どれ程の時間が経過したのか少年は判らなかった。一瞬だったかもしれないし永遠の長さにも思えた。呪術師は高く上げた頭蓋骨を胸の位置へ戻すと、眼を少年に向けて口を開いた。緊張した少年の掌には汗が滲み手にしていた小刀の木柄が汗で濡れ、口の中が痛みを感じる程カラカラに乾いた。

「近いうちに青の民の旅人がここを訪れるだろう。旅人はこの頭蓋骨を取り上げ何かを頼むだろう。お前はその頼みを受けて従うわなければならない。他の頭蓋骨と区別し仕事をする時は身近に置いておきなさい。そうすればお前の望みがかなうかもしれない……と頭蓋骨の力がそう予言している」

そう少年に告げると頭蓋骨を渡して少年の頭を撫でた。意味が全く判らなかったが、少年には呪術師の言葉は大切で、直感的にそれが妹の病気や両親の消息にも関係するのだと感じとった。言われたように頭蓋骨を別の物と区別し、いつもは仲間へ頼む仕上げも自身で行い、他には観られない程見事な頭蓋骨のアムレットとして仕上げた。

呪術師に言われた通り仕事を始める前には、仕事の道具と一緒にアムレットを人目につく場所に据え、それから仕事を始めるようにした。美しい形のアムレットは店先で人目を引き、その理由なのか骨屋は客足が伸びて繁盛し、少年の仕事も忙しくなっていった。

その土地には白い昼も黒い夜も無く、あるのは赤と青の昼だ。人々は赤の昼に働く人を赤の民、青の昼に働く人を青の民と呼んで区別した。狭い土地は赤と青が交互に使う事により効率良く使えた。赤の民が働く時は、青の民は眠り、青の昼の時はその逆だった。

赤と青は互いに避ける訳でもなく交じり合うわけでも無く。自然な共生生活が出来上がっているのだった。互いを眼にするのは主に入れ替えが起こる日の出と日の入りの時間だけだけで、互いに言葉を交わす事はめったにない。しかし奥地へ行けば昼も夜も関係なく働くから赤も青も交じり合っていた。

少年は赤の昼に働き、生まれてから街を出た事もなかったから、青の民を眼にするのは一日に多くて一、二度程度だった。赤と青の民には生物的な違いは無く、話す少しだけ言葉にアクセントの違いあったのと、区別できる色調が異なっていた。また、外見的には、光の強さの違いからか青の民の肌が若干黒いといった違いだけだった。

それでも話をしたり、見比べてみれば相手が赤か青の民なのかは、その住民ならば直感的に区別がついた。少年は来る日も、店先でアムレットを取り上げる青の民が現れないか待ちと続けた。時々しか姿を見ない青の民が現れると、緊張で体が強張ったり、掌に汗を掻いたりする日々が続いた。