◆ストレス社会に生きる私たち
今、カラダがしている動作と、頭で考えていることが、違う、
という経験はありませんか?
TVを見ながら食事をしたあと、料理の味を覚えていますか?
考え事をしながら帰ってきたときの帰り道の景色を、覚えていますか?
情報化社会に生きる現代人は、一日の思考回数が6万回とも言われています。
変化の早い時代にあって、私たちは情報処理のスピード化も求められているのです。
よって、頭の中では次から次へと興味・関心が飛び移り、
一度考え事が始まると、連鎖的に別の思考が始まり、
気づけばカラダは無意識的に動いていて、
考え事の間、カラダが何をしていたのか、よくわからない、ということが起こります。
過度の思考によるもう一つの問題点は、
思考もまた、無意識的に延々と行われているということに加え、
思考は”感情”も連れ出します。
何か過去の出来事を思い出した時、
ただ思い出すだけではなく、
あたかも今、また再びその出来事が起こったかのように、
その時の「感覚」が思い起こされるのです。
もしそれが、マイナスの感情であれば、
6万回のうち何割が嫌な感情で溢れるでしょうか。
マイナスな感情は交感神経を刺激し、闘争や逃走に備える反応を起こします。
いわば、無意識のうちに過緊張状態が継続してしまっている、
ということも起こり得るのです。
◆無意識に『気づく』トレーニング
『マインドフルネス』とは
「脳の休息法」であり、「気づきのトレーニング」です。
マインドフルネストレーニングを始めると、最初に行うことは、
<自らの思考に気づく>
練習です。
練習に用いられる手法は様々ですが、
一番スタンダードな「瞑想」法の場合、
ただ目を閉じて静かに座り、
吸う息 と 吐く息 をただ感じます。
「吸っているときに 吸っていると気づき
吐いているときに 吐いていることに気づく」
(ティク・ナット・ハン)
たったそれだけのことなのですが、
脳は次第に思考し始めます。
「飽きてきたな。何が面白いんだ?あれ?集中できないぞ?
もう動きたい!目を開けたい!
そうだ、このあとあの人の連絡しなくちゃ!」
など、様々な思考が頭を埋め尽くし始めます。
そこで、「はっ!いま、考え事をしてしまっていたぞ!」と気づくのです。
呼吸から意識が別のことへ向かってしまっていることに”気づいたら”、
それが良かったか悪かったかと評価をせず、
ただ気づき、
また呼吸へ意識を戻します。
これだけ、です。
マインドフルネス瞑想は、この繰り返しです。
ですので、何かをイメージする必要もなければ、
誰かを信仰する必要もなく、
ただ自らが思考していることに気づいて、その思考を一度やめ、
今、この瞬間の事実へと意識を戻す。
それだけです。
無意識の思考は、”気づけば”止まります。
ですので、先ほど挙げたマイナスの思考も、
もう延々と何日も、寝ても覚めても思い出して嫌な感情を味わっていたとすれば、
それはただの思考=妄想であって、
もう今は起こっていない、
と”気づけば”いいのです。
無意識に思考が続いている状態を、<思考の自動操縦状態>と言います。
この自動操縦に、現代の多くの人がどれほど苦しめられているでしょう。
自動操縦に気づき、止めることができるようになれば、
現代人のストレス=苦しみは、自らが生み出していた、
ということがわかるはずです。
◆自己受容と慈悲心
マインドフルネスのもう一つの特徴は、
<自己受容>ができるようになる点です。
こうして自らの思考に気づき、その思考に反応せず、
今に意識を戻すと、
時に、自分を責めていたり、自分を非難・批判していることに気づくことがあります。
思考が無意識的に繰り返されているうちは、
この”自分攻撃”はいつまで経っても止まりません。
まるで自分で自分をいじめるように、心はいじめられる苦しさを味わい続けます。
結果、自己評価はどんどん低くなり、
「私なんて・・・」
と、自己肯定感は低くなる一方です。
しかし、もし自分を責めていることに”気づい”たら、
「あ、また自分を責めている」
と気づく”だけ”、です。
気づいたら、
「ごめんね、また責めちゃったね。」
と声をかけ、再び今へと意識を戻します。
こうして自分の傷ついた心を癒すこと、
自分に愛情を向けることも非常に重要です。
ここでも、
<自分を責めていたのは自分>
だということに気づけば、
<自分に低い評価を下していたのも自分>
だとわかるでしょう。
自己評価が低いと感じている人は、誰に評価された訳ではありません。
自分の不出来さ、不完全さも、ただ認めて、受け入れればいいのです。
すると、他者も自分と同じく、不完全であることに気づきます。
間違えてしまうのも、怒ってしまうのも、私と同じ。
間違えながら成長しているのも、私と同じなのです。
結果、他者への慈しみも生まれ、愛情すら湧いてくるかもしれません。