「おはよう。」
「リョウ、宿題できてる?」
「まあね。」
「ちょっと、見せて。」
いつもボクにねだってくるのは、小林英孝(こばやしひでたか)。ボクの親友だ。たいがい、コイツとつるんでいる。
「リョウくん、おはよう。」
「おはよう。」
彼女は幼馴染の高山涼子(たかやまりょうこ)、ボクの涼に「子」が付くか、付かないだけで、名前が似ている。涼子は男っぽい性格で、あんまり女子とつるまない。昼休みだって、ボクと小林の涼子の3人で食べることが多い。
ボクが部活で遅くなっても、涼子は勝手にボクの部屋で待ってることがあるので、あんまり変なものは置いておけないんだ。ボクがやってる部活は陸上部。あんまり、足が速くないけど、種目は短距離だ。今日も、授業が終わって、みっちり、部活をやって、家に帰った。
「涼子ちゃん、来てるよ。」
「え~、またかよ。」
自分の部屋に入ると、しっかりくつろいでいる。自分はしっかり、着替えてきてる。ということは、ボクんちで晩御飯まで食っていくつもりだ。涼子んちは、両親とも働いていて、二人とも遅くなるときは、我が家に来る。まあ、家が近いせいもあるけどね。
「ちょっと、ボクが着替えるまで、台所でかあさんと話でもしてきなよ。」
「あれ~、恥ずかしがってんの。」
「いいから、いけよ。」
涼子を追い出すと、服を着替えて、カバンから宿題を出して机に置いた。こうしておけば、忘れることはない。
「ご飯よ~。」
「は~い。」
こんな日は、3人でご飯だ。お父さんはいつも遅い。
「さあ、涼子ちゃんも座って。」
「はい。」
今日は中華だ。チャーハンに餃子、エビチリ、サラダその他もろもろ。
「あとで、宿題、一緒にやろうよ。」
「リョウくん、涼子ちゃんに教えてもらったら。」
「逆、逆、ボクが教えてんの。」
「違うよ。私だよ。」
いつも静かな夕飯が、この時ばかりはやかましい。でも、お母さんはうれしそうだ。食後、ちょっと一服してから、部屋へ上がった。
「ん、じゃ、やるか?」
「今日のは、難しいかな?」
「いや、そんなに難しくなかったと思うよ。」
「よかった。」
30分ほど、真剣に問題を解くと、涼子もほぼ終わりそうだった。
「じゃ、あとで、送っていくよ。」
「ありがとう。」
宿題が終わると、リビングへ戻り、また、3人でテレビを見る。適当な時間になると、ボクが送っていく。いつものパターンだ。
ようやく、ボクひとりの時間が味わえる。のんびり、部屋でくつろいでいると、不思議なことが起こった。
(リョウサマ。)
いきなり、声が聞こえた。
「えっ、だれ?」
(AI-206111REX)
「はぁ?」
なんじゃ、そりゃ。それにどこに女の人隠れてるの?確かに、声は女性だ。
(回復まで、かなりの時間を要します。回復したら、またお会いしましょう。)
「ちょっと、待って。」
しばらく待ったが、それ以後何も聞こえなくなった。いったい、なんだったんだろう。今の声はどこから聞こえてきたんだろう。でも、その声はそれっきりだった。1日経っても、数日経っても、もう聞こえることはなかった。ボクもそのまま、そのことはほとんど思い出すこともなくなった。
(つづく)