ズーラシアンブラスの制作者大塚です。

今回はズーラシアンブラスとその仲間達のお顔のデザインについてお話しします。


 先日NHKのBSプレミアムでズーラシアンフィルハーモニー管弦楽団の演奏会が再放送され、その後視聴者から「子ども向けなのに何故、動物の顔があんなに怖いのか!何故もっと可愛らしくデザインしないのか」と言った内容のご意見が寄せられました。

こうした内容の意見が直接寄せられることは中々珍しいのですが、これまでも「宇宙人のグレイみたいだ」「リアルすぎる」等など、ズーラシアンブラスの顔についてはSNSなど各方面から総じて「怖い」と指摘されていますので、今回は《何故ズーラシアンブラスの顔は怖いのか》についてお話ししたいと思います。

 

 

  「怖い顔」「可愛い顔」とは?

 

 その前にどういった顔が怖い顔で、どういった顔が可愛い顔なのかについて考えてみたいと思います。
 喜怒哀楽という言葉があるように、人は喜びの表情、怒りの表情、悲しみの表情、楽しさの表情など、様々な表情を体全体で表現しています。表情というと=顔の表情と捉えてしまう方も多いかと思いますが、人は顔だけでなく声も含めた体全体で様々な表情を創り出します。分かりやすいところでは「肩を落とす」、「胸を張る」「声高らかに」等、顔以外で人の表情を伝える言葉はたくさんあります。

 

さらには...

人智学者のルドルフ・シュタイナーが創造した《オイリュトミー芸術》に至っては、言葉の母音や子音にも様々な表情があり、これら一つ一つに表情を具現化した動きが付けられています。私も、若かりし頃カルチャースクールで「オイリュトミー芸術講座」なるモノがありましたので、受講してオイリュトミーを体験してみましたが、なんだか分からないうちに終わってしまいました。本で読んでもよく分からなかったので、体験すれば分かるかもと考えましたが、結局私にはとても難しいモノでした。

 

それはさておき、表情=顔ではなく、人の表情は体全体で表現されているものです。しかし、一般に表情というと顔を指すことが多いように思われます。これは、顔には表情の象徴的な部分が集約されているからではないかと考えられます。例えば、目尻が下がって口角が上がっている、いわゆる笑顔は喜びや楽しさを表していますし、目尻が上がっていれば怒り、眉間にしわを寄せ口角が下がっていれば悲しみや哀れみを感じさせます。人はその時々によって自然とこれらを変化させるのです。

変化させると言うよりは、変化してしまうと言った方が正確かもしれません。こうした、表情の変化により人はその人の心情を推察し喜怒哀楽の感情を受け取っています。こうした非言語コミュニケーション全般をノンバーバールコミュニケーションと言います。一番怖いと感じてしまうのは、人の心情を推察することが出来ない無表情なのかもしれません。無表情はノンバーバルコミュニケーションを拒否する姿とも言えます。


 人の「笑顔」は、可愛らしさや楽しさなど人のポジティブな面を象徴していますので、多くの人は動物キャラクターにも「笑顔」を求めます。某有名猫キャラ群を除く、有名なテーマパークのキャラクターなども必ず「笑顔」です。では何故、多くのキャラクターが「笑顔」なのかというと、キャラクターとお客様が出会うシーンが、うれしさや楽しさと言ったポジティブなシーンに限定されていることが多いからだと思われます。明るくて楽しいシーンに笑顔で可愛い表情のキャラクターはとてもマッチします。

でも、この笑顔と出会っている時が、とても悲しい場面であると想像してみてください。たとえば、大切な人のお葬式に満面の微笑みをたたえて参列し、笑顔のままお焼香しているシーンです。これ以上怖いことありませんよね。楽しいはずの笑顔でも、それをたたえているシーンが嬉しい場面や楽しい場面でない場合は、何を考えているか分からない=恐ろしいことになってしまいます。つまり「笑顔」が、楽しさやうれしさを表している場合というのは、その状況とマッチして初めて成立するのであって、同じ「笑顔」でも状況が異なれば全く違う意味になってしまうと言うことですね。

 

 

  観客の心情を投影するスクリーン

 

 ズーラシアンブラスは動物キャラクターではありますが、その本業はテーマパークなどのグリーティングではありません。音楽の演奏です。しかも、クラシック音楽を中心とした演奏活動を行っています。クラシック音楽には色々な楽曲があります。全てが楽しく嬉しい曲ばかりではありません。悲しい曲や時にはおどろおどろしい曲想の楽曲まで、様々です。例えばベートーベンの悲愴を動物達が満面の笑顔で演奏していたらどうでしょう、かえって恐ろしいことになってしまいます。

ズーラシアンブラスのマスクデザインは、音楽を聴いた観客の心情を投影するスクリーンとしての無表情なのです。ですから、観客が写真だけで見たときや音楽に入り込まずにタダ顔だけを眺めていると「何を考えているか分からない」=「怖く」感じてしまうものと思われます。一方で、観客が音楽やその場の状況に入り込み共感していただけると、自然と観客の心情が動物達の顔に投影されて、可愛らしく見えたり、しょぼんとしているように見えたり、悪戯っぽく見えたり、眠たそうに見えたり、その表情は生き生きと表現されます。

 

某有名猫キャラ群のキャラクターも同じ理由で表情のないものが殆どであると思いますが、二次元キャラクターの場合は、2〜3頭身に出来るので表情がなくともその姿から可愛らしさが表現できますが、三次元キャラクターであるズーラシアンブラスの場合は演奏することを目的としていますので、ゆるキャラのように無理矢理の2頭身3頭身には出来ません。このようにズーラシアンブラスは観客が自らの心情を動物に投影し、その世界を堪能できるように設計していますので、無表情でパッと見ると「怖い」面構えになっています。

キャラクターの場合どうしても制作か段階で「可愛らしくしてしまう」バイアスが職人にもかかってしまうので、原画の段階では実際のズーラシアンブラスより更に「怖い」面構えになっているんです。

 

 

でもまあ、ちょっと考えてください。ズーラシアンブラスが特別なのではなく、オリジナルが3次元のキャラクターは、ウルトラマンにしろ仮面ライダーにしろゴレンジャーにしろ大体が可愛らしくありません。どうしても怖いと思ってしまう人はズーラシアンブラスのことを音楽会のヒーローと思ってください。そうすれば違和感なく見ることが出来るかもしれませんよ。

 

 

 

 

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