Hotel Bruxelles

カサブランカ南西に200Km、漁村、街にはこれといった観光資源も無く、広く美しい砂浜、長く続く砂浜の突端に作られたスペイン統治時代の小さなお城があるだけだ。街の収入は漁港に水揚げされる少しばかりの魚介類とこの街に立ち寄る旅人達の落とすお金で成り立っている。

サハラを渡りアトラス山脈から吹き降ろす乾いた風が波頭を白くし、大きく成長した波が濱に寄せる。矩形に区切られた沢山のサッカーフィールドが広い砂浜を埋め、少年達は山から陽が昇り始める時から、海へ陽が沈むまでサッカーを楽しむ。

猫の額のようなメディナが街の中心を造り、周囲に煉瓦でできた小さな白い住宅が広がる。小さな楽しみとしてに作られた何軒かのカフェが通りに軒をだし、通りに並べられた木製のテーブルと椅子に腰掛けて人々はミント・ティーを楽しんでいる。

ホテル・ブリュッセルはそんな街のメディナの中心にある小さなホテル。白い壁、高い天井、大きな窓、マグリブの街の中にありヨーロッパを思わせる。朝の3時真っ暗な部屋で目が覚める。ベッドの中で目を開くが上下左右そして時間の感覚がない。そこが何処なのか判るまで長い時間が必要だった。

窓から入る月の灯りだけが部屋を照らし僅かに白い壁の輪郭を縁取る。「ここはアフリカ大陸の外れ」そんな認識がやってくると、スチール製のベッドから起き上がって水を一口に含み、大きく息を吸い込むと気持ちは落ち着き、再び眠りに戻る。

朝日が窓から顔まで伸びる頃、メディナにはコーランが響き渡る。その響きに促されベッドを抜ける。裸足でフレンチ・ウィンドウを出て階段の下の通りを眺めると、通りがかった少女がこちらを見、笑顔を浮かべて、

「Bonjour」

少女の澄んだ声が夜が明けきらない街に響いた。