第1035作目・『帝一の國』 | 【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

テーマ:

『帝一の國』

(2017年・日本)

〈ジャンル〉コメディ



~オススメ値~

★★★★☆

・学園内で起こる政治的闘争ドラマ。

・策略家で野心家の菅田将暉の鋭い目が光る。

・若手イケメン俳優たちの個性が爆発する。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『時は昭和。超エリート学生が集まる名門校、海帝高校の生徒会は将来の内閣入りが確約されているという。そんな海帝高校に首席成績で入学した新入生の赤場帝一。彼の目標は、海帝高校の生徒会長となって将来の総理大臣になることだった。そのためにはいかなる策も惜しまない。帝一は入学早々、生徒会へ入り、次期生徒会長候補の氷室ローランドへ近づく。そんな中、エリート校に庶民から独学で入学した大鷹弾はローランドの対立候補となる森園億人に支援を示した。』


野心が、とまらない!!!


《監督》永井聡

(「ジャッジ!」「世界から猫が消えたなら」「恋は雨上がりのように」)

《脚本》いずみ吉紘

(「ROOKIESー卒業ー」「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」)

《出演》菅田将暉、野村周平、竹内涼真、間宮祥太朗、志尊淳、千葉雄大、永野芽郁、木村了、吉田鋼太郎、ほか




【若手イケメン俳優、華の乱】

監督は永井聡
ソフトバンクのCMなどを手がけ、『ジャッジ!』『世界から猫が消えたなら』などを生み出したCMディレクター出身の監督である。
どうも私はいつも本作のポスターを見るたびに、なぜか三池崇史が手がけたものだと思い込んでしまい、何度もスタッフ名のところを見て永井監督ということに驚くのだが、やはりまた時間が経つと三池作品だと思い込んでしまう。
漫画の世界から飛び出したような現実離れした世界観とビジュアルに引っ張られてしまうのだろうか。

漫画の実写化については厳しい評価も多い中、本作は成功例として挙げられるかもしれない。
菅田将暉や野村周平、竹内涼真など輝く売れっ子イケメン俳優を並べたところは集客ポイントの一つだったかもしれないが、それよりもストーリーが面白く、鑑賞後の満足度が高かった
思っていたよりも笑えたし、意外な展開にあっと驚くシーンもあったのだ。そして、帝一と光明の策略家ぶりがすごい。
これはもはやコメディの枠を超えた、政治家ドラマなのである。

ストーリーを簡単に。
時代背景は昭和である。菅田将暉演じる赤場帝一の夢は総理大臣になって自分の国を作ること。そのためには歴代総理大臣を多く輩出している海帝高校生徒会長になる必要がある。小学生のある時から猛烈に勉強をし始めた帝一は、見事に海帝高校に入学し、生徒会長の座を狙って邁進し続けた。
この生徒会には同じように野心に満ちた猛者どもが集まっている。ライバルを全員蹴落とし2年後の生徒会長選で選ばれるには、次期生徒会長に選ばれた人間の懐に入っておかなければならない
入学早々、志尊淳演じる光明の補佐を受けながら次期生徒会長候補の氷室ローランドに近付く帝一。

対立候補は千葉雄大演じる森園億人。
生徒会長戦の民主化改革を訴える億人に対して、運動部を優遇すると訴える氷室が優勢であるかのように見えたが、ある事実が発覚して帝一は億人に鞍替えせざるを得なくなった。
帝一は見事な離反で億人に近付き、裏切ったばかりの友人・大鷹弾が支援する億人の元に何の悪びれる様子もなく入り込む。大鷹弾を演じるのは、「爽やか」が服を着て歩いているような好青年の竹内涼真である。
そして帝一が戊辰戦争の「錦の御旗」から連想し、提案したイメージアップ戦略「マイムマイム作戦」で億人の支援者は急上昇。一方、追い込まれて賄賂を渡していた氷室の株は落ちていくのだった。

↑マイムマイムは幼い頃から身体に染み付いた音楽で人々は億人を賞賛するかのように輪を囲んで踊ってしまうのだ。何という恐ろしい計画!

そんな中、帝一の父・譲介は不正の疑いで逮捕されてしまい、帝一の総理大臣になる夢が崖っぷちに立たされる。失意にくれる中で帝一は総理大臣にこだわる理由を初めて明らかにした。
彼は、父から幼い頃に禁じられていたピアノを自由に弾きたかったのだ
スパルタ教育によって演奏より学業を優先させられたあの時から、帝一はピアノを誰にも邪魔されずに弾くために総理大臣になることを夢見たのだ。

↑絶望していた帝一を鼓舞する大鷹弾。お互い最大のライバルだが、互いがいないといつか訪れる生徒会長選も張り合いがないのだ。

やがて帝一は絶望から立ち上がり、ローランドと億人の生徒会長選を迎える。
運命の生徒会長選では波乱に満ちた展開の末、遂に億人が生徒会長に選ばれた
そして一年後、帝一と弾が激しく衝突する次期生徒会長選挙
億人の改革によって民主化された選挙で弾と帝一は半々の票を獲得していた。だが、投票締め切り直前に帝一は弾を支援する意思を示し、弾が生徒会長に選ばれる

あれだけこだわっていた生徒会長をなぜ諦めたのか。そこには驚愕の事実があった。
昔から帝一の足を引っ張ってきた野村周平演じる菊馬が、投票直前に帝一から弾へ投票を切り替えようとしていたのを察知したのだ。
「戦って負けた」と「勝ちを譲った」ではイメージがまったく違う。瞬時に判断した帝一は、弾に生徒会長の座を譲渡し、ちゃっかり弾を支える副会長の座を射止めたのである。
数日後、生徒会長の横で念願のピアノ演奏をする帝一。曲目はマリオネット。帝一はほくそ笑む。
「君たちのことだよ……」

最後まで虎視眈々とトップを目指す策略家の赤場帝一らしいラストであった。

↑どんな状況になっても野心を忘れない帝一。すべては彼の掌の上で踊らされた出来事だったのかもしれない。


【昭和の野心家】

若手俳優の中でも役になりきった演技ができる菅田将暉らしい役どころである。
時代背景が昭和なのも良い。
現代の高校生が帝一ほど野心家だと、それだけでクラスメイトと馴染めないだろうし家族からも心配されるかもしれない。
最近の若者は無欲でおとなしいそうだ。
暴走族も年々減っているし、「熱血漢」という言葉は好青年とは結びつかない。それどころか「サムい…」とさえ言われかねない。

自分の世代でも今、定年前後で働く中年世代と比較しても妙に落ち着いているように見える。
高度経済成長を遂げて国中がギラギラしていた昭和だからこそ、帝一のような野心家がいてもおかしくはないのだ。

そんな中、政治家の息子や有力者の息子たちが集う上流階級の海帝高校に、大鷹弾のような庶民が学力だけで成績上位で入学してきている。大鷹弾は今は異端児かもしれないが、やがて海帝高校にも派閥や世襲にこだわらない時代の波が訪れるに違いない
億人が生徒会長選の民主化改革を訴えるのも注目だ。大平洋戦争が終わり、高度経済成長を遂げて時代は平成へと移り変わっていく。
その過程で次第に「個人の自由」を意識した風潮が押し寄せるだろう。
もうじき会長選の民主化を皮切りに、海帝高校の制度も多く変わってくるかもしれない。

帝一はそんな時代の変わり目に現れた、ある意味では少し“時代遅れ”の野心家なのだ。やはり時代の変わり目に先見的なのは億人や弾のような価値観を持っている人間であり、彼らの方が現代の我々から見ると真っ当なことを言っているように見える
とは言え、帝一はいたって真面目だし、真面目であるからこそ、その時代との「ズレ」が面白いのだ

帝一にとって総理大臣になることが人生のすべてであり、総理大臣を多く輩出している海帝高校の生徒会は彼にとって国会議員になる階段の1段目に他ならないのだ。
一歩踏み外せば総理大臣になる夢は大きく遠ざかる。慎重かつ大胆にライバルを蹴落とし、上手く懐に入り込んで生徒会長の座を狙わなければならない。
そのためには可愛い彼女の美美子との関係でも鬼にならねばならない時もあるのだ。

↑小学生の頃から帝一を守り続けてきた美美子。ヒロインなのにそれほど前面に出てこないのは、やはり本作が男たちの野心的ドラマだからか?

帝一の野心を支える光明というキャラクターも、これまであまりいそうでいなかったポジションだと思った。
帝一より手先が器用なようだし、帝一が思いもつかないようなアイデアで帝一を支える。彼ほど賢明なキャラクターだと、得てして主人を裏切る最後のライバルといったような展開になりそうなのだが、光明は最後の最後まで帝一を支える右腕であり続ける。生徒会長選でローランドが敗北を喫した時、帝一が絶望するかもしれないと予期して転落防止のマットを事前に敷いておくなど痒いところに手が届きすぎる。
中性的な光明は野心家のギラギラした帝一に人間的な意味でも惚れているのかもしれない。
ただ、志尊淳の演技はあざと過ぎた

そして、それほど野心に満ちた帝一が最後の最後で明かした総理大臣を目指す理由に腰が抜けた。
彼は、「ピアノを誰にも邪魔されることなく自由に弾きたかった」のだ。
それは幼い頃、スパルタ教育でピアノを父から取り上げられたことが原因となっていた。たったそれだけのことで、帝一はこれほど総理大臣に執着していたのだ。
野心家の帝一の根底を支えていたのは、誰よりもピュアな願望であった。

仕事で働いていると野心に満ちてのし上がろうとする人をたまに見かける。それほど多くはないが、今の時代でも野心的な人はいて、周囲の人間は振り回されたり傷付けられることもある。
そういう人間を見ると、どれほど欲望が渦巻き、どれほど人より優位に立ちたいのだろうかと詮索してしまいがちなのだが、実は彼らが望む願いは、思っているよりもピュアな感情なのかもしれない。
帝一のようにピュアな願望が膨らんで、会社のトップや国のトップに立つ人間になっているのかもしれないのだ。

真実を知ったら拍子抜けするかもしれないのだが、そんな小さな願いを叶えるために大きな目標を立てて、そのゴールに向かって全身全霊をかけて奔走する帝一のような野心家のエネルギーについては、素直に感心するのだった。


(118分)