気の置けない仲間とモルトビネガーがいっぱいにかかったフィッシュ・アンド・チップスをほおばって「ラビッシュ」と歓声あげサッカーを観戦する。ありふれた週末の過ごし方だ。
ビールを片手にバスケットに入ったチップスを指でつまみ豪快に口へ放り込むと、突然の横に立つ友人の一人が大声で叫ぶ。モニターに目を送るとシュートを放ったフォワードの選手の球が、キーパーのファイン・セーブに阻まれゴール後方へ抜けた後だった。
友人の一人は隣で腕を組みモニターを睨みつけて、おおげさなジェスチャーでお気に入りのチームを応援している。この今年の冬の終わりから、チャンピオンズ・リーグが長い間皆の興味の中心だったが、チェルシーがマンチェスター・ユナイテッドに破れ熱いリーグ戦が終わると、興味はEuro2008に移った。
ドイツ対クロアチア戦、昨夜のカードを観るために夜の12時を過ぎると友達が集まり始める。10KmのRunを終えて早いうちからビールを飲み始めていたから12時に近づくとずいぶんと酔いがまわっていた。試合が始まると集まった友達は大歓声をあげる。自然と彼らに乗せられるように気分は昂揚する。
大声で歓声をあげる友達を眺めると、モニターには目も向けずカウンターで暗くビールを傾ける友達が目に入った。近寄って挨拶をすると明らかに声が沈んでいた。こちらが理由を尋ねる前に彼の方が早く口を開いた。きっと聞いて欲しかったのだろう。
「ガールフレンドが荷造りをしているんだ」
歓声で良く聞き取れない程小さな声で言った。話を聞くと5年過ごしたガールフレンドが、明日一緒に住んでいるフラットから引っ越しすために荷造りをしているとの事だった。彼はその様子を冷静に見ていられないかったので、気を紛らわすためにやって来たのだと言った。
話を全部聞いて彼にかける言葉を無くした。彼らの事は皆、知っていた。ガールフレンドが受験をするために、彼は5年間彼女を支えてきた、彼が働いて家賃を払い、勉強に集中できるように食事を作ったり家事までしていた。勉強の邪魔にならないように夜はその店で我々と飲んでいた。5年間もそんな生活を続け、今年の春、ガールフレンドはやっと念願の試験に合格した。
友達は皆、彼とガールフレンドを祝福した。誰もが、試験を合格したら結婚するものと思っていた。もちろん彼本人もそう思っていたのだろう。でも、実際は違っていた。彼が結婚の話を切り出すと、ガールフレンドはその家を出て行くと言って、引越し屋に電話しさっさと荷物を片付け始めたらしかった。
昨夜の友達は相当酔っていたが、彼にかける言葉がなかった。
■今朝電話をすると別の友達の部屋に泊まったと言っていた……人生って色々とあるんですね。「おぃ、そこの女子、酷いじゃないか」と空に叫んでみたが何かが起こるわけじゃない。
■今夜は皇居走ります。