ぐっすりと眠れたせいなのか目覚めは爽やかだった。ベッドを抜けキッチンへ行くと青い民が就寝の支度をしている所だった。宿泊させてもたった場所は青い民い家だったのだ。キッチンの入り口に立ってぼんやりとしていると別の入り口に男が姿を現して、寝る準備を始めた青い民に何かを囁いた。

青い民はオーブンに入ったジークの肉と野菜のスープ、そして香辛料で味付けして、焼いたサロ料理を並べ、テーブルの上に2組のテーブルウェアを並べた。それが2人分の朝食という事は容易に想像がついた。料理を見ると急に空腹感が湧いてくる。惹きつけられるように席に着くと、男も向かいに座った。

テーブルには二人分の朝食が整然と並んでいた。互いに何も言葉を交わすこと無く料理を黙々と口に運んだ。普段は自分で作る味気の無い料理だったから、少年には両親がいなくなってから久しぶりに摂ったまともな食事だ。少年と男は冬眠から目覚めたジークのように凄い勢いで皿を空にした。それから男は、

「出発だ」

と命令するように言った、少年は黙って寝室へ行き、荷物を持って玄関へ行った。外への扉を押すと、空は赤く、白い丸い雲が遠くまで続いているのが見えた。赤い民の旅立ちを祝福するような爽やか天気だ。男は木箱を持ち先に立って歩き始めた。少年はも後に続いたが、男を追うために小走りをしねければいけなかった。

北へ向けて約半日程歩くと、街最北端の街と外地と隔てる高い壁へぶつかる。壁には大きな鉄製の扉があり外界からの侵入者を防くように硬く閉ざされていた。少年が押したが硬く溶接されている鉄板のようにびくともしなかった。男は扉のカンヌキを水平方向に引いて二枚の鉄板の繋がりを解いた。

それから、腰に釣る下げた大きな鍵を手に移すと、ベルトから抜き鍵穴へ差し込み全力を込めて回した。鍵穴の奥でガチャリという酷く重い音と共に鍵が回転した。そして同時に二枚の重そうな鉄の扉が外界へ向かって少し開いた。少年は、初めて見る外界に目を見張った。

その向こうには、赤い太陽に照らされた赤い草の大地が視界の届く所まで広がっており他に建物は見えない。見渡す限り何処までも草原がづいているのだ。少年は閉ざされた小さな街の中で暮らしていたから、そんな雄大な光景を見るのは初めてだった。

男に促されるように恐る恐る扉の外へ出る。外側には石造りの半円形の大きなステージが草原に向かって張り出していた。二人はステージの上へ出る。男は扉から「何者の侵入も許されない」という風に急いで扉を閉め鍵をかける。背後には壁そして前方には草原が広がる。少年と男の二人だけとなり辺りには誰の姿も見えない。

ステージの上から外界を見ると、二人が立っている場所の中央から真直ぐに煉瓦色をした少年の背丈ほどの高さの壁が伸び、西と東を隔て北へ向かって真直ぐに地平線を分断するとても不思議な風景だ。真っ赤の空から続く地上が一枚の朱色の板によって割られているそんな光景だった。

赤い太陽は真上から二人を見下ろすように照らしていた。草原を吹き抜ける甘い香のする風は左右に伸びる壁にぶつかりそして、壁を越えて街へと抜けていく。少年は、空気の味をか噛み締めるように、深く空気を吸い込み、そして吐いた。男はそんな少年の姿と暫く黙って見てから、持っていた箱を少年に手渡して、静かに口を開いた。

風の音と交わり男が何を言っているのか上手く聞き取れなかった。最初はそれが青の民のアクセントのせいかと思っていたが、そうではなかった。空気の質や密度が街の中と少しだけ違うのだ。少年には一枚の壁を隔てただけで空気が違うという経験がなかったから、器官が混乱したらしい。落ち着いて耳を澄ませば、男の声ははっきりと聞き取れるようになってきた。

「その箱を持って、あの壁の上を歩き国境までこの箱を持って行く事がお前の役目だ。国境はここと同じように扉がある。着いたら、花火を打ち上げれば中から扉を開けてくれる。そして開けてくれた人にその木箱を手渡して欲しい。花火の意味を知る人には箱が届く事は知らせてある。

但し、守らなければいけない規則がある。一つは扉を開け箱を受け取るのは赤い民だから、花火を打ち上げるのは赤い昼でなくていけない。そして途中に何を見ても恐れずに先へ進み、決して引き返してはいけない。引き返せば全てが終わる。もう一つ旅の中で経験したを全て事を受け入れなければいけない。

以上がこの仕事の規則だ。もしそれが達成できないと思うならここで引き返した方がいい。それともう一つ、この東側の地中には毒をもった蜘蛛が住んでおり、西側の土地には強力な蟻酸を出す蟻が居る。だからこの壁から降り地面へ足を付ける事はできない、足を降ろせば赤も青の太陽も二度と目にする事は無いだろう」

少年の気持ちは固まっていた。ここまで来て後戻りをする事などできない。緊張で言葉が出なかったが、男の目を見つめ確りと頷いた。男は自分の持っているバッグの中から保存食となるジークの乾肉や水筒、花火を出し、少年のバッグを取って中へ入れ、再び少年へ返した。

男はそれだけすると何も言わずクルリと向きを変えて、少年に背を向けると扉の鍵を開けて、無言のまま壁の向こうへ消えていった。ステージには少し前と同じような強い風が、男を追いかけるように吹き抜けていった。一人になった少年は地平線の方へ目を移し、ステージの一番先端まで行き、肩幅程の壁へ一歩を踏み出した。