ズーラシアンブラス制作者の大塚です。
前回は期待値を設定することの重要性についてお話ししましたが、

ここからは、設定した期待値をいかに裏切るか、つまり、どう陥れるかについて説明します。

 

コンサートの場合、裏切られた結果がうれしさや楽しさといった感動につながるものでなければなりませんから、期待値を「心地よく」裏切らなければならないのです。この「心地よく裏切る、または裏切られる」ことは期待値と常に連動しています。

 

 

 
プレゼントへの期待値 

 例えば恋人の誕生日にプレゼントを贈る機会があったとします。この場合も事前の下地作り=期待値の設定が重要です。

事前に男性側が「今度の君の誕生日にはすごい贈り物を考えているんだ」と伝えておいたとします。相手の女性はその一言で「どんなすごい贈り物だろう?」とあれこれ想像してしまいます。

「すごい贈り物」という漠然としたキーワードの場合、相手の性格やお互いの関係性によってとんでもない齟齬が起こりやすいものです。男性はいつもよりかなり高額なバッグをプレゼントしようとしていたとします。でも相手の女性は「すごい贈り物ってもしかしてプロポーズ?」と思っているかもしれません。

このように期待値の設定を間違えてしまうと、せっかく高額の出費をしたにもかかわらず、残念な結果になってしまうことも少なくありません。

一方で、事前に男性側は誕生日を忘れているふりをしていたとします。相手の女性はとてもやきもきします。

女性から「今日は何の日?」と言われても男性はとぼけ続けます。女性が思いきりがっかりしたところで、男性から「お誕生日おめでとう」と一輪の薔薇と小さなプレゼントを差し出します。女性の喜ぶ顔が目に浮かびますね。

 


 この誕生日プレゼントの事例には、二つの重要な要素があります。一つは対象者、もう一つは期待値と結果の差です。
 

 例えば誕生日プレゼントの演出を恋人でもない人に仕掛けたらどうでしょう。答えは明白です。勘違いされるか不気味がられるかです。同じ仕掛けをしたとしても対象者を間違えてしまうと全く異なる演出効果を生んでしまうのです。


 コンサートの場合、対象者は観客になるわけですが、すべての観客の属性が同じ訳ではありません。

ですからどの層を主たるターゲットにするのかがとても重要になってきます。女性なのか男性なのか、ズーラシアンブラスの場合はお子さんも沢山いますので、大人なのか子供なのか、さらには幼児なのか小学校低学年なのか高学年なのか中学生なのか、などなど対象者をかなり絞り込まないと効果的な演出は難しくなります。

一方で対象者を絞り込んだ場合に、対象にならなかった層へのフォローが心配ですが、よほどマニアックで、一部の人にしか意図する演出の概念がないような絞り込みをしない限り、大きな問題にはならないと思います。テレビでタレントに向けた手品や悪戯をその対象者ではない視聴者が見ていても楽しいのと同じことです。

 

対象者を絞り込むことは、効果的な演出が見えてくる第一歩です。また、子ども向けのコンサートだからと言って、子どもを対象者に設定する必要も無いと考えています。ズーラシアンブラスの場合は、《親子コミュニケーション》を目的としていますので、これが活発に行われるように、お母さんやお父さんを対象者に設定していることも多々あります。

 

 

 谷を掘って差をつくる

 もう一つの重要な演出要素は、期待値と結果の差です。観客を心地よく裏切るには、用意した結果が、観客の抱いている期待値を超える何かがなくてはなりません。観客の期待値とほぼ同じの場合は驚かれることはありませんし、それを下回るとがっかりされてしまいます。

しかしながら、コンサート企画を考えるときに観客が思っている以上のことをしようとどんどん盛り上げる方向に向かってしまうと、莫大な予算がかかります。重要なことは観客の期待値と結果の差を上手に作ることです。

 

 

例えば東京の高尾山は標高600メールの山ですが、海抜の低い東京では有名な霊山です。一方、日本で最も高い山 富士山の麓、富士吉田市では最も低いところで標高600メートルを超えます。富士吉田市では標高600メートルあっても谷になります。つまり同じ標高でも周りの状況によって山になったり谷になったりしてしまうということです。

 

制作予算を潤沢に使える【富士山型】のコンサートの場合には、ある程度アゲアゲの計画でも素晴らしい演出は可能であると思いますが、吹奏楽やクラシックコンサートのように、演出にあまり予算がかけられない【高尾山型】の場合、アゲアゲの計画をしてしまいますと平坦に土地をならすような結果になってしまいます。

ですから、「期待値と結果の差」を上手に作るには、山を作ると同時に谷を掘らなくてはなりません。上手に谷を掘ることができれば、作った山がより高く見え「期待値と結果の差」をより幅広く作ったことになります。

 

実際、ズーラシアンブラスでは谷を掘るため、どのように観客を飽きさせるかを真面目に考えています。限られた予算の中では、演出の引き算がとても重要な要素となります。
 吹奏楽の場合は【速い、高い、でかい】で山ができます。つまり速いパッセージを爆音で演奏し、トランペットがハイノートを当てれば、山のできあがりです。ここからさらに盛り上げていこうとすると衣装や装置、特殊効果やムービングライトなどなど、どんどん予算がかかってしまいます。ですから、上手に谷を掘らなくてはなりません。

 


 谷だからと言って、何でも良いわけではありません。谷こそ、ある意味吹奏楽やクラシック音楽の醍醐味といえます。音圧や技量ではなく、【音楽】を魅せる場面がまさに“谷”です。ズーラシアンブラスのコンサートの場合はオーケストラの後に木管五重奏を入れたり、休憩後の観客の集中力が戻りにくい場面で、あえて弦楽四重奏を入れたりしています。音楽に興味が薄い方やお子さんは、ここで飽きてしまうかもしれませんが、音楽への興味のある方には楽器の音色や合奏の魅力を堪能していただきます。こうした“谷”を経て駆け上がることによって、最後の山が生きてくると考えています。

 

 

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