ブログネタ:これだから男ってヤツは、女ってヤツは! 参加中

The chatting with a woman during the match

その日の洋子はいつに無く不機嫌だった。ソファにバッグを放り投げると、身に付けていたスーツもハンガーへ吊るさずベッドの上へ脱ぎ捨てると、さっさとジャージに着替えて冷蔵庫の扉を荒々しく開くと500mlの缶ビール取り出して、乱暴に栓を開け一気に飲み干した。

嫌な空気に気が付いていたが、そんな様子を見てみぬふりをした。職場で嫌な事があった後は、いつもこんな具合だ。突然やってきたかと思うと、上司の狸親父がどんなに酷い事をしたか、同僚がどんなに仕事ができないか、先輩のお局にどんなに意地悪をされたのか、十年貯めた貯金を一気に使い果たす勢いで事細かくぶちまけストレスを発散させる。

散々話をした後は、矛先を此方に向け。「だいたい、貴方がそんなだからいけないのよ」と締めくくる。いつもの夜なら、軟弱で、根性なしで、ケチで、不細工で、セックスが下手で、甲斐性なし、何となじられようと、どんな嫌味を言われようが我慢できる。正直な所、全部が間違いと言うわけではないし、普段は、女の子の話を聞くふりだって上手くできる。

だけど、今夜だけはだめだ……今夜は大事な試合があるのだ。もう2ヶ月も前から、眠る間も惜しみ応援してきたチームが出場しているカップ戦の決勝戦の日だ。応援するチームは苦戦しながらもトーナメントを駆け上がってきた。

手に汗を握る戦いもあった。負けると諦めた時もあった。だけどチームは、ギリギリの所で踏ん張って勝利を物にした。一試合毎に手に汗を握り、喜び、乱舞した。痛ましい程の気力と努力と根性の結果だった。チームはそうやって決勝戦まできた。トーナメント最後の試合、ほんの少しでも見逃すわけにはいかないのだ。

テーブルの上に観戦準備を整えて試合の始まるのを待った。選手が入場してコイントスが行われる。選手がピッチに散り開始のホイッスルが響く。ラッキーな事に洋子はまだキッチンでビールを飲み続けているようだった。序盤は両チームともエンジンがかからず淡白な内容だ。攻撃に精彩は無く有効なシュートは出ない。

決勝ゲームの内容としては物足りない。前半の終了間際になると、やっと動き出した相手チームの猛攻が始まる。応援するチームも必死にゴールを守るが、そんな必死の守りも実らない。終了間際、ドリブルで持ち込んだ相手のフォワードにゴールポスト右角へシュートを決められる。

ハーフタイムのCMが始まるとその隙を縫ってにトイレを済ます。帰りにダイニングをちらりと覗くと洋子は、まだビールを飲んでいた。気づかれないように静かにダイニングの扉を横切り、リビングのソファへ戻る。嫌な予感というのは確実に感じる事ができる。もちろん遠い試合の事へではない、身近に迫る悪い事だ。

後半が始まる。チームは調子をとり戻り攻勢に出る。相手チームは防戦に入る。何度か絶好のチャンスもあったが相手チームの好守に阻まれゴールを割る事ができないままロスタイムへ、両チームとも選手の交代枠を使い果たしている。フレッシュな選手は見当たらない。しかし1分を残すところで、相手のGKの零れ球を上がっていたMFが同点のゴールを決めた。

否が応でも盛り上がる、延長の前半も1-1で折り返して後半戦が始まる。そこで酔って目の据わった洋子がワインボトルを抱えてソファに深く腰を降ろした。大事な時間だった。絡まれないようにちらっと視線を送ったが気づかれなかった……ほっと胸を撫で下ろし画面に集中する。洋子の顔は「不機嫌」の象徴例として示すにはぴったりの状態だった。

「仕方が無い」そう自分に言い聞かせ試合終了まで何も起こらないように手を合せる。結局量チームとも全力を尽くしたが決定的な場面もなく0-0のままPK戦に入ろうとしていた。その時、洋子の長い髪の毛を首筋に感じた。それから急に話声が耳に届いた、「あぁ……もう少しだけ待って」という言葉を噛み潰した。

しかし、堰を切ったように洋子は話し出す。そうなると止まらないのは判っている。「相手は酔っているんだ……」適当な返事で受け流す。PK戦が始まる、試合の緊張が高まる。洋子の声のトーンもアナウンサーの興奮した声に負けじと高くなる。4-4のイーブンで相手チームの選手がキックを外す。

画面をとおして興奮が伝わってくる、それと同時に洋子の怒りもピークに達していた。応援するチームの選手が助走をした所で画面が黒く変わった。何が起こったのがわからなかった。落ち着いて、肩にもたれている洋子の手の中を見るとリモコンが確りと握られていた。