何度目かの赤い昼が訪れ、何度目かの青い昼が過ぎた。少年は3度目の赤い昼までの記憶は確かだったがそれ以降は寝起きの子猫のように不確実だった。何回の赤が訪れ青が過ぎたのか正確な日数はわからない。目に焦点は無くなり踏み出す足に力は無くなっていた、ただ気力だけで歩いているように見えた。汗も枯れ額も頬も口の中もカラカラ乾き初いていた。

先へ続く風景はいつまで経過してもの何の変化も無く。同じ風景が焼き増しのスナップ写真のように繰り返し現れその風景はが眼前に留まっていた。一箇所を回り続けているのではないかという不安な気持ちも現れる。風景の中で動くものは、僅かに風に吹かれてたなびく草と、赤い空に浮かびゆっくりと動く真っ白な雲だけだった。

少年の事など無関心の雲は空をのんびりとゆっくりと東へ流れて消えていった。箱のバランスをとって壁の上部へ載せると左右に傾かないようにゆっくりと降ろした。少しでもバランスを失えば、中身は転がり箱は、壁の左右の何れかに落下してしまう。箱が壁の上で静止した所で、その上に腰を降ろし背中のショルダー・バッグからジークの干し肉と水筒を出して口にした。

そうやって小休止はできたが、横になる場所が無く体を休められない。座ると深い眠りが少年を包み慌てて正気を取り戻した。眠って壁から落ちてしまわないよう箱の上に家族の似顔絵を張り、苦しくなるとその似顔絵を眺めて気持ちを奮い起こした。妹の事を考えると気力が繋ぐ事ができた。

奥地の持つ強い力が働きギリギリの所にある少年の気力を繋ぎとめていた。少年の村に伝わる言い伝えでは奥地には人の持っている能力を増大させる力があるという事だ。その力を求めて多くの村人が奥地へ旅立っていったが二度と戻ってくる事はなかった。少年はそんな奥地へ進もうとしていた。

そんな力なければ、少年がこうやって何日も眠りもせずに歩き続けられる筈はない。奥地の力抜きではとっくに壁から転げ落ち蟻の蟻酸に溶かされるか、蜘蛛の餌食になってしまっている筈だ。意識が遠のくのをギリギリで踏みとどまり男との約束を守るために前へ歩き続けた。

何度目の青い昼だったのか、少年が箱の上に座り休みをとっていると一匹の動物が現れた。少年の体を一回り大きくしたその動物は、長い足に小さな頭に先端部分で繋がった二本の長い角を持ち、赤い昼の空のような鮮やかな赤い体毛に覆われていた。青い太陽と赤い動物の見事な対象が目の前にある。

初めて観る動物に少年は戸惑ったが、襲って来る気配の無い様子から恐怖心を持つ事はなく、逆に親しみさえ覚えた。動物は少年の辿ってきた壁に沿って近づき、そして少年の直ぐ横まで来ると立ち止まって丸く大きな目で少年の顔を覗きこんだ。

動物の顔が少年の目の前に近づくとその顔の輪郭に見覚えがあると感じた。その動物は獰猛な蟻の群れに襲われる様子もなく、所々にある蟻塚を恐れる事も無く自由に草原を走り回っていた。動物は壁の東側でしばらく少年へ近づいたり離れたりして遊んでいたが、飽きると草原の向こうへ消えていった。

動物が消えてしまうと、広い草原に一人きりになり、再び深い孤独感に包まれた。少年は長い間一人きりだったので動物と少しの間でも一緒に居られた事を嬉しく感じていた。空からは青い太陽が少年を照らし、見慣れない青い景色が少年の周りに広がっていた。