選者賞 長嶋有賞

 白鶴を注いで民話の細部聴く 山本 純子

 

長嶋有さんはご存知の通り芥川賞作家。

もうひとつの顔が俳人で

「朝ハンバーグ昼ハンバーグ昼花火」という句は

忘れられない。

さらに、千野帽子さん、堀本裕樹さんらと

公開句会「東京マッハ」を開催。

その句会は確か有料?つまり句会を興業(大袈裟!)としたことが

気になっていた。

その長嶋有さんが推しのこの句、

酒を飲みながら民話を聴く、この仕掛けがいたく

お気に入りのようだった。

酒のシーンとしては珍しいかもしれない。

 

選句会で各賞が決まった翌日、

作者確認をさせていただいた。

この句の作者が詩人でもある山本純子さんと知って

びっくり、そして、とても嬉しかった。

(実はボクが親しくさせていただいている俳人のひとりなのだ。)

 

 

最後に、大賞を争ったのに最終的に獲得できなかった

特別な作品が3句あった。

それを優秀賞として表彰することとなった。

 

優秀賞

 母の日の母に叱られたくて酔ふ 立部 笑子

 

人気の1句。とても気持ちの判るいい作品と選者全員が認めた。

 

 

優秀賞

 ジャスミンハイ額をじつと見てしまふ 木内 龍

 

ジャスミンハイという飲み方、そして「額」をじっと見る不思議さに

注目が集まった。なぜじっと見るのか、選者それぞれの読みが異なり

大賞に至らなかった。

 

優秀賞

 土佐鶴や枕の下の夏怒涛 田中 義信

 

「土佐」と夏怒濤の勢いに選者も圧倒された。

選者はその勢いにプラスが欲しいと感じたようだ。

 

 

3回にわたり、入賞全作品について、選者の方々の発言、

その思いを想像しながらボクなりに書いてみた。

それらは選者の方々の考えとズレているところがあるかもしれない。

そのズレはボク自身の責任である。ご理解いただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒俳句大賞 第二部門 酒メーカー、ブランド名を詠み込んだ俳句の部門

最優秀賞は

 

 アーケードたたく夕立や辛丹波 大久保 加州

 

アーケードに打ち付ける夕立の音と辛口の酒「辛丹波」とを

組み合わせた作品。

角打ちでの作者の体験からきた句らしい。

夕立の激しい音の中で飲む人たちと酒。

どんな気分なんだろう。興味深い。

 

 

大賞、最優秀賞の選句で選者の意見がほぼ一致した。

ただ、選者には、「これも見逃せないなあ」と

アタマに残っている推しの作品があるはず。

そこで設けたのが「選者賞」である。

 

 

佐藤文香賞

 朧なりカマンベールと菊姫と 渡部 洋

 

佐藤文香さんは「夕立の一粒源氏物語」で俳句甲子園最優秀賞。

その後、池田澄子さんに師事。

2024年には詩人として第29回中原中也賞受賞。

代表作のひとつ「手紙則愛の時代の燕かな」は刺激的であった。

その佐藤文香さん、選句会の間、お酒が好きなのが伝わってきた。

そして、この句の石川の酒「菊姫」にも一家言ありそうだった。

 

 

岩田奎賞

 東北の猿みな来よ上喜元 石原 靖久

 

岩田奎さんは今回いちばん若い選者。

日頃は広告会社で最先端のクリエイティブを実践、

俳句界それ以上に広告界で注目の人。

いくつかの推しがあったようだが

迷ったあげくこの句を最終的には推しとした。

「猿みな来よ」という句全体の面白さに

上喜元=上機嫌という締め。

そこを面白がったのではないかとボクは感じた。

 

 

坪内稔典賞

 月天心上ル下ルとゆく酔歩 堺谷 美奈

 

坪内稔典さんはこの「酒俳句大賞」の言い出しっぺ。

第二部門「酒メーカー名、ブランド名を詠み込む俳句」のアイディアも

坪内稔典さんである。

稔典さんには俳句は俗であるという主張の実践のひとつとして

数多くの商品名を入れた作品があるが

ここでもその面白さが引き出されたような印象である。

今回、第二部門の応募数が第一部門よりやや少なかった。

最終結果は、大賞から優秀賞まで11句、

そのうちの7句が商品名入りであるところも注目である。

この句「月天心」の「天心」は福岡の酒。

対して「上ル下ル」という京都独特の表現が楽しい。

 

 

中途半端になってしまった。

選者賞はもう1句は次回へ。

 

 

 

 

 

ユネスコ無形文化遺産登録を機して

開催された「酒俳句大賞」。

本年8月1日から10月末まで

酒にまつわる俳句を募集。

12月5日、その選句会が

5人の俳句達人によって行われ

その結果が発表された。

(選考結果はホームページ参照    http://sake575.com)

 

 

 
 

大賞は

 

 酔鯨を抱へ海市の見える位置 渡邉 美保

 

「海市(かいし)」とは、いわゆる蜃気楼。

それを見るためにお酒を抱えて移動している。

単純に解釈すればこんな感じ。

あとは読むひとが自分なりの風景を想像したらいい。

いや、想像したくなる俳句。

作者の渡邊美保さんは次のようにコメントをくれました。

「海市をまだ見たことがないので、死ぬまでには一度見たいなと思っています。

その時は、お酒を飲みながら見れたらいいなと。

酔鯨というスケールの大きな名前が大好きなので、「酔鯨」を選びました。」

 

選者の皆さんも、あっという間に

この句を大賞と決めてしまった。

 

第一部門 最優秀賞

 

 角打ちのみな横顔で呑んでいる 八上 桐子

 

 熱燗の表面歪みつつ光る 原 ゆき

 

この2句が第1部門「酒のある楽しい生活を描いた自由な句」の

最優秀作品。

 

角打ちで思い思いに楽しく、自由に飲んでる姿を描いた1句目は

まさにこの第1部門の優秀賞にふさわしい。

ボクは生活者のダイナミズムみたいなものを感じた。

 

2句目は緊張感に溢れた作品である。

コップ(杯)に注がれた酒の表情を繊細にとらえ

これから始まる酒の宴をいろいろ想像してしまう。

静かなBGMでも付けたくなる作品。

 

いずれも酒を飲む生活が真正面から描かれている。

2句目の「歪みつつ光る」について選者の間で

どういう風景だろうと微に入る解説が行われたことを

特筆しておく。

 

 

以下、つづく。

 

写真は冬の、いまの空である。

 

今年最後のなばな句会。

仕事多忙で2名欠席、病気手術後の欠席などで

5名の句会となりました。

会場はいつもの守山図書館(初めて写真掲出)。

その喫茶ルームにはスタッフ手作りの

しめ縄がところ狭しと飾られている。

(いつもはここに話題の本などが飾られているのだけど)

人数は少ないけれど、なにやら華やいだ気分。

 

この日の話題の作品をちょこっと。

 

 干し柿やひらがな多し妣の文

 

「妣」は「はは」と読み「亡き母」のことと解釈した。

 

 弓なりに伸びする猫や漱石忌

 

忌日を使った俳句でオリジナリティを出すのは難しい。

ボクは苦手だ。

 

 おじいちゃん新聞読めば枯葉つもる

 

 絵文字より君を感じて賀状書く

 

年明けは1月22日から。

皆さん、意欲満々である。

 

 

 

 

 

酒俳句大賞の最終選句会を

12月5日オンライン会議で開催した。

選者長嶋有さん、佐藤文香さん、岩田奎さん。

坪内稔典さんと

予選選句を担当した西谷剛周さんは

事務局のブースに来てもらって。

(稲畑廣太郎さんは講演で欠席、事前選句)

 

第一部門は

「酒のある生活を描いた自由な句」を

5人の選者が選句する。

個性の強い選者たちではあるが

ほぼ10句がダブった。

ダブるというのは意見が一致するということなので

選考会としてバラバラより嬉しい。

 

続いて

「酒メーカー、ブランドを詠み込んだ句」の第二部門。

こちらの部門の応募は第一部門に比べ

ちょっと少なかったので心配した。

広告コピーのような作品になるので

難しかったと思われる。

そんな中、坪内稔典氏は

「広告コピーなよう句がいいのでは・・・・」という発言。

それを議論することなく、選句を進める。

第一部門と違って、選句が集中していく。

つまり、高得点の作品が出てきたのだ。

 

第一部門、第二部門あわせて

「大賞」の選考に入ると

それがスンナリ決まってしまった。

 

二つの部門の最優秀作品を選ぶ頃には

はじめ緊張感のあった選句会も

ほどよく和やかになっていた。

 

そして、選者賞。

それぞれの選者の個性が明らかになる

選者主張の1句。

 

さらに、この進行で、高得点だったにもかかわらず

賞に入らない作品が出てきた。

それらを「優秀賞」にして

概ね選句会は終わった。

 

実は選句しながらも選者の好みの酒が

垣間見える瞬間が何度か見えた。

選者たちの酒が好きという表情も見た。

 

こんな「酒俳句大賞」の選句会であった。

 

で、各賞を発表したいのだが

いま、作者確認等を行っていて

結果発表ができない。

(すみません)

 

というわけで、酒俳句大賞の

選句結果については、いましばらくお待ちください。

 

 

写真は大阪KITTE1階ロビーに登場したツリー。

檜でできているらしい。

クリスマスツリーはやや食傷気味だが

これは見応え十分。