【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

【発掘キネマ】〜オススメ映画でじっくり考察 ☆ネタバレあり☆

いつの時代も名作は色褪せません。
ジャンル、時代いっさい問わず、オススメ映画をピックアップ。
映画で人生を考察してみました。
【注意】
・ネタバレあり
・通番は個人的な指標です。
・解説、感想は個人の見解のため、ご理解下さい。



『爆弾』 

(2025年・日本)

〈ジャンル〉ミステリー/サスペンス



~オススメ値~

★★★★☆

日本アカデミー賞で最優秀助演男優賞を受賞した佐藤二朗の怪演。

・リアルで緊迫感のある展開が良い。

・いつ爆発するか分からない人間の「悪意」。


(オススメ値の基準)

★1つ…一度は見たい

★2つ…良作だと思う

★3つ…ぜひ人にオススメしたい

★4つ…かなりオススメ!

★5つ…人生の一本、殿堂入り

〜オススメ対象外は月毎の「ざっと書き」にて紹介



〈〈以下、ネタバレ注意!!〉〉



《あらすじ》


『野方警察署に連行されてきた中年男性、自称「スズキタゴサク」。酔っ払って自販機を蹴り飛ばし、酒屋の店主を殴った事件で取り調べを受ける。取調室でのらりくらりと語るスズキは、やがて「自分には霊感がある」と述べ、近々秋葉原で何かが起こると予告。すると、予告通り、秋葉原で爆発事故が起こり、その後もスズキは連続して東京各所での爆破を予告したため、連続爆破事件の重要参考人となる。警視庁捜査一課の清宮と類家はスズキの取り調べを行うことに。雑談めいた話ばかり続けるスズキだったが、頭のキレる類家はそれらの話が次の爆破予告のヒントになっていることに気付く。クイズを解いて、九段下の新聞販売所を捜索場所に絞った警察は徹底的に捜索を行い、被害を食い止めた。しかし、その次の爆破予告は焦った清宮が早合点してしまい、大勢の被害者が生まれてしまった。そのため、取り調べは部下の類家に交代することとなり、類家とスズキの一騎打ちが始まる。一方、スズキが潜伏していたと思われるシェアハウスに辿り着いた警官の矢吹と倖田だったが、そこにあった謎の死体の爆発に巻き込まれ、矢吹が重傷を負ってしまった。』


《監督》永井聡

(「世界から猫が消えたなら」「帝一の國」「恋は雨上がりのように」)

《脚本》八津弘幸、山浦雅大

《出演》山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、片岡千之助、中田青渚、加藤雅也、正名僕蔵、夏川結衣、渡部篤郎、佐藤二朗、ほか






【取調室で起こる攻防戦】


日本の映画は面白い。
特に取調室を描いたミステリーは日本語の方が良い。
洋画の字幕は訳者の意図も加わり、実際の会話の雰囲気と微妙にズレることがある。そもそも実際の言語を理解しながら聞き取った時の印象と、字幕を読み取った時の印象はズレて当然
ところが、邦画はそれがない。日本語だからダイレクトにニュアンスが伝わる
本作のようなスピーディで語彙量の多い会話劇が繰り広げられると、それは字幕を読むよりも圧倒的に耳で聞き取って、ダイレクトにこの緊張感を感じる方が楽しめる
取調室でのスズキの与太話に見せかけた事件のヒントや、類家の冷静沈着な応戦を聞き逃すまいと耳をそばだてて集中して見てしまうのだ。

事件の発端はある夜、酔っ払いが捕まって警察に連行されてきたところから始まった。
スズキタゴサクを名乗る男は、大きな事件が起こる事を予言。その予言通りに秋葉原で爆発事件が起こり、続いて東京ドーム付近でも同様の爆発事件が起こる。
スズキは事件の真相を知る重要参考人となり、警察との熾烈な攻防戦が始まるのだ。

昨年末の話題作を早速Netflixで楽しめるのは大変有り難かった。評判通り、とても面白かった
最初から最後まで食い入るように見入ってしまった。

まずやはりキャスティングが素晴らしかった
今実力もあって人気のある俳優陣の中から、役に最適なキャスティングをした感じ。
日本アカデミー賞で最優秀助演男優賞を受賞したスズキタゴサク役の佐藤二朗はもちろんだが、類家を演じた山田裕貴や、等々力を演じた染谷将太にも警察組織の中で抱える陰の部分を感じて良かった。
先輩を支える倖田役の伊藤沙莉も、事件で手柄を立てるために焦ってしまった矢吹役の坂東龍汰も良かったのだが、個人的には若手の中で期待を背負っていたが故に取調室でスズキにまんまと嵌められた伊勢刑事役の寛一郎や、普段は部下を都合の良し悪しで値踏みしていて信頼が寄せられないが、結局は倖田らの失態も背負ってくれる上司の正名僕蔵人間臭くて魅力的だったと思う。

秋葉原の爆発を皮切りに、スズキタゴサクの予言が決して冗談ではなく、悪質な凶悪犯罪であることが判明するのだが、スズキは爆破箇所を匂わせるクイズを出し、警察たちは謎解きを考えながら爆破阻止に奔走する
だが、スズキの掴みどころのない会話に翻弄され、事件の早期解決を焦った結果、次々と爆発事件が起こり、多数の被害者が生まれてしまう
警察が万能で、スズキの計画を万事阻止するようなヒーロー物語ではないのがリアルで良い
特に、幼稚園児とホームレスの命を天秤にかけるクイズで、子どもたちの命を守る事に焦った清宮刑事が判断を誤り、ホームレスたちが多数犠牲になったのは、残酷だが、人間のえぐみを浮き彫りにして嘲笑っているスズキらしい厭らしい展開であった

爆発の可能性があるため封鎖していた各駅も、清宮らが封鎖を継続するよう上に依頼していたにも関わらず、交通麻痺による混乱解消の圧力に負けて、警察上層部が勝手に封鎖を解除した結果、その直後に各駅で爆破が起きてしまう
警察は懸命に奮闘しているが、上層部が部下を信じられなかった対応のせいで、被害は拡大。世論から激しく糾弾されること間違いなしなのだ。
矢吹の必死の働きで新聞配達員の外国人一人は助けることができた。一方で、封鎖解除で駅に雪崩れ込んだ多数の乗客たちは犠牲に遭う。一人の命を助けられても、それ以上の数の命は奪われる
決して御都合主義ではないストーリーがリアルで緊迫感を感じさせた


【日陰に生きる身元不明の人間】


事件がひと段落つき、なぜスズキがこのような事件を起こしたかの背景は見えた。
スズキ本人が語ったわけではなく、あくまで状況証拠から導いた類家の推測に過ぎない。だが、正体も動機も見えなかった事件の霧が少し晴れた頃にストーリーは終わる。
映画の最後、スズキの「身元は不明のままである。」と語られる。
これが最も恐ろしいポイントだと思った。

最後の爆弾が見つかっていないのも不穏なのだが、そもそも最後の爆弾があるかどうかも不明。その時点で、人はいつどこで不条理に事件に巻き込まれるか分からないというのは真実だと思う。どこで、なんのきっかけに爆発が起きて巻き込まれるか分からない。
日常に不穏は常に潜んでいるのだ。それが真理だと気付けば、それはそうかと飲み込んで暮らしていくしかない。不条理な不穏が潜んでいることから意識を逸らし、人々は幸せに生きているのだ。

だが一方で、この社会には身元が分からない人間が数多うごめいているという方が恐ろしい。
スズキタゴサクという名前で目ぼしい人物が見つからなかったということは、その名前は偽名で間違いないのだろう。
だとしても、顔を報道して公開捜査に至り、あれほど世間を震撼させたにも関わらず、彼を知っている人間が名乗りでないということなのだ。出生から今に至るまで、完全なる孤独だったのかもしれない。
他者と関わることはあったはずだ。だが、誰からも認識されず、記憶されずに生きていた。
これほど恐ろしいことがあるだろうか。

スズキが唯一他人に認識してもらえたのが、石川明日香だった。
その明日香にさえも、利用されたように感じた時、スズキは自分以外の全ての人間に無関心になったことだろう。

伊勢刑事に「仲良くなりたい」と言っていたのは嘘だった。結果的に伊勢刑事を利用するためのスズキの口車であった。
一方で、類家のことを最後まで本人には名前呼びしなかったのは、類家のことは利用できないことを察知したのだ。その優秀さゆえに利用できないというのもあるが、自分と同じく周囲の人間から浮いた存在であり、同類だからこそ名前呼びをしたら本当に類家に引き込まれて同調してしまいそうな雰囲気を察したのかもしれない。同類に感情移入しないよう、あえて距離を取ったようにも見える。
スズキは頑なに本人には類家の名前を呼ばなかった。最後に等々力刑事との会話の中では類家の名前を出していたように、彼はしっかり記憶していたにも関わらず。

また、スズキは類家を同属の人間であることを見抜いていた。
自分以外のすべての人間を憎み、嘲っている人間だ。いつまでそのマスクを被っているつもりかと、スズキは類家を誘い込む。取調室には取り調べを受けている人間、取り調べをしている人間という境界線が引かれている。そんな中で、スズキは類家を線のこちら側へ引き込もうとしているのだ。

類家は最後までスズキの挑発には乗らず、自分が同類であることを認めた上で、そんな社会から自分は逃げないと宣言する
だが、スズキの誘導は多少なりとも類家の中にある「悪」の導火線に火をつけたかもしれない。すぐその火が爆弾のように爆発するわけではないが、時限式爆弾のように類家の中に着火したまま残り続ける
世間への諦念、失望、恨みつらみ…そういったものが積み重なるうちに、類家もスズキのように事を起こすかもしれないのだ。
しかもその時は、切れ者の類家はスズキより、「もっとうまくやれる」のだろう。

うさんくさい酔っ払いが急に凶悪犯罪者の本性を見せ始めた冒頭から、最後の事件解決に至るまで、ずっと緊迫感と不穏な空気が続いているサスペンスであった。