ズーラシアンブラスの制作者大塚です。

今回はズーラシアンブラスの演出法第3弾、ズーラシアンブラスの演出についてお話しします。

 

 今回は「演出」とはどういった状況を作らなくてはいけないかについてお話しします。

一言でいうと演出は「観客に期待値を設定させ、それを心地よく裏切ること」であると考えられます。一般的に、演出を考えるときに「何をしようか」と考えがちですが、これですと対象も方法も漠然としてしまうので、うまくいく確率が低くなってしまいます。「何をしようか」ではなく「誰をどのような方法で陥れようか」と考えると成功する確率がぐんと上がります。

 

 

 予見させ、裏切る

 誰かを陥れようと考えたときに重要なことは、陥れる対象に次に起こる事象を予見させることです。

例えば手品で言いますと「ここには何もありません。種も仕掛けもありませんよ」と観客に思わせておいて、突然「いないはずのハト」が出てくるので驚くわけです。「いかにも何かを隠している」状況からハトが出て来ても誰も驚きません。肝心なことは「ハトを」出すことよりも「ここには何もないはず」と観客に予見させることなんですね。

学校の代表的な悪戯『黒板消し落とし』も同様です。先生が教室に入ってくる時にドアの上から黒板消しが落ちてくる定番の悪戯ですが、同じ悪戯を繰り返しやっている場合は、相手も何かあることを予見して警戒しますので悪戯に引っかかることはありません。

手品も悪戯も、対象となる相手に何かを予見させそれを裏切ることで成立しています。そう、演出は「悪戯」や「手品」と仕掛けがほぼ同じなんです。

 

 以前に大学生を対象に『冷めたコーヒー』の実験をしたことがあります。

 

 

5人の被験者の前に紙コップに入ったコーヒーを並べます。4人の紙コップには『冷めたコーヒー』が入っています。そして一つだけ『気の抜けたコーラ』を入れておきます。『冷めたコーヒー』にするわけは香りで判別しにくくするためです。5人一斉に紙コップの中の『冷めたコーヒー』を口元で匂いを嗅がず一気に飲んでもらいます。被験者の大学生には、もちろん冷めたコーヒーが入っていると伝えてありますし、何の実験かは伝えていません。全員が一斉に『冷めたコーヒー』を口にした瞬間、1人だけが奇声を上げます「なんだこれ?!」。運悪く『気の抜けたコーラ』に当たってしまった学生です。ここで面白いのは引っかかった学生はその瞬間「何が起きたのかわからない」ことです。気の抜けたコーラなんて普段口にする機会がありますから特に驚くことではありませんが、「これは『冷めたコーヒー』である」と思い込んでいる=予見しているために「何が起きたのかわからない」状態に陥ってしまうのです。

 このように「何をしようか」を考える前に、観客に次に何が起こるかを予見させる下地作り=期待値の設定が「何かをする」前にとても重要になってきます。

 

 

 サプライズのための下地作り

 ズーラシアンブラスのホールコンサート「音楽の絵本」で、最も盛り上がるシーンは後半のゴールデンターキン登場です。

 

 

「音楽の絵本」最大のサプライズです。このサプライズを効果的に生かすためにゴールデンターキンは最後の2曲になるまで登場しません。コンサートの終盤で新たな奏者が出てくるなんて、一部の既に知っているリピーターさんを除くほとんどの観客が想像していないころで登場し、観客を驚かします。このサプライズ登場には3つの下地作り=期待値の設定が行われています。

 

①サプライズまで姿を現さない
 1つは前述したように、最後の2曲になるまで身を潜めていることで、観客に新たなメンバーが出てくるとは思わせない下地作りです。

 

②ソロを吹くのはインドライオンと思わせる

ゴールデンターキンはインドライオンがソロを吹こうとした瞬間、そのソロを横取りするのですが、観客にはこれからインドライオンがソロを吹くんだと思わせなくてはなりません。そのため一部の後半できちんとソロを演奏するシーンを用意しておきます。

 

観客の中には「またトランペットのソロか」と思う人も少なからずいるはずですが、ライオンがソロを吹くことを予見してしまうことに変わりはありません。

 

 

③登場場所を変える

最後の3つめは登場場所です。1時間以上コンサートを鑑賞し続けていると観客はほぼ間違いなく演奏=舞台上と予見しています。この状況を作っておいて、客席の後方から爆音で高らかにラッパを吹くわけです。

 

 

思いもよらない奏者が、思いもよらないタイミングで、思いもよらない場所から登場する。

3つの下地作り=期待値の設定が観客には感動のサプライズとして受け入れられるのです。

 

 

 

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