第1357作目・『カーズ』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

テーマ:
『カーズ』

(2006年・アメリカ)

〈ジャンル〉アニメ/ファンタジー



~オススメ値~

★★★☆☆

・続編が続いたピクサーの人気シリーズ第一弾。

・車をモチーフにキャラクターや設定が作り込まれている。

・高速道路の開通で寂れた田舎町のストーリーがリアル。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『カーレース「ピストン・カップ」シーズン最終レースで新人チャンピオンを狙う若手の人気レーサーライトニング・マックィーン。彼にとってのライバルは伝説のレーサー・キングと、ベテランレーサーのチックだった。何とか同着1位に並んだ3台は再度、優勝決定戦を行うことになる。その会場までの移動中、専用トレーラーのマックに無理して夜通し走らせたマックィーンだったが、寝ぼけたマックが彼を置き去りにしてしまい、マックィーンは寂れた田舎町のラジエーター・スプリングスへと迷い込んだ。事態に気付いてパニックになったマックィーンは保安官のシェリフの追跡から逃れるうちに町の道路を壊してしまう。裁判の結果、マックィーンは町の道路舗装を社会奉仕活動として行うこととなった。一刻も早く街を出ようとしたマックィーンは余計に悪化させてしまい、町のリーダーであるドックに舗装のやり直しを命じられる。そんなドックに自分とレースして勝ったら解放しろと条件を出すマックィーン。だが、マックィーンはそのレースでもコースアウトして負けてしまった。』


〜今度の《奇跡》は、[クルマの世界]に起こります。〜


《監督》ジョン・ラセター

(「トイ・ストーリー」「トイ・ストーリー2」「カーズ2」)

《脚本》ダン・フォーゲルマン、ジョン・ラセター、ジョー・ランフト、ヨルゲン・クルビエン

《声の出演(吹き替え版)》土田大、浦山迅、戸田恵子、山口智充、パンツェッタ・ジローラモ、赤坂泰彦、福澤朗、内田直哉、立木文彦、ほか





【車たちの大活躍!】

『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』や『Mr.インクレディブル』に続いて発表されたピクサーの人気シリーズが、車をモチーフにしたこの「カーズ」である。
その後、今もなお毎年のように新作を発表し続けているピクサーの大進撃を見ると、本作はピクサーが伝説を作り始めてまだ間もない頃の作品となるだろう。

いろいろな車をモチーフにしていて、主人公ライトニング・マックィーンの赤くて派手なボディを見ても感じられるように全体的に子供向けなイメージの強い作品である。
そういうわけで『カールじいさんの空飛ぶ家』や『インサイド・ヘッド』などの大人でも楽しめるピクサーアニメに比べるとどうしても手が出ずにいたのだが、そこはさすがピクサーである。
ちゃんとストーリーや設定がしっかり作り込まれていて面白かった

ライトニング・マックィーンはカーレースのチャンピオンを狙っている新人レーサーだ。
スーパールーキーとして現れるや否や、その実力と派手なカラーボディから注目を浴び、スター選手の仲間入りを果たしている
だが、その性格は最悪。自信過剰で身勝手な振る舞いでチームメイトをも簡単に切り捨ててしまうが、その人気の高さから一人でも問題ないとたかを括っていた。自分の功績はすべて自分の手柄だと思っているのだろう。典型的ないつか転落するタイプである。
そんなマックィーン。目指すはカリフォルニアで行われる優勝決定戦のみ。

だが、マックィーンは専用トレーラーのマックに夜通し走らせるという無理を強いてしまい、寝ぼけたマックに置いてけぼりにされてしまう。
マックィーンが彷徨い込んだ街は寂れた田舎町ラジエーター・スプリングスであった。
輝かしい功績も名声もこの小さな田舎町には無意味だった。パニックになった末に町の路面をガタガタに壊してしまったマックィーンは、保安官のシェリフに逮捕されてしまい、翌日、道路舗装の社会奉仕活動を命じられてしまう
舗装を終わらせないと優勝決定戦にも間に合わない。マックィーンは渋々道路舗装を始めるのだが、やがて町の住民たちと関わりを持つうちに次第に友情の大切さを知るようになるのだ。

↑クラッシュしていく車たちを次々と追い抜かして上位を走るマックィーン。この時のマックィーンはクラッシュしていくライバルに対して優越感を感じていた。


まずラジエーター・スプリングスのキャラクター設定が個性豊かで愛着が湧く
様々な種類の車が擬人化され、それぞれの特徴をよく表しているのだ。
マックィーンの相棒となるメーターは錆だらけのレッカー車。ラジエーター・スプリングスに入る前、錆びた車はマックィーンが最も見下して嫌悪する存在であった。赤い光沢で光るマックィーンにとって、錆のある車など輝きを失った存在に過ぎない
ところが、錆だらけのメーターと可笑しくも楽しい交流を過ごすことで、マックィーンは錆などの見た目に捉われず、内面から他者の良さを知るようになる

↑高性能のマックィーンと錆びて劣化したメーター。正反対な二人だが、やがて親友同士になっていく。


ヒロインとなるサリー・カレラはポルシェである。
元は都会にいたというラジエーター・スプリングスの弁護士兼民宿オーナーのサリー。一昔前のポルシェというのが、小洒落た都会感を残していてピッタリな印象ではないだろうか。

町の判事で有力者のドック・ハドソンはハドソン・ホーネット
ドックにラジエーター・スプリングスのダートコースでレース勝負を挑み、敢えなく撃沈したマックィーン。謎の実力を隠し持つドックだが、実は彼はかつて名のあるカーレースで3連覇を達成した伝説のレースの帝王だった。
ドックの正体を知って興奮するマックィーンはこれまでのドックへの態度とは打って変わって憧れの眼差しに変わるのだが、ドックは自身の優勝杯や輝かしい記録を自慢げに思わない。彼にとってトロフィーはただの置物に過ぎなかった
ドックは輝かしい功績にすがることなく大クラッシュを起こして引退し、今はこの田舎町で隠遁生活を送っていたのだ。

↑ドックの正体も知らずにレースを挑むマックィーン。向こう見ずな若者は、この後ダートコースにタイヤを取られてコースアウトする。一方、ベテランのドックは落ち着いたスタートを切る。


他にも大きな音に驚くとひっくり返ってしまう間の抜けたトラクターや、オーガニック燃料やアクセサリーを販売するボヘミアンなフォルクスワーゲンのバスなど、様々な個性豊かなキャラクターが登場するのだが、
個人的な一番のお気に入りはフィアット・500のルイジとフォークリフトのグイドである。
ルイジはフェラーリを崇拝している生粋のイタリア魂を持つタイヤ店の店主で、いつか自分の店にフェラーリの客が来てタイヤ交換をすることを夢見ている
グイドもそのルイジの店でイタリア人魂を持って働いていたが、マックィーンの最終決戦に専属ピットクルーとして駆けつけた際には敵方のピットクルーたちから新参者として馬鹿にされていた。ところが、いざマックィーンがピットに入ると鮮やかな手捌きであっという間にマックィーンをレースに戻す
実力でライバルたちを圧倒してドヤ顔をするグイド。カッコよくて可愛い。
ちなみに、ルイジの吹き替えを担当したのはパンツェッタ・ジローラモである。演技の枠を超えたナチュラルなイタリア人としての片言がすごく役にハマっていた。



【時代の流れに取り残された田舎町】

そして何より車モチーフのキャラクター設定のみならず、ラジエーター・スプリングスの設定も深く作り込まれていて良かった。
ラジエーター・スプリングスはルート66沿いにある。シカゴとカリフォルニア州サンタモニカを大陸を横断する形で実在していたルート66は、残念ながら高速道路の開通に伴ってやがて廃線となる
同じようにラジエーター・スプリングスも高速道路の開通によって寂れてしまった田舎町だ。高速道路の開通で多くの人の往来を期待していた住民たちだったが、その効果は真逆であった。客足は遠のき、次々とお店を畳む者たちが相次いだ
この町は交通網の発展に伴って忘れ去られた小さな田舎町なのである。
ゆえに派手で輝かしいマックィーンとは対照的に住民たちの多くの車種は古く、一昔前である。更にレースで飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍しているマックィーンのことも認知されていない。
この町は賑わっていたかつての時代から進歩せず、時の流れに取り残されているのだ。

この世界観の奥行きが面白い。
マックィーンが仲間の大切さを知るという成長物語であると同時に、寂れた田舎町であるラジエーター・スプリングスに再び脚光を浴びる時間を取り戻す話にもなるのだ。

この田舎町にマックィーンがいることがマスコミに発見され、専用トレーラーのマックの迎えが来るマックィーン。最終決戦の地に辿り着いたマックィーンだったが、ラジエーター・スプリングスで過ごした日々で、彼は仲間の大切さを知った。
レース中もあそこで過ごしたゆったりした時間を思い出し、集中が途切れるマックィーン。そんな中、会場に駆け付けたのはラジエーター・スプリングスの仲間たちだった。仲間の声援を力に変えたマックィーンはグイグイ順位を上げていく。
猛スピードでカーブを曲がる時、ダートコースでドックと競い合った経験が生きるのも見事な伏線で面白い

だが、最終ラップで優勝候補のキングが本作のヴィランズでもあるチックに激突され大クラッシュをしてしまう
群を抜いて悠々とゴールインするチック。
一方マックィーンはこのままいけば優勝できたものを、キングの姿が大クラッシュを起こして引退したドックと重なり、キングの元へと引き返して大破した彼の後ろから押して共にゴールインした
卑怯な手口で優勝したチックには誰も目もくれず、その勇姿にスタジオは熱狂。マックィーンのライバル想いの姿はまさに英雄であった
マックィーンはその後、ラジエーター・スプリングスに移住することを決意する。そのため、寂れた田舎町の知名度が高まり、多くの観光客が訪れるようになったのだ。
ルイジの店にも念願のフェラーリブランドの客が来店するからステキな話ではないか

↑マックィーンはサリーと共にこのラジエーター・スプリングスで暮らすことを決意する。輝かしい名声だけが人生に彩りを与えるわけではないことを教えてくれた。


レーサーとしてのマックィーンのカッコ良さに痺れる一方で、大人たちは自信過剰で勘違いをした若手が引退したかつての英雄から本当に大切なことを継承する成長物語や、時代に取り残されて寂れた田舎町が復興を果たす物語に感情移入してしまうことだろう。
最終決戦の結末も、勝つことや実力があることだけが人望を寄せるすべてではないということが対比的に示されていて教訓的である。
定番のストーリーではあるものの、奥深い設定でとても気持ち良く楽しめた。


(116分)