久しぶりに口にした料理は胃を満たし、少女の作った料理は瞬く間に皿から消え、テーブルの上には布で汚れを拭き取ったような綺麗な皿が残されていた。皿を開けてしまうと、全身の毛穴から力が染み出して気化し空中へ噴出していくような気がした。街で暮らしていた時には無い感覚だった。どんなに強い相手や困難にも立ち向かえそうな力が満ち溢れていた。
少女へ目を向けたが、目を少年へ向ける事無く食べ終えた皿の片付けをしていた。自分の中から溢れ出る力をどう抑えれば良いのかわからない。放っておけば溢れ出る力のために自身が熔けてしまうのではないかと思う程の力が体の奥に蓄えられ、熱く熔けた溶岩が体内から噴出し、周囲の物も溶かしてしまいそうな気がした。
テーブルの上を綺麗に片付けてしまうと少女は、
「手伝ってくれる」
そう言って少年の手を取ってキッチンから建物の裏へを抜ける扉を開け、裏手の中庭へ導いた。そして中央に噴水のある小さな中庭を横切り、古い煉瓦造りの倉庫の木製の扉を開けた。暗い倉庫の中から、かび臭い空気が流れだす。一旦立ち止まり、暗い倉庫の中へ足を踏み入れる。
少女が台に置かれたランプに火を入れると、炎に揺られて倉庫の内部がぼんやりと照らし出される。そこには少年の体より随分大きい木製の樽が壁一杯に並べられていた。空気や臭いは骨屋の地下室に似ていたが、部屋の広さも天井の高さも違っていた。その広い部屋の中には天井まで一杯に樽が積み上げられていた。
樽の一つに手を触れると、指先へ樽に使われた重厚な木の感触が伝わってくる。木製の樽は幾つかの板を円状に繋ぎ合わせ、周囲を重い鉄の停め具で頑丈に囲っていた。
「何が入っているの」
少年が尋ねると、
「中身はジークの血液とここで採れた果実の汁を混ぜて寝かせたものなの、ここでは皆が口にするとても美味しい飲み物よ」
そうして樽の一つを太鼓を叩くようにポンポンと叩いた。中身が一杯に詰っているのか叩いても快い響きはせず、ピタピタという皮膚が堅い物を打つ音が倉庫に響いた。何段にも積み上げられた重い樽は、高い天井まで積み上げられ分厚い壁のようにも見える。
「キッチンにおいてあるのが空になったから一つ必要なの、これを持っていってくれる」
地面の置かれた古く大きな樽を掌で叩いた。そんな大きく重い樽が運べる力は無いので途方に暮れていると、マスクの奥から意地悪そうな眼差しを少年に向け、樽を両腕手で軽々と抱き上げた。華奢な体つきの少女の何処にそんな力が秘められているのか、少年は驚いた。少女は持ち上げた樽を一度地面へおくと少年の方を向いて、
「さあ、貴方の番よ、運んでみて」
そう言って少年の背中へ回り樽の方へ押し出した。少女にそう言われて、何もせず引き下がるわけに行かない。腰を下げ両腕を樽に回し下げ腰を伸ばすのと同時に樽を持ち上げた。すると、重そうに見えた樽は、考えていたよりもずっと簡単に持ち上がった。実際に樽が軽いのかと思ったが、積み上げてある場所の地面の土は樽の丸い形に沈み込んでいて、相当な重さである事を物語っている。
自分が樽を持ち上げていると現実があっても信じられない。そんな力は自分には今まで無かった。いつどうやって自分に備わったのかがとても不思議だった。樽を持ち上げたまま、マスクの奥にある瞳を見ると優しくわらっているように見えた。樽を抱えたまま、倉庫を出て、少女の誘導に従ってキッチンまで樽を運び、空の樽が置いてあった場所へ持っている樽を置いた。
「これは、どういう事なんだい」
「驚いた。それが奥地の力の一つなのよ。ここに居る限りあなたにはその力が宿っているの。奥地の力は他にも沢山あの。街に住む人が奥地に来ればそんな力が備わるのよ。それを知っているのは旅人だけなのだけ。そして、この事は街の人々へ秘密にしてあり伝えてはいけない事になっているのよ。
もし街の人々が奥地まで来て知れば別だけど、多くの人は、この村へ着くまでに息絶えてしまうか、蟻や毒蜘蛛にやられてしまう。仮にここへ辿り着いたとしても街へ帰ろうとする人はいない。この事を知っているのは奥地に住む猟民と旅人だけ。さぁ空になった樽を片付けて丘へいきましょう」
少女はそう言うと空になった樽を軽々と持ち上げて樽を運んできた倉庫へ戻した。「手伝いは必要なかった」そう思って樽を置いた少女の後について丘へ向かった。丘の上には南の一番高い場所に昇った青い太陽が大地を照らし、丘にの周囲には青い大地が何処までも続いていた。
Cannot say any thing today. Thanks!