少年は四角い木製の箱を持って細いブロック壁の上を歩いていた。少年の背丈程の壁は、芝で覆われた土地を東西の二つに分け幾つかの丘を越えて遠く国境まで続いており、東西を別つ壁と呼ばれていた。

壁はブロックがほんの少しの狂いも無く丁寧に積み上げられている。いつ、誰の手によって築かれた物なのかはわからない。それは少年が生まれるずっと前に築かれた物である事だけは確かだった、その街で育った少年の記憶の届く限りその壁はそこにあったが、少年はその場所へ来て初めてその壁を見た。

その地には赤と青の太陽があり双方の太陽が出会うのは一日に二度、日の出と日の入りだ。その時間、青い太陽は西大地の下に落ちていたが、東の大地から赤い太陽が顔を出して、朱色に染まった空が東西の大地を見下ろしていた。

二つの太陽は、青い昼間と赤い昼間を作り、信号機のようにグルグルと互いの色で地上を照らしていた。赤い昼は芝の大地を朱色に染め、赤い空には白い雲がぽっかりと浮かんでいる。

箱の中身は知らされていない、持って国境までブロックの上を歩いていけと命じられた。重たい箱を持って肩幅と同じ細いブロックの上をバランスをとって歩くのは容易な事ではなかった。何度もバランスを失いかけて落ちそうになるのを踏み留まり、寡黙に国境を目指した。

国境まではどれ程の距離があるのだろう……少年には想像もつかない。丘を越えて伸びていくレンガ色の壁には視界の届く所で小さな点になっている。国境がどうなっているのかも知らない。箱を置いて手を休めようにも、壁の上には簡単に置けるだけの十分な幅が無い、中では時折何かが動くような気がしてバランスとって置こうとしても簡単にはいかない。

西の土地へ降りれば、邪悪な蟻が足を覆い、東の土地へ降りれば邪悪な蜘蛛が足から登る。蟻の蟻酸にやられれば足は溶け、蜘蛛の毒にやられれば心臓が止まる。壁の下へ降りればその先へは行けない……それでも引き返す事も許されない……「引き返さない」箱を受け取った時ルールだった。

国境を目指して不思議な四角の木製の箱を抱え、壁の上をゆっくりと足を前へ踏み出す以外道はなかった。時間が経つと手は痺れはじめ、頭皮から滲み出た汗が木製の箱を濡らした。立ち止まって遠くを見たが、数時間前と変わらない赤い風景がスナップ写真のように広がっていた。