【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。

『プリティ・ウーマン』

(1990年・アメリカ)

〈ジャンル〉ロマンス



~オススメ値~

★★★☆☆

・ジュリア・ロバーツとリチャード・ギアによる名作ラブコメ。

・時代と共に変化していく捉え方や価値観。

・ホテルマンたちの気遣いが素晴らしい。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『実業家のエドはパーティを抜け出し、社内弁護士のフィリップの車を借りてホテルへ戻っていた。道に迷って繁華街に入ったエドは娼婦のビビアンに道案内のため声をかける。高級車に乗るエドから金を取ろうと目論むビビアンは高額な報酬を提示して、ホテルまでの道のりを案内する。道すがら、ビビアンの奔放ぶりに惹かれたエドは、そのままホテルへとビビアンを案内した。高級ホテルのスイートルームへと入っていくエド。ビビアンは早速仕事に取り掛かろうとするが、エドは多額の報酬を条件にまずはゆっくりした時間を楽しもうとしていた。朝を迎え、仕事の電話に追われていたエドはビビアンに、日曜日までの6日間エドの恋人役として社交場などに付き合ってくれないかと交渉する。ビビアンは多額の報酬を条件にエドと契約。金の工面に困っていたビビアンにとって、それは願ってもいないチャンスだったのだ。だが、社交場に必要なドレスを用意しようとするも、娼婦のビビアンに店側も服を売ろうとしてくれない。困っていたビビアンに対し、ホテル支配人のバーニーは助け舟を出してくれる。上品なドレスを仕立て上げられたビビアンは見違えるように美しくなり、エドの買収計画を完結させるべく、モース社の代表と息子との会食に同伴するのだった。』


〜いつもの街角に別れを告げて 女は"夢"に逢いました。男は"愛“を知りました。〜


《監督》ゲイリー・マーシャル

(「潮風のいたずら」「プリティ・プリンセス」「バレンタインデー」)

《脚本》J・F・ロートン

(「沈黙の戦艦」「ハンテッド」「チェーン・リアクション」)

《出演》リチャード・ギア、ジュリア・ロバーツ、ローラ・サン・ジャコモ、ラルフ・ベラミー、ヘクター・エリゾンド、ジェイソン・アレクサンダー、ほか





【その夢から目覚めてはならない】

ハリウッドには夢がある。

ジュリア・ロバーツリチャード・ギアによる言わずと知れた名作。ただ、これまであまり興味が湧いていなかったので一度も見たことがなかった。ようやく初鑑賞。
企業買収によって利益を稼いでいる実業家のエドワードはある夜、ハリウッドの街中で娼婦のヴィヴィアンと出会う。道案内をしてもらうまま、ホテルまで入った二人は意気投合し、翌日、エドワードはロサンゼルス滞在中6日間の長期契約を結ぶ。6日間、社交場に付き合ってもらおうと考えたのだ。
お金に困っていたヴィヴィアンにとっても願ってもないチャンスであった。
やがて二人の間に契約関係を超えた恋愛感情が生まれ始める

始めは露出の多い娼婦の格好をしていたヴィヴィアンだが、エレガントでシックなドレスに身を包んで、次第に見違えるように変化していく。エドワードも一目見て彼女だと気付かなかったほど。
ところが、振り向いてこちらに歩いてくる時の歩き方はまるで不慣れでぎこちない。体を揺らしながらこちらへと向かってくるのだ。
着飾ってもヴィヴィアンはヴィヴィアンであることが分かるのが実に可愛らしい。

ヴィヴィアンがかつて子供の頃に夢見ていたのは白馬の騎士がお姫様の自分のことを迎えにくることであった。
大人になったヴィヴィアンの周りに群がる男たちは、金を払って自分の身体を買う男たちばかりだった。娼婦という仕事をしている定めでありながらも、ヴィヴィアン自身もこの穴から抜け出せないまま身も心もどこかへ置いてきてしまったのだろう。
結局、エドワードも単なる顧客の一人でしかない。高額な金額で1週間の契約を結んだ裕福な顧客なのだ。
ヴィヴィアンがエドワードに愛を伝えられないのは、客と娼婦という見えない壁が働いているからなのだ。

ヴィヴィアンはこれまで客の唇にはキスをしないという自分自身との約束を守っていた。唇にキスをしてしまえば、ただのロボットだった自分に情が芽生えてしまいそうだからだという。
そんなヴィヴィアンが何日もエドワードとの刺激的で新しい世界を見させてもらうにつれて、自ら眠っているエドワードにキスをしてしまう
ヴィヴィアン自身も気付かぬうちに、この契約関係を超えてしまいたいという情が生まれ始めていた。そしてそれは、お伽話や物語にありがちな、長い眠りを覚ますかのような禁断のキスの意味合いに近かった。ヴィヴィアンにとって、封じていた客との恋愛感情を目覚めさせるものだったのだ。

ところが、どんなに情が生まれても、契約期間が過ぎればエドワードは約束していた金額を支払い、ヴィヴィアンはエドワードとの関係を切ることになる。
エドワードとはお金によって繋がる関係なのだ。そこを越えるには、人生を覆すほどの決意と覚悟が必要であった。
事実、この6日間だけでもヴィヴィアンはこれまでとは違う屈辱を何度も味わっていた。服屋に入れば露出の多い格好から追い出され、テーブルマナーも分からない
その度に恥ずかしい思いをしていたのは、自分でも分不相応な世界に足を踏み入れているという自覚があったからだ。
お互いにまったく別の人生を歩んでいた二人だからこそ、その一線はとてもハードルが高いものだった。

エドワードからもう一晩一緒にいて欲しいと頼まれた時もヴィヴィアンはその願いを断ってしまう。
もしもその気持ちに応えてしまったら、客と娼婦という関係性を完全に超えてしまう。世界がひっくり返ってしまう。1週間通して見てきたエドワードと過ごす世界はヴィヴィアンの身の丈には合わない
そんな諦念の心境がヴィヴィアンの本当の心に蓋をしてしまうのが切ない。



【夢が叶った非常用ハシゴ】

そんなヴィヴィアンのことを忘れられないエドワードは、彼女の自宅に迎えに行く。
冒頭、ヴィヴィアンは家賃滞納で怒っている管理人から見つからないように自宅アパートの窓から外へと抜け出していた。非常用ハシゴを降りて、ひっそりと抜け出すヴィヴィアン。
ところが、クライマックスではその非常用ハシゴはエドワードがお姫様を迎えにくるためのハシゴへと役割を変えて再登場する
白いリムジンでやって来て、花束を持ち、高所恐怖症のエドワードがハシゴを登る様は、さながら白馬の騎士が勇気を振り絞ってお姫様を助けるために塔を登ってくるかのようである。

お姫様はこれまでずっと小さなアパートに幽閉されていた。この小さな部屋に閉じ籠り、自分が住む世界は夜の街にしかないという限定的な世界に自分を置いていた
エドワードと出会い、ヴィヴィアンは自分自身の可能性を知った。身を着飾り、背筋を伸ばして堂々としていれば、周りの人たちの視線が変わるということ。娼婦を見定める見下した目から、高貴な女性を見る時の羨望の目に変わるということ。
自分自身を娼婦にするのも、女性としての誇りを守るのもすべて自分自身の一歩で変わるのだということを、エドワードとの関わりで知ったのである。

幼い頃のヴィヴィアンの夢は、お姫様の自分を助け出す騎士が現れるというものだった。
そして今、迎えにきたエドワードによってその夢は実現する。
二人が抱擁する階下で、「ハリウッドは夢が叶う街」と叫ぶ男が歩いている。彼は序盤でも街行く人たちに夢はあるかと尋ね歩いていた。薬物が蔓延る街なので、その時は気が触れた人としか見えなかったが、最後にまた彼が現れてその意味が通じることになるとは思いもしなかった
上手い伏線回収である。

ただ、この作品はおそらく時代の変化とともに見方が変わってくるのだと思う。
この当時は純粋に「現代版シンデレラストーリー」として好評を得ていたかもしれないし、実際にその視点で見れば爽快なラストで面白い。しかし一方で、今の視点で見るとどうだろう。
最初、前情報が何もなかった私はエドワードは結局お金を出しつつも彼女とはプラトニックな関係で恋愛に発展していくのだと思っていた。
エドワード自身がまるで君の身体を買ったわけではないかのように紳士的に振る舞っていたからだ。ホテルの部屋に入っても、彼は仕事の書類と向き合って、ヴィヴィアンが迫ってきても一度は断っていた。

ところが初日の夜から結局エドワードはヴィヴィアンと娼婦として関係を持つ。その時、違和感を覚えたのは事実である。もちろんヴィヴィアンはそのつもりでホテルまで付いてきているし、エドワードが顧客である以上、ある意味自然のことなのかもしれないが、だからこそエドワードとヴィヴィアンはお金で契約された関係であるということが確立したのだと思う。
そしてそれは、そのまま大金を払って6日間契約したことも、お金を払って着飾らせたことも、まるでエドワードが大金によって自分好みの着せ替え人形を作っていくかのようにも見えてしまうのだ。
しかも二人には相当の年齢差がある。とても悪意のある言い方だが、純愛とは違う歪んだ関係のように見えてしまうのも事実ではないか。
やがて彼はヴィヴィアンの人生を迎え入れるのだが、ヴィヴィアンという女性がエドワードに依存していないと生きられなくなってしまったという側面も浮き彫りにされている気がする
結局のところ彼女の自立は、エドワードの経済力によって実現されている。

ただ、個人的にはその見方はあくまで一面的でしかないようにも思える。
ヴィヴィアンのことをお金で囲っていたという事実だけで見れば、そのように歪んだ関係に見えるかもしれない。しかし、ヴィヴィアンとの出会いによってエドワード自身の内面に変化が生まれていることは一つの大きな成長だったと思う。
これまで企業買収を利益の部分でしか見ていなかったエドワードが、モース社との企業買収案においては買収を取りやめ、業務提携をすることを決めていた。
それはヴィヴィアンの言葉から自分の本心を突かれたからだった。モース社との会食で社長から激怒されたことに落ち込んでいた時、ヴィヴィアンはエドワードが社長のことを人として気に入っていることを見抜いていたのだ。

10年来の友人と称していた顧問弁護士のスタッキーのクズ男っぷりが露見された時には、エドワードは激怒してスタッキーとの縁を切ってしまう。それもまたヴィヴィアンのことを傷付けようとするスタッキーから守るためであった。
人の素質を見抜き、純粋に感情を表現することのできるヴィヴィアンの良さはエドワードにはないものだったのだ。
エドワードの内面を変えた出会いであるところを見ても、決してただのお金で囲った関係ではないように思える。

また、このホテルのスタッフが有能揃いでとても感激した
ヴィヴィアンの正体にうっすら気付きつつも、彼女の嘘に付き合って、彼女に服を仕立てるよう仲介してくれる支配人。こんなに尽くしてくれたのに名前を紹介しても覚えてもらえないのもまた、裏方として健気である。
空気の読めるエレベーターボーイも素晴らしい。
彼女のことを応援してくれているスタッフがこのホテルには沢山いたことが、ヴィヴィアンにとっても幸いだつた。
こういう所こそ名門のホテルなのだろう。

ジュリア・ロバーツが純粋に喜怒哀楽を表現するのがとても微笑ましいのも、本作の見どころの一つである。
ホテルのバスタブで音楽を聴きながら大熱唱してしまったり、初体験のオペラ鑑賞で感激したり。
娼婦の格好で店に入った時に追い出された店へ再び翌日着飾って来店し、
「昨日コケにしたでしょ?逃がした魚は大きいわよ。」
と店員たちを挑発するのも最高に痛快だった。
客を見た目で選ぶ店員への逆襲は実にスカッとした。


(119分)