631部隊とは、半島に取り残された民兵で構成された武装兵団であり、4年の間に倫理観を失って今では狂った暴徒の群れとなっていた
631部隊は他国から侵入してきた彼らのミッションを妨げ、ゾンビを誘き寄せたのだ。チョルミンはすかさずトラックの荷台に逃げ込んだが、631部隊はそのトラックに大金が積まれていることを知り、チョルミンごとトラックをアジトまで回収してしまう。

一方、ジョンソクはゾンビと応戦していたが、間一髪のところを少女ジュニと妹のユジンに助けられる。
ジュニの巧みなドライビングテクニックとユジンのラジコンテクニックで窮地を逃れ、ジョンソクはジュニとユジンのアジトまで連れて行かれるのだった。

アジトには姉妹の母ミンジョンと、祖父のキムがいた。一家は元々631部隊に所属していたが、部隊の人間が徐々に狂ってきたことを恐れて舞台を抜け出し、キムの古い知人のツテを頼りに国外脱出の救援を要請しながら生き延びていた。 

終末世界を描いた映画では、精神的に狂った人間の狂気が描かれることが多くある。規律や秩序の崩壊した世界で、やりたい放題の生活を送る人々。結局、一番怖いのはゾンビでもウイルスでもなく人間の狂気だったというのは定番のテーマである。

本作でも631部隊のファン軍曹は武力を行使して狂気的な余興を楽しんでいる。
無抵抗の民間人を捕虜のように捕らえると、閉鎖空間に解放したゾンビたちから2分間逃げ続けるサバイバルゲームに強制参加させるのだ。トラックに潜んでいるところを発見されたチョルミンは、このゲームの参加者にされてしまう。
倫理や道徳が崩壊した小集団は、こういう映画で必ずと言って良いほど登場する。人は法規制を奪われると、人間らしさも手放してしまうしかないのだろうか



【常識を破れ!】

一方で、ジョンソクを助けたミンジョン家族は、この631部隊から逃げ出した一家だった。
娘二人と年老いた祖父を抱える強き母ミンジョンは、国外脱出の術を探して4年間生き残ってきた。この一家はたくましく、そして家族として助け合いながら生き残ってきたのだろう。
まだ小さな妹もゾンビの特性をよく理解しており、ラジコン操作でゾンビたちを意のままに操る
姉は大人顔負けのドライビングテクニックでゾンビを薙ぎ倒しながら荒廃した街を走り抜ける。
この一家は、決して倫理観は崩壊しておらず、家族を救うためなら命を投げ出す覚悟さえ持っているようだ。

前作でも同様に、絶望の世界で命のバトンをつなげて敢然と立ち上がるヒーローがいた。
ゾンビによって法や秩序が崩壊した世界であっても、人間は人間らしくあり続けることができる。この選択肢があるのは大きい。
ゾンビ映画で私たちが見たいのは、絶望の世界になっても人間らしさを忘れない心なのだ。

元の平穏な世界であったら許されないことは、ゾンビの世界になっても許されない。
そういう人間の本質的な信条を忘れない姿が、こういう終末世界ではとてもカッコ良い。特別なことをしているわけではなくても、人間らしさを保っていることが、この世界ではヒーローなのだ。

ミンジョン家族は631部隊からトラックを取り戻し、無線を使って国外脱出する計画を立てる。
一方の631部隊でもソ大尉が無線の存在に気付き、凶暴なファン軍曹らを見捨てて自分だけ助かろうと画策していた。
ミンジョン家族とジョンソクは、トラックの奪還とチョルミンの救出に向かった。

631部隊のアジトに侵入後、ジョンソクはチョルミンをサバイバルゲームの会場から救出する。閉鎖空間から放たれたゾンビたちは、部隊の兵士たちに襲いかかってきた。
ジョンソクとチョルミンはその場から逃げ出そうとするのだが、ファン軍曹の銃撃からジョンソクを守るため、チョルミンが盾となって身を投げ出し犠牲になってしまう。せっかく解放できたのにチョルミンは命を落とす。「ワンピース」の兄エース解放後の展開を思い出す虚しい結末だ。

悲嘆に暮れるジョンソクを連れて、ミンジョンはトラックをアジトから持ち出して港へと向かった。
631部隊も激しく追いかけてくるのだが、姉ジュニのドライビングテクニックで追っ手の追尾車を次々と大破させていく。
やがてファン軍曹の車は大量のゾンビの群れに突っ込んでしまい、ゾンビに取り囲まれ、ついに631部隊は壊滅する。

だが、港ではソ大尉にトラックを再び奪われてしまった。港に約束通り寄港したフェリーに乗り込むトラック。だが、ジョンソクらに仕事を依頼した闇組織は最初からジョンソクらを生かすつもりはなかった
ソ大尉は組織の者たちに暗殺され、ソ大尉は最後のしっぺ返しとしてゾンビたちをフェリーに呼び寄せるのだった。

一方、港で取り残されたジョンソクとミンジョン家族。するとそこに現れたのは、国連軍のジェイン少佐だった。ボケているように見えていた祖父のキムの話は、真実だったのだ。ジェイン少佐は実在した人物だったのだ。
ジェイン少佐は一同をヘリへと誘うが、行手にはゾンビが阻んでいて通れない。そこで、ミンジョンは自らが犠牲になって家族とジョンソクをヘリに辿り着かせる捨て身の作戦に出た
車に残ってゾンビを呼び寄せるミンジョン。ジョンソクはその時、これまで自分が後悔してきた選択を思い出す。

実は、ミンジョンとジョンソクが出会うのはこれが初めてではなかった。
4年前、国外脱出のフェリーに乗り込むため姉一家と港へ向かっていた時、道端で助けを求める家族がいた。子供を連れたその一家は、港まで送ってほしいと願っている。その時、ジョンソクは自分や姉一家を船に乗せることに必死で、その家族を助けてあげることができなかった。何より感染が広がりつつある今、見知らぬ他人を乗せることはリスクがある。
ジョンソクが見捨てたその一家の母子というのが、実はミンジョンとジュニらだったのだ。

ジョンソクにとって、このゾンビ危機に陥ってから何度も抵抗できずに諦める瞬間があった
ミンジョン母子を見捨てた時、船内で姉とその子供がゾンビに囲まれた時、そして今度こそ諦めなかったものの助け出せなかったチョルミン。
姉を助けられなかった時のことを「常識的な判断だった」と語るジョンソクに、姉の旦那だったチョルミンは生前「笑わせるな。精一杯やったか?」と問いかけたことがある。
ジョンソクの心の中でその言葉が刻まれていたのだろう。

後悔しないほど精一杯抗うこと
ジョンソクはゾンビに囲まれるミンジョンを助け出すため、彼女が立てこもっている車へと駆けつける。
そして、今度こそ彼女を救出し、国連軍のヘリに乗り込んだのだ。

ジョンソクは自分の後悔を生かし、勇敢に命をかけて救助に向かった。「常識的な判断」に縛られず、リスクを負って精一杯抗ったのだ。ただ助けたいという感情に突き動かされていた。
だが、それこそ人間らしさである。そしてこの世界においては、人間らしい判断ができることが何よりヒーローなのだ。
絶望の世界に差した希望の光であった。


(116分)