第1345作目・『暗くなるまで待って』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

『暗くなるまで待って』

(1967年・アメリカ)

〈ジャンル〉サスペンス



~オススメ値~

★★★★☆

・オードリー・ヘプバーン主演の本格派サスペンス。

・部屋の中のアイテムが物語に絡む巧みな伏線。

・視覚以外の感覚に訴える恐怖。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『ニューヨークの空港で見知らぬ女性から一体の人形を預かった写真家のサム。実はその人形には大量のヘロインが隠されていた。犯罪グループのリーダーであるロートは裏切った女性を殺して仲間のマイク、カルリーノと共に人形の奪還を計画する。だが、ロートらが侵入したサムの部屋に帰ってきたのは視力を失った妻のスージーだった。咄嗟にサムの軍隊時代の親友を装って対応するマイク。三人はその後、刑事や老人などに扮しながら留守を守るスージーに詐欺を働き、人形を見つけ出すよう仕向けて行く。だが、三人の動向に不信感を抱いたスージーが同じアパートの少女グロリアに確かめてもらうと、パトカーの止まっているはずの場所に不審車両があるなど彼らの嘘が明らかになる。スージーは三人が結託して自分に嘘をついていると確信する。』


〜新境地を開くヘップバーンの魅惑  抜群のサスペンス!練りに練った本格的スリラー!〜


《監督》テレンス・ヤング

(「007/ドクター・ノオ」「夜の訪問者」「レッド・サン」)

《脚本》ロバート・ハワード・カリントン、ジェーン=ハワード・カリントン

《出演》オードリー・ヘプバーン、アラン・アーキン、リチャード・クレンナ、ジュリー・ハーロッド、ほか




【緊迫のワンシチュエーションサスペンス】

麗しのオードリー・ヘプバーン主演!素敵なロマンスを感じさせるタイトルである。(しかも原題通り)

しかし、本作はタイトルのイメージとは裏腹に本格派サスペンスである。
盲目の女性スージーの自宅に現れた3人の凶悪犯たち。彼らの狙いは、仲間割れで暗殺した共犯者の女が自分たちを裏切り、空港で出会った何も知らないスージーの旦那に預けている人形を回収することだった。なんとその人形の中には大量のヘロインが隠されているのだ。3人の凶悪犯は自宅で留守番をしているスージーの視力がないことを利用して身分を偽り、自宅を捜索しようと試みる
果たして目の見えないスージーは凶悪犯たちの危険から逃れることができるのか
たった一つの部屋を舞台に繰り広げられる緊迫のワンシチュエーションサスペンスである。
最高にハラハラする名作であった。

↑突然帰ってきた家主に驚き、息を潜めて隠れる侵入者たち。スージーには何も見えていない。


始めのうちは目の見えないスージーは凶悪犯であるロート、マイク、カルリーノの罠にはまっていた。
マイクは自分がスージーの夫であるサムの軍隊時代の友人であると偽り、ロートが息子の妻の不倫の証拠を探す老人に扮し、カルリーノが暴れ回る老人を制する警察に扮して近付いていたのだ。

ところが、とある協力者の登場でスージーの疑惑は確信に変わった
役の交代や来訪するタイミングを外に知らせるために合図としてブラインドを開閉していた3人。スージーは物音から彼らの動きに不信感を抱いていた。
そんな中現れたのが、上階に住んでいる生意気な少女、グロリアである。グロリアに窓の外を確かめさせると、そこにいたのはマイクらが話していたパトカーではなく、3人の男が出入りして怪しげな動きを見せる不審車両であった。
視力のなかったスージーに、3人の隠している嘘がはっきりと見えたのだ。グロリアの協力を経て、自分が騙されていることに気付いてからスージーの恐怖が深まっていく。
この人たちは何者?
一体、人形に何が隠されているの?、と……。


↑上階の少女グロリアの協力を得て、スージーは犯人たちが何かを企んだ犯罪者であり、自分がターゲットになって部屋から脱出できなくなっていることに気付く。目が見えないスージーには恐怖である。


職場に外出中のサムに知らせるようグロリアに頼み、彼女を外に出すスージー。
外部へ連絡を取ろうと電話をかけようとするといつの間にか電話線が切られていた
更にスージーが自分たちを怪しんでいると気付いたマイクが、彼女に取り入ろうと近付いてくるも、ロートはマイクを背後から殺害してしまう。
素性がバレたロートはもはやスージーから強制的に人形を奪還しようと目論んだのだ。

狭い部屋の中、目の見えないスージーと凶悪犯の対峙。まさに絶望的な状況下ではあるが、スージーは諦めなかった。
部屋の中のすべての電気を手探りで消し、ロートの視界を奪ってから部屋を脱出しようと試みるスージー。音や空気感に敏感なスージーの圧倒的有利と思いきや、なんとロートは冷蔵庫の扉を開けてその明かりでスージーの居所を突き止めた
形勢逆転。窮地に陥ったスージーが台所の隅に追いやられた丁度その時、グロリアがサムと警察を連れて戻ってきたのだった。



【暗闇に冷蔵庫の灯り】

クラシックな映画なのに最高にハラハラするサスペンスであった。
スージーの設定上、視覚が効かないからか他の五感で恐怖を植え付けてくる
例えばスージーは聴覚が鋭くなったため、まったく違う人物のはずなのに足音が同じであることに気付いた。
息を潜めて隠れている侵入者たちの姿は見えないけど、知らないタバコの匂いが漂っていることに気付いた。
刑事に扮した凶悪犯がなぜか各所の自分が触ったところの指紋を拭き取っている物音に気付いたり、犯人が仕掛けた臭いからガソリンが撒かれたことに気付いたり。
犯人たちの監視の目を抜けながらスージーの唯一の協力者であるグロリアを外に出す時も、グロリアは傘で遊んでいるかのようにアパートの鉄柵の音を立てて出掛けていく。一見何の変哲もない行動だが、無事に抜け出せたことをスージーに知らせる合図である。
音を聞いてホッとするスージーの表情から、この合図について特段の説明もなかったがその意図がよく伝わった。

↑指紋をつけないよう手袋を嵌めている異常さにも我々は気付くがスージーは知らない。だが、彼女も物音や匂いなどから彼らの不審な動きに気付き始めるのだ。


極め付けは最後の対峙シーンであろう。
犯人の正体が分かり、犯人たちも自分たちの正体がバレたことが分かってからの音楽や演出がホラー映画のそれで不穏感が漂っていた
特にスージーがロートの視覚を奪って優位に立つため部屋中の照明を壊し始めてからは、我々もスージーと同じ立場で暗闇の恐怖を擬似体験する
真っ暗の狭い部屋だ。犯人がどこにいるのかもよく分からない。そんな中でスージーはマッチを一本ずつ擦っている。マッチが消え、次のマッチを擦るその一瞬の暗闇が明けた時、殺意のある男が飛びかかってきそうで恐ろしい。

そして、何より本作のどこが面白いかといえば、このサスペンスの舞台がワンシチュエーションで繰り広げられているということだ。
一つの部屋だけを舞台に事件が展開され、賢明なスージーの仕掛けた罠とグロリアの手を借りた協力によって犯人たちに騙されていることに気付き、更に圧倒的不利な立場にいるはずのスージーが犯人たちに立ち向かう術も見つけた。

それと共に、部屋のあちこちに潜んでいたアイテムがあらゆる形でストーリーに絡んでくるのも非常に面白い。元々、本作の原作が舞台戯曲を基としているためか、小道具もストーリーの鍵を握っているのである。
冒頭でロートとマイクらが出会った時、不気味な男ロートと険悪な対立をしたマイクらは、カメラと三脚を武器に、そして椅子を盾にして立ち向かう。
ロートに追い詰められたスージーが咄嗟に手にして反撃に使った武器は、グロリアと言い争いをした時にグロリアが癇癪を起こしてばら撒いたナイフの一本である。ばら撒いた後、「ナイフ危ないよ」と声掛けしていたのがしっかり伏線になっていた。
部屋を真っ暗闇にしてスージーが優位に立った時、「これで勝てる!」という勝利の確信を無惨にも崩壊させたのはロートが冷蔵庫の扉を開けたからだ。
冷蔵庫は作品冒頭から霜取りのためにコンセントを抜くようにとサムから言われていた。だが、スージーはそれを怠っていたのだ。もしもあの時コンセントを抜いておけば、冷蔵庫の明かりが灯る事はなかっただろう。
だが同時に、冷蔵庫の扉は最後の最後に身を守る盾と化す。
部屋中のアイテムが見事な伏線となって張り巡らされており、事件が解決に至った時は脱出ゲームを終えたかのような快感であった。

↑まさか冷蔵庫の灯りがスージーの作戦を失敗させるとは。現代でも同様にミステリーのトリックになりそうなネタである。


恐怖に怯えるオードリー・ヘプバーンが新鮮なのと、緊迫感があるのはもちろんのこと、アイテムの使い方や会話が伏線になっているところなど、驚きが沢山あってスリルと爽快感で楽しめるサスペンスであった。


(107分)