それからも長い道を力なく前へ足を進めた。バッグに入れた乾し肉はとうとう最後の一塊となり、小さくちぎって味わうように噛み締めた。口へ入れた乾いた肉は水気もなく柔らかくならない、幾度も噛み締め、残った唾液で喉の奥へ流し入れる。
ジーク革の水筒も革の重さだけになってしまった。空になった容器を投げ捨てると冷たく青い空を仰いだ。赤い空は熱く、青い空は冷たい。たとえ奥地の力を得ても、あと数日で国境に着かなければ生きる力は消えてしまう。水も食料も無くなりもう後戻りもできない。国境まで辿り着けないと事は、確実に死を意味していた。
重い腰を上げると、草原の奥に青く光り輝く物が見えたような気がした。揺れる草原の草の間に光輝く何かが見えたような気がしたのだった。脚を踏み出そうとすると、突然、あの動物が草むらから姿を現した。今度は一頭だけではなく何匹かの群れで少年の方へ近づいてくる。
先ほど見えた輝きは、この赤い動物の赤く輝く両眼だったのだろうか。動物達は囲むように少年の周りへ来た。鼻を突き出して嗅ぐ仕草をし、そして味見をするかのように長細い舌を出して少年の腕を舐めた。動物の生暖かくザラリとした舌が腕を掌の方から肘へと這っていった。一匹が終わると、順番待ちの列を作り何匹かが同じようにする。
いくら怖く見えない動物とは言っても、顔が近くまで迫ってくると少年に恐怖心が生まれた。逃げ出したい気持ちを押さえ、動物を刺激しないように耐えた。何匹か列から外れると、動物達は一斉に赤いガラス玉のような目で少年の顔をじっと見つめた。
視線は、実際に少年の体を貫いてしまうと感じるほど鋭かった。それから動物は、少年を招くように壁に沿って一斉に北へ向かって歩き始めた。少年には動物達が
「ついておいで」
と先導しているように感じた。少年は、置いていかれないように動物達の長い尻尾を追って付いて行く。体の高さよりやや短い尻尾は、歩く毎にゆっくりと時計の振り子のように体と垂直方向に揺れる。赤い尻尾が目の前でゆらゆらと揺れている。とても不思議な光景だった。その様子に引き寄せられるように前へ足を運ぶ。
しかし、青い太陽が西の地平線に近づいてくると少年の足は、前へ出る歩幅も短くなり、足を出す間隔も短くなった。残された体力は次第に消えかけていた。妹の顔を思い出すと足を止められないのは分っていたが、少年にはもう殆ど力が残って残っていなかった。
目に映る景色は曖昧になり赤と青が出鱈目に交じり合た。そしてとうとう、壁の上に箱を置きその上に座り込んでしまった。青い太陽は西の水平線に近づき、あと少しで赤い朝に変わろうとしていた。瞼が重くなり焦点が曖昧になる。一緒に歩いていた動物は一度、一斉に立ち止まり姿をじっと眺た、そのうちの一頭は少年に近づき、鼻の頭で少年の額を押したが少年は動かなかった。
壁はまだ遠く先へ続いている。動物達は動かない少年を残して急ぐように壁の先へ消えていった。ただ、鼻で少年をつついた一頭だけは、少年を見守るように直ぐ横で座った。広い草原には一人の少年と一頭の動物がそこで新しい朝を迎えようとしていた。そして、青い太陽は西の地平線の下へ消え、赤い太陽が東の地平線から顔を見せた。
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