粒が胃の奥へ届いて暫くすると、少年の体に力が戻ってきた。二度目に目覚めた時と同じように力が溢れ出している。たった3粒の薬玉が少年の体力を少しの間で回復させた。同じような効果が妹へも与えられるのか考えた。男は妹に同じ薬玉を飲ませていた。少年はそれを思い出し、「あれで元気が少しでも取り戻せないか」と心から願った。
「起きられるようになったのなら食事をするといいわ。今は薬玉で力を得ているけど、根本的な力は食事で付けなければだめなのよ。用意をするからついてきて」
トレーをベッドから取り出口へ向かって歩きだした、少年は恐るおそる立ち上がり、続いて出口へ向かった。扉を出ると、右は突当りでその先は無く、左へ廊下が長く伸びいた。廊下の両側には少年の部屋と同じような扉が幾つか並んでいる。扉に特徴は無かったが、重厚な木片を組み合わせて作られたな扉で頑丈な蝶番が無ければ負担がかかり簡単に開閉は出来ない程、扉も金具もとても頑丈にそして精巧に作られていた。
少年の部屋は通路の突当りから2つ目の扉だった。少年の部屋の扉から通路を挟んで、右斜め奥にもう一つ扉があり廊下はその先で行き止まりになっていた。少女は扉を出ると、廊下を左方向へ歩き出した。少年は、左右の閉じられた扉の数を一つ一つ数えながら少女の後を追った。
一つ、二つ……十三、少年の部屋と奥に見えた扉を入れ合計で十三の扉があった。十三個目の扉を過ぎた所で廊下が終わり、そして廊下から向かって左手に玄関になっていた。廊下から向かって右手は広いダイニングとキッチンになっていた。ダイニングには木製の長いテーブルと同じ木製の長椅子が3組程、平行に並べれられ、その奥にキッチンになっていた。少女は、持っていたトレーを一旦、長テーブルの上に置き、同じ長テーブルの隅にマットを敷いて、
「ここに座っていて、何か作ってくるから」
そう言って再びトレーを取ると、キッチンの奥へ消えていった。少年は言われたようにマットの前に位置するように腰をかけ部屋中を眺めながら少女の戻って来るのを待った。部屋には長いテーブルと長椅子の他に特徴のある物は無い。ただ、その部屋の隅にも少年の部屋と同じようにジークのアムレットが置かれ、青くぼんやりと光っているのが目に入った。
それを見て少年は、先程、少女が言っていたアムレットとジークの関係があるように、「奥地に備わる力」それにはアムレットやジークとの間に深い繋がりがあり、また奥地から街へ運ばれるジークの肉や頭蓋骨、そして奥地で生産される薬についてもなんらかの関係があると思った。
廊下から進んできた突き当りの壁には二箇所、開かれた窓が付けられていた。そこから少年の部屋からは見えなかった丘の頂上付近の景色が見える。なだらかな斜面を持つ丸い丘と思っていたのは間違いで、少年の部屋から見えなかった残り部分は、急な斜面を持つ小高い丘で頂上には、青い空を背景に土で作られ紫色をした大きな丸い塔があった。
丘の方へ続く細長く曲がりくねった道を数十頭のジークが猟民に連れられて登っていく最中だった。猟民は、先ほどの少女のように革製のマスクを被っていて顔は見えない。改めて通りを歩く人々の顔を見ると皆マスクを被っていて、マスクに開けられた小さな二つの穴からは宝石のような青い瞳がキラキラと輝いていた。
そうやって、ダイニングを大きな窓を通してその村の様子を眺めていると、先程と同じように、少女がトレーを持って戻ってきた。今度は、トレーの上に水差しや薬の壺の代わりに、湯気のたったスープ皿と、肉片の載った白いプレート、そして少年の街で売られているのと同じパンが載せられていた。少女は、トレーからスープ皿やプレートを降ろしてマットの上へ並べ食卓を整えると、
「さぁ、食べて力を取り戻して、元気になったら青の昼の間に村を案内するわ。私と父は、猟民になる前は青の民だったから私達は青い昼に活動する事になっているのよ」
と言った。スプーンをスープ皿に入れてすくいながら、革に開けられた小さな穴の奥を覗きこむように、少女の瞳を見つめて尋ねた。
「猟民になる前は……青い民……君達は元々青い民だったの」
「えぇ、そうよ、私達は青い民だったのよ。街の人々が何も知らないのは当然かもしれない。ここを訪れる人々は二度と街へは帰らないから、ここの事は誰にも知れないの。知っているのは旅人だけ、そして旅人はここの事を街では語らない事になっているから、街の人々に個々の事は知れないの。ただ、あなたのように、突然、訪れる人は例外だけど……でもそんな人達でもここの生活に慣れると、街へは二度と戻らないのよ……後で村を案内するわ、そうすればもっと色々な事がわかるはずよ」
スプーンを口に入れると、良く煮込まれたスープのジーク肉の濃縮された深い旨みが口の中に広がった。
富士へ行きます!