前々回、坪内稔典第一句集「朝の岸」の

50部特装限定版(沖積舎)について書いた。

その限定版より四年前に上梓されたのが

「私家版」(青銅社)で、BOX入り。

他に沖積舎から「新装版」も出ているらしいが

それは知らない。

この私家版は高柳重信の有名な?一文

「実は、僕は坪内稔典について、ほとんど何も知って

いないに等しい。すでに幾度も顔を合わせ、言葉をかわ

しているが、・・・・」と書き出された「序にかえて」から始まる。

序は国崎望久太郞師である。

この師は私も一般教科の文学かなにかで

一年間、講義を受けたことがある。

 

 無花果の花のジャン・ジュネ友斃れ

 

 口あけて死者来る朝の犬ふぐり

 

 石蹴りの石消え赤鬼ジーンと来る

 

私家版の前半は「日時計篇」とされ

「あらるげ」後の活動拠点であった「日時計」から

抽出された作品であろう。

私は当時活躍していたフランスの劇作家ジャン・ジュネと

「斃れ」の文字が好きで、無花果のこの句を愛唱した。

全体に「日時計篇」は暗く、いまの坪内稔典とは

異なる難解さを内包している気がする。

 

 橋の向うにまた街がある 橋がある

 

 ペニス隠す癖 生家の風呂の軽い水

 

 枯野行く母の名「つる」は妙だなぁ

 

後半は「半島篇」。
学生時代の句会で読んだ句が多く出てくる。

「橋の向こうに」はよく句会をした、

あるいはちょっと慣れないお酒を飲んだ

京都・出町界隈の風景を思い出す。

当然だが、若さというか青春性のようなものを

強く感じる作品が多い。

 

この第一句集を読んで

坪内稔典の作品をもう一度読みたいと思った。