茶色く光沢のある立方体の木箱はベッドの上で深く沈黙している。少年には木箱自体が生き物のように意思を持っているように感じた。木箱には触れずベッドの周囲を歩いて眺めてみたが、古びた箱には黒く沢山の染みが付いているだけで、それ以上外観からはわかる事は何も無い。少年には箱が年老いた男の頭部ようにも思えた。

箱の上面から1/4に木箱の蓋と容器の部分を区切る線が水平に入っていた。鍵のように蓋を閉じる物は無く、容器から蓋を引き抜く事ができれば箱の中身を上から覗く事ができる。蓋の左右に手をかけ上へ引き上げたが箱の下部の部分と強く密着しているのか、蓋を持ち上げると下部も共に持ち上がってしまい蓋だけを引き上げられない。

箱を軽く揺すってみたが底の部分が下へ落ちる気配は無かった。箱を預かった時から開かずにきたんだから、簡単に開く事はないのだろう。一旦、箱を床へ降ろし箱を両足で挟んで上へ引き上げた。力を入れると蓋と容器の部分はゆっくりと隙間が出来、上へ持ち上がった。木箱が精巧にできているので、蓋と容器の隙間から空気が中へ入らず一気に引き上げられず相当な力が必要だ。

真直ぐに上へ引き上げると少しずつ隙間は広がっていった。少年には蓋が上がってくるのと同時に鼓動が次第に大きくそして速くなるのを感じられた。それ程、力を入れているわけでも無く、とても重いわけでもない、なのに何故か額に汗が浮かび、鼓動が激しくなった。何が中に入っているのか興味が増す。

蓋の底辺が木箱の高さまであがると、箱の中へ空気が流れ込み、蓋は急に軽くなる。そして完全に底の部分から抜けてしまうと、箱の中から赤い光が漏れ出しているのが見えた。蓋が完全に外れると、引き上げていた手から抵抗が消え急に軽くなった。

箱の中は赤く光り、窓の外からの赤い太陽の光線が加わり、周囲はさらに明るさを増す。蓋を床に伏せて置き中を覗くと、アムレットが赤く光っていた。やはり少女の父親が行った通り中身はアムレットだった。これで少年が草原で襲われなった理由がわかった。

アムレットはかつて見た事も無いほど多くの輝きを放っていて、その光みていると、身体の中に力の塊のような物が生まれ、深海に放たれた小さな気泡が海面に向かって成長するように、身体の中でどんどんと大さを増すような感じがした。

木箱の中へ両手を入れ、ゆっくりと持ち上げ胸の位置で食器のボールを持つように両手で頭蓋骨を持った。頭蓋骨は手の中でも赤く輝き手を血液のように赤く染めている。赤い光は一見熱そうにも見えたが、アムレットは手中ではとても冷たかった。

持つ手の向こうに見える花瓶の脇にあるアムレットも、取り出した赤いアムレットの力に呼応したかのように、朝見たとき以上に青い光を放っており、手にしているアムレットの力の強さと、それが普通のアムレットでは無い事を想像させた。手にしているアムレットの光は時間と共に増して部屋の天井は、強い赤い光線で照らされていた。

少年は、赤いアムレットは何かを求めて強く叫んでいるように感じた。、そして、その呼び声に呼応する別の声が頭の中で響き初めていた。その声らしき音は、はっきりとした言葉ではなく、二つの地点で互いに呼び合うように感じた。その場所は、片方がが目の前にあるアムレットであり、呼応する相手もそう遠くではなさそうだった。

最初は花瓶台に置かれている青いアムレットがその力に反応したのかと思ったが、呼応する主でない事は青い光方を見ればわかった。そして応答する二つのアムレットに旅にとって重要な意味が含まれるのがわかった。少年は赤いアムレットをジーク革の袋へ押し込み部屋を出た。何処へ行くのか少年にもわからない。呼び声に従うだけだ。

アムレットの呼び声を追って辿り着く所が目指す所だった。心を澄まし全ての神経を、アムレットからの信号に集中し、手元にあるアムレットが呼び出す相手の方角を探る。部屋を出て先ほどまで食事をしていたダイニングへ行った。少女とその父は既に眠ってしまったのか、家の中はとても深い洞窟の奥のように静かだった。

少年に聞こえるのはアムレットが呼び合う二つの異なる不思議な音だけだ。手元にあるアムレットが低い音で呼び出すと、遠くで高音でもう一つのアムレットが響き少年にはその二つの音が互いを呼び合う声のように聞こえた。もう一つの音はダイニングの窓の向こうから聞こえている。

窓には青い昼間に少女と行ったあの丘が赤い空の下に広がり、その丘の向こう側からアムレットのもう一つの呼び声がした。そして赤い空の下の丘へ向かう道には、青の昼と同じように、ジークの群れがゆっくりと丘を目指して登り、別のジークの群れは丘を下って草原へ出る門へ通じる道を歩いていた。
This should be revised.