登ってきた道から丘の向こう側にはのんびりとした村とは少し趣の違う風景があった。丘の下に広がる平地には、大きな矩形の建物を中心として長細い建物が両側に羽を伸ばすように建てられ、両側の建物にはそれぞれ4本合計8本の四角い石積みの煙突が空に向かって高く伸びその先端からは蒼い煙が立ち上っている。蒼い煙は空中で空の青さと混じりあって細かい粒となり消えていく。
光景を見ると先ほどまで村に対して抱いていた「青い星とジークそして緑の草原」という印象が一変した。大きな建物と煙突はまるで少年の街外れにある古い工場を思わせた。中では赤も青の民とも区別のつかない人々が、煤で真っ黒になった顔をし、赤の昼間も青の昼間も絶えず働いている。少年はそんな光景一度だけ見たことがあり、その時の事を思い出さずにいられなかった。
青紫色をした大きな建物の周囲は、村と草原を隔てる壁とは別の高い塀で囲まれていた。そして建物の正面と裏に作られた出入り口は、村の外から伸びる真直ぐな道と、丘から伸びる二つの道が両側から建物を射抜くように繋がっていた。そして見ると丘から続く道からはジークの群れがゆっくりと裏門へ向かい、反対側の正面玄関ではジークに引かれた貨車が出入りしていた。その風景に圧倒された少年が唾を飲み込むと、再び少女が口を開いた。
「驚いた、あれはソウルプラントと呼ばれる建物よ。あの場所でこの星にいる全てのジークの生まれて草原へ放たれるの。まるでジークの母親みたいな場所よ、あんな工場みたいな場所でどうやってジークは生まれるのかしら不思議ね」
「それが本当なら不思議だ、ジークは、あの野原で生まれるのだと思っていた。ジークの生まれる所を見た事がないの」
「ないわ、あの建物へは、箱の運搬をする赤と青の旅人と、ジークを建物から連れ出して草原に放つ仕事をする猟民だけ入る事が許されているのよ。だから、私達のような村で生活する猟民には中の様子は全くわからないの。貴方は街にいたらから奥地の事は知らない筈よね。私もここへ初めて着た時は、同じように何も知らなかったわ。」
「どういう事、ここにいると何がわかるようになるんだい」
「私だって具体的な事はわからない。でもなんとなく感じるのよ、星の事、人の事、そしてジークの事、この星の生物は全てが関わりあって成り立って、この星が動いている事が」
「良くわからないな。人は人だし、猟民は猟民だ、そしてジークはジーク、そこに繋がりがあるなんて思えないよ」
「えぇ、私も良く分っているわけではないの、ただここにいるとそんな事を感じるのよ、さぁもう行きましょう。もう直ぐ青の昼が終わって、父が草原から戻ってくる時間になる」
そう言うと少女は少年の革で覆われた袖の部分を掴み腕を引いた。それから石の階段を降りて丘を下る緩やかな坂を少女家を目指した。丘の東側の地平線は赤い朝焼けが赤く空を染め、西の空には青い太陽が地平線へ落ちようとしていた。青と赤光は空中で混じり合い上空は紫色の空に覆われていた。
家に戻り、昼に食事をしたダイニングで樽の液体を口にしていると、少女の父親が勢い良く玄関の扉を開け戻ってきた。そして少年の元気な姿を見るなり、
「おぉ、元気になったのか」
大きな声でそう言って少年の前へ歩み寄り向かって手を差し出した。少女の父親も少女と同じように顔にマスクをし体はジークの革で作った服を着て体の一部として見えるのは手だけだった。差し出された手を握ると、丘へ向かう道で触れた少女の手と同じように氷冷たい。手を握ったままマスクの穴を見つめると、大きな声で笑い
「さあ、食事にしよう」
そう言って広いダイニングの椅子についた。少女は少年にした時のように、奥のキッチンへ行き、料理を運んでテーブルへ並べた。テーブルの準備をしている間、少女の父親は少年がこの街へきた経緯を少年に尋ねた。少女も話が気になったのか、お皿をテーブルへ置く度に話に聞き入ってしまったため、夕食の準備が遅れ、父親にたしなめられた。
少年はこれまでの経緯を正直に父親へ話し、病気の妹を助ける旅なのだと告げた。少女の父親は、話を頷きながら真剣に聞いた。そして少年が話し終わると窓の外へ目を送った。窓の向こう側は、すっかり青い太陽が落ちて赤の太陽が昇り窓からは赤い朝日が差し込んでいる。景色の奥には少女と登った丘が赤く照らし出されていた。
This should be revised.