(2016年・アメリカ)
〈ジャンル〉アニメ/ファミリー
★★★☆☆
・前作に登場した、忘れやすいドリーの家族を探す物語。
・タコのハンクの万能感とカッコ良さ。
・ハンデを抱えていても挑戦する事への希望を感じる。
(オススメ値の基準)
★1つ…一度は見たい
★2つ…良作だと思う
★3つ…ぜひ人にオススメしたい
★4つ…かなりオススメ!
★5つ…人生の一本、殿堂入り
〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介
〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉
《あらすじ》
『ニモを探す旅から1年が経ったある日、忘れん坊のドリーがふいに自分の家族の存在を思い出した。家族を探すために大海原へ旅に出るドリーを心配し、ニモとマーリンは付き添うことに。だが、向こう見ずなドリーに愛想が尽きたマーリンが目を話した隙に、ドリーは人間に捉えられてある施設へと連れて行かれてしまった。そこは海洋生物研究所。タグをつけられたドリーはタコのハンクの話を聞いて、その研究所こそ自分が育った場所であることを思い出す。クリーヴランドの水族館行きの目印となるタグを求めるハンクはドリーに協力し、二人はドリーの家族がいるはずのオープン・オーシャンという展示水槽を目指す。』
〜ドリーの秘密は、《人間の世界》に隠されていた。〜
《監督》アンドリュー・スタントン
(「ファインディング・ニモ」「ウォーリー」「ジョン・カーター」)
《脚本》アンドリュー・スタントン、ヴィクトリア・ストラウス
《吹替版:声の出演》室井滋、木梨憲武、上川隆也、中村アン、八代亜紀、田中雅美、多田野曜平、赤坂泰彦、小山力也、ほか
【遥か彼方の両親を探して…】
前作「ファインディング・ニモ」の公開からおよそ13年もの時を経て、新たに紡がれたドリーの物語。
正直に言って、ドリーを主役に据えるには不安しか感じておらず見る気は少なかった。
主役にしては落ち着きに欠けて、慌ただしいし、何よりお喋りなのに見たこと聞いたことは5秒後にはすっかり忘れてしまう。ドリーの巻き起こすトラブルが心配で。
ところが、そこはさすが天下のピクサー映画。しっかり芯に当ててきて、ちゃんと泣かせてくれるのだ。
ある日、ニモの通う学校の遠足に同行したドリーはふいに自分のことを呼び止める家族の姿を思い出す。
これまで忘れていた大切な記憶を辿り、ドリーは家族を探す旅に出るのだ。もちろん今回は主役から脇役に回ったマーリンとニモの父子も一緒である。
紆余曲折を経て行き着いた先は海洋生物研究所。
そこでは傷ついた海洋生物を捕獲して適切な処置を行い、自然へと還すかクリーヴランドの水族館に送る措置が取られていた。
たまたま研究員に捕獲されたドリーは、水族館行きを望んでいるタコのハンクや、昔友達だったジンベエザメのデスティニー、その隣の水槽に暮らすシロイルカのベイリーらに出会う。
そして、彼らの助けを借りて自身の故郷がオープン・オーシャンと呼ばれる展示水槽であることが判明。水槽に辿り着き、今ではもぬけの殻となってしまった昔の住処を見つけたドリーは新たな記憶を取り戻す。
ドリーは幼少期にオープン・オーシャンの中で家族と過ごし、排水パイプに吸い込まれて生き別れになってしまったのだ。
再びパイプを通って隔離棟への道を辿ったドリー。
途中で迷子になっていたニモらと再会し、クリーヴランド行きを待つ仲間たちと出会うのだが、ドリーはそこで両親が何年も前にドリーを追ってパイプに入ってから戻ってきていないという情報を得る。
絶望するドリーもクリーヴランドへ連れて行かれそうになるが、ハンクが救出してくれてドリーは海へと繋がるパイプに流されてしまう。
暗い海底で悲しみに暮れていると、なんとそこには見慣れた貝殻の目印の跡が。それはかつて、忘れん坊のドリーが自宅に帰れるように両親が置いてくれていた貝殻の目印と同じだった。
ドリーが貝殻を辿っていくと、そこにいたのは生き別れになっていた両親の姿だった。
ドリーがいつか記憶を辿って戻ってくる事を信じて、貝殻を置いて待ち続けていたのだ。
一方、ニモらはクリーヴランド行きのトラックに積み込まれてしまった。
ニモ救出に向かったドリーはデスティニーやベイリーの力を借りてトラックの足止めに成功。
逆に今度はドリーがトラックに閉じ込められてしまうのだが、機転を利かせたハンクがトラックを乗っ取り、ドリーら海洋生物を乗せたトラックは高速道路を突き破って海へと真っ逆さまに落ちていくのだ。
こうして、ドリーは両親を連れてニモらと一緒に元の海へと戻った。
前作がちょっと前にはぐれた子供を探す旅なら、今回は何年も前にはぐれたドリーの両親を探し出す旅。
失われた記憶を辿りながら、どこにいたのかも分からない両親を探すのだ。
遥かに難易度の高いミッションであり、何より彼らがまだ生きてその場所に留まっているのかも分からなかったのだが、何とか両親との再会を果たした。
当てのない広大な海の旅。
今回、ドリーの記憶がなぜか鮮明に蘇りやすいという奇跡の幸運にも恵まれていたものの、それでもミッションが成功したのはドリーの親しみやすさで様々な協力者を得て、前へと進む力になってくれたから。
それは持ち前のドリーの明るさと人懐こさから来ており、記憶障害というハンデは抱えていても、彼女も挑戦すればその強みが発揮できるのだ。
「ファインディング・ニモ」シリーズでは障害を抱える人たちの困難と希望が描かれているというメッセージを感じられるのだが、短期記憶障害のドリーが大海原を大冒険して、忘れていた大切な家族と再会する事ができたという成功体験は、同じ障害を抱える人やそれを支援する人たちも含めてどれほど多くの人たちの希望となるだろう。
【忘れやすいドリーと万能兄貴】
今回、忘れっぽくて慌ただしいドリーの相棒となったのがタコのハンクである。孤独を好み、海を嫌い、ニヒリストなハンクはドリーとは正反対のキャラクターである。
かつて一部の海外では「デビルフィッシュ」と呼ばれて忌み嫌われていたタコが、これほどまで魅力的なキャラクターになる日が訪れようとは。
この作品が成り立ったのは、ハンクの貢献度がかなり大きい。
そもそも軟体動物で足が複数あるタコをCGアニメで描く事自体が挑戦だったようだ。
スタッフたちは実際のタコの動きを良く観察して、今回のハンクの動き方に取り入れたのだとか。ハンクの足が触手のようにウネウネと動く様子を描くのも時間がかかる作業となるし、ハンクがたまたま7本足という設定だからまだ救われたものの、一本多いだけで作業量は大幅に変わっていたらしい。
しかし、このハンクというキャラクター、今回のドリーのミッション成功には絶対に欠かせない存在であった。
何しろ、彼の能力は万能なのだ。
性格は真反対なのに記憶を失っていた両親を探すドリーの手助けをするのは、ドリーにつけられたタグが欲しいからである。アクシデントの多い海を嫌うハンクがこの研究所から抜け出して向かいたい場所は一択しかない。
永遠の平穏が約束されたクリーヴランドである。
ハンクはドリーに付けられたクリーヴランド行きのタグが欲しかったのだ。
とは言え、その名目とは別に実際はハンク自身が忘れっぽいドリーを見過ごす事ができないというナイスな心意気の兄貴であるのも確かだろう。
ハンクはそんなドリーのミッションを成功させるため、様々な能力を発揮するのだ。
まずは保護色で透明になることができる。これ、思っているよりも有り得ない色合いで背景と同化できる。完全に物に擬態できるのだ。
そして7本の足を駆使すれば、ベビーカーも動かす事ができるし、極め付けはトラックを運転できる。
タコは頭が良いという話を聞いた事があるが、ここまで万能に働くことができるのは世界でもハンクぐらいなものだろう。
一人では頼りないドリーに、万能兄貴のハンク。デコボコがピッタリ重なり、最高のコンビネーションを見せてくれた。
そんな万能兄貴の吹替版声優を務めたのが、上川隆也である。孤独を愛する男の渋みがあって最高だった。
ジンベエザメのデスティニーを演じた中村アンも上手かったし、声優陣はベストな布陣。
そして特にユニークだったのが海洋生物研究所の施設内アナウンスである。オリジナル版ではシガニー・ウィーバーが、吹替版では八代亜紀が担当したこのアナウンス。
海洋研究所の生物たちが治療を施し、海へ帰すというアナウンスをなんと本人の名前を名乗って語っている。「なんで八代亜紀本人?」と不思議な違和感を感じていたのだが、違和感を覚えさせる事で伏線を叩き込むという荒技に驚き。
ハンクが暴走させたトラックは高速道路から海へと転落。クリーヴランド行きだった生物たちは、真っ逆さまに海へと帰っていくのである。
まさに、八代亜紀のアナウンス通りの結末!
しかも、その瞬間にスローになって唐突に流れるルイ・アームストロングの「What a wonderful world」である。なんと味わい深いオチだろう。
こんなに最先端のCGを駆使したアニメで、大オチが古典的演出というギャップがニヤリとさせられる。
前作ではドリーに振り回されてトラブルメーカーな印象が強かったが、今回はそんなドリーの冒険を通して挑戦することの感動を感じさせてもらった。
大海原の冒険は危険に満ちている。これからドリーが再び家族と離れ離れにならないことを祈っている。
(96分)