ブログネタ:もう一回体験したいアノ一日は? 参加中成田空港サウスウィングの出発ロビー、太陽が西に傾きターミナルビルの影が滑走路に長く伸び、出発を待つナイトフライトの航空機がランアウェイに長い行列を作っていた。滑走路に埋められた誘導灯が青く輝期初め、航空機の機種と両翼の点滅灯が少しずつ眩しく感じる時間を迎えていた。
出発に遅れがなければそれから直ぐに登場案内がある筈だった。サウスウィングの丸く張り出したターミナル・ビル搭乗口、硬いプラスティックの椅子で新刊の文庫本を読んでいた。予定しているフライトはさほど混みあう様子も無く搭乗時刻が近づいてもターミナルの椅子には空席があった。
ノースウェアストNW008便シアトル行き直行便、それがその日乗る便名だった。シアトルまでの7時間程の旅、一度眠りに入り目を覚ませば、その日二度目の朝を迎えられるはずだ。目を覚ませば異国の地、簡単な旅行だ。
シアトルへの直行便は、アジア人の旅行客で混み合っているという印象が強かったから、閑散とした風景が、間違ったターミナルに来てしまったのではないのか、と気持ちを不安にさせた。しかし、そんな不安感とは反対に搭乗時間になると、きっちりと搭乗の呼び出しが始まった。遅れる覚悟をしていたのに拍子抜けだ。
ブリーフケースの中へ文庫本を入れて搭乗口へ向かう。ボーディング・チケットをグランド・ホステスへ手渡し半券を受け取っていつものタラップを渡る。普段の出国と何も変わらない。違うとすれば乗客の数が少ないという程度だった。タラップを抜け狭い通路を通って座席に座り、文庫本を出して手荷物をアッパー・コンパートメントへ放り込み扉を閉める。
程なくアテンダントがシートベルトのチェックに回ってくる。NWのアテンダントは人件費を抑制するためなのか、比較的高齢化が進んでいる。その日のフライトも東洋人アテンダント以外の年齢はかなり高かった。窓の外へ目を移すと夕陽に照らされた成田空港の滑走路が広がっている。定刻通りにタラップが外されるとランアウェイをゆっくりと走り出す。
出発を待つ機体は数機だけだった。いつものNWだったら機体の到着が遅れて数時間ディレイは珍しくない。全てが順調すぎて気味が悪い……何か引っかかる物を感じたのもその時だ。遠足へ出発する直前に靴の紐が切れたり、ボタンが取れたりするのと同じ様な感じがした。
滑走路の端まで来ると離陸のアプローチへ入る。タービンの音は増しエンジンの出力が上がる。ジェット噴射のけたたましい音と共に機体はスピードを増し風景が後ろへ流れる、空港ターミナル・ビルを少し越えた所で地面を離れると、地上を走る細かい振動が消えて、揺れていた空気が滑らかに変化した。
高度が上がるに従い夕陽はもう一度明るさを取り戻し、窓から太陽の光が機内へ眩しく差し込む。機体は離陸角度を保ったまま上昇を続けていた。異状に気が付いたのは高度が何フィートまで昇った頃だったのか、機体はまだ上昇のために傾いたままだった。
機内の空気は冷たく凍りつき気圧が異常に低い。フライトを繰り返しているアテンダントで無くても気が付く異状だ。暫くすると機内が騒がしくなった。アテンダントが酸素ボンベを持って通路走り回っている。気分を悪くしたアテンダントは、空いた隣の座席に座り込み酸素を吸っている。顔色が異状に悪い。この時点で何のアナウンスメントは何も無い。
暫くすると天井の小窓が開き黄色い酸素マスクが頭上から降りてきた。何人かの乗客は取り乱し始めたが、多くは冷静に離陸間際に教わったばかりの装着方通りに酸素マスクを着ける。マスクを装着すると自分の早くなった呼吸がが頭の中に響く。
機内は異状に寒く気圧が低い、ジャケットの分厚い布を通して寒さを感じる。アテンダントもコートを着始めていた。マスクを付けて暫くすると、やっと機長からアナウンスメントがあった。話によれば、機内の気圧を調整のための機器の故障という事、加えて飛行自体には影響が無いので落ち着いて欲しいと言う事だ。そして機体を修理するために成田空港へ戻る言う風に伝えられた。
旋回するように機体を傾けた。その直後機長から再びアナウンスがあった。機体は離陸直後のため燃料を満タンにして重いため直ぐに降りられないという事だ。暫く太平洋上を低空で飛びその間に燃料を捨てると説明が加えられた。窓の外には夕陽に映し出される房総半島の綺麗なシルエットがくっきりと見えた。
房総半島を越え洋上へ出るとエンジン付近から液体が噴霧される。燃料を空中で捨て機体を軽くしているのだろう。燃料に引火しないのだろうか。もし引火すればエンジンは間違いなく爆発する。皆祈った。緊張の時を約1時間程過ごした後、機体は九十九里浜から夜の成田空港へ向けてアプローチに入った。
乗客もシートで半分意識を失って酸素マスクするエア・アテンダントも無事を皆祈た。高度が下がり最終着陸態勢に入る。真っ黒な地面が近づきドスンという軽い衝撃が響き。地面を走る振動が戻る。機体は無事滑走路へタッチダウンした。
乗客からは歓声があがり、何処からとも無く拍手が沸きあがる。酸素マスクのアテンダントもほっとした様子を見せた。機体はターミナル・ビルから一番遠いハンガーに横付けされ、待っていたタラップが横付けされた。消防車が待機する中タラップを降りてバスに乗り、乗客も乗務員も一緒にターミナル・ビルへ向かった。
もし体験できるとすれば、同じ状況もう一度体験して、冷静な目で死を覚悟した自分を観察して見たいと。あの時、どれ程の人が死を覚悟したのか、どんな行動をとったのか、冷静な目で観てできればあの機内の状況をビデオに納めてみたいと思う。
■Run 0.9Km