ブログネタ:もう一度会いたいアノ人 参加中


「双子の姉妹と寝たのか」そんな質問には答える必要も無い。ただ、どちらかと寝たと思っても、実は両方と寝ている可能性はある。小説の主人公のように意識的に二人と寝る事はないだろう……彼女達が故意に入れ替わらない限り……

その年の夏は、夕立の雲のように現れ大粒の雨を降らせて去っていった。バンクーバーからグレイハウンドの長距離バスに乗ったのは夏の始まりを感じさせる頃だった。夏は寒い冬を我慢強く過ごしたカナダ人へのご褒美だ。爽やかで透明なカナダの夏は始まろうとしていた。

バックパックのフレームにシアトルと書かれたタッグを付けると、友達は一斉にブーイングを唱えた。「やっと手に入れた貴重な夏をアメリカで過ごすなんて馬鹿げてる」、「アメリカへ行ったら焼け死んじまうぞ」そんな事を言い出す奴までまでいた。人の旅立ちを祝う奴なんて一人もいない。

一人として「行かないで……」と旅立ちを止めようとする人は現れなかった。グレイハウンドの大きな車窓から見下ろすと下で中指を立てている奴さえいる。そんな風に国境を越える数千キロの旅が始まった。BCからLAまでいったいどの位の距離があるのかさえも想像できない。

目的地はLA、どうしてロサンゼルスだったのか、単にそこが憧れのカリフォルニアだからだ。広い砂浜、映画の街ハリウッド、青い空、北の地バンクバーには無い物が一杯ある、そんな気がしたからだ。安物ガイドブックやパッケージ・ツアーのブローシャのコピーでも真に受ける人はいないだろう。

バスが走り出すと、カナダとアメリカの国境を越え先ずシアトルへ着き、ポートランド、ユージン、サクラメントそしてサンフランシスコ、そんなノースウェストの街々を時間をかけて南下した。キャンプサイトを見つけてテントを張り、トラベル・ロッジのようなモーテルに泊まりながら7日間かけてLAを目指す。

8日目の朝、フレズノで乗り換えたバスは、山の上に建てられた大きな看板を左手に見てLAのダウンタウンのバス・ディユポに入る。巨大なディユポへ何台ものバスが飲み込まれていく。BCも大きな街だがLAとは比較にならない。バスに揺られての8日間の旅の目的地は期待を裏切らないスケールだった。

バスのタラップを降りると、暑く乾いた空気が全身を包む。BCの湿度のある優しい空気とは違い、乾いて厳しさのある空気だった。砂漠の空気が皮膚に触れ水分を一気に奪う。カサカサになった皮膚や唇は直ぐにひび割れた。ポーターに1ドル札と交換に「LA」と書かれたタッグが付いたバックパックを受け取ってバス・デュポの建物を後にする。

通りに立つと雲ひとつ無い真っ青な空からカリフォルニアの夏の太陽の光が針のように突き刺さる。この空の青さ、太陽の光線、「これを求めてやってきたんだ」そう思って通りを歩き出した。予約したドミトリーはダウンタウンの外れにある筈だったが、いくら歩いても見つからない。

気が付くと、ヒスパニックの人達の街へ足を踏み入れていた。「まずいな……」そう思ったが遅かった。数人に囲まれた、何も仕掛けて来なかったが、彼らはスペイン語でまくし立てた。そこに足を踏み入れたのが軽率だったのだ。そこはアメリカだったそんな認識を忘れてはいけない。言葉を返あいてもスパニッシュしか話そうとしない。

諦めて持ている現金を全部差し出した。財布をの中を調べて現金が無い事がわかると、逃げるように去っていった。悔しかったが仕方が無い、数では勝てる訳が無いし武器を持っているかもしれなかった。幸運にも財布の中にはトラベラーズ・チェックが残っていた。クレジット・カードも隠してあるからお金の心配は無い。運が悪かったのだ……。

見上げると高層ビルの間から「カリフォルニアを甘く見るな」と言う風に太陽が輝いていた。緊張感と長旅の疲れが一気に体を包む、何処へ行けば良いのかわからなかったが、ビーチに行けば安心だという短絡的な考えから、やってきたロング・ビーチ行きのRTD(ローカル・バス)に飛び乗った。

ロング・ビーチに着いても何処へ行けばいいのか宛てはなかった。巨大なシティ・ホテルが海岸に並んでいたが、どのホテルにも泊まる気持ちにはならない。悩んでいると、セント・カタリナ島行きのフェリーの出発する合図が見えた。直感的にフェリーへ乗り込む。都市から少しでも離れたかったのかもしれない。

高速艇で約1時間、島に着く、自然の素晴らしい所だ、自然の中に入りやっと気持ちが落ち着いた。キャンプサイトを見つけグリーンのテントを張る。思い描いていたLAとは少し違うが、出発点としては間違いでないのかもしれない。テントを張り終えてしまうと、水着に着替えてシャワーを浴び、夕食とビールを仕入れに出かける。

考えてみれば何も口にしていなかった。バスデュポでペプシを口にしたのが最後だった。スーパーで紙袋一杯の食べ物とクアーズを買って帰ると。グリーンのテントの横に別のブルーのテントが張られていた。真っ先に荷物をテントの中へ放り込み切り株に座ってクアーズの蓋を指で開ける。

食道から胃の中へ冷たいビールが流れて行くのがはっきりとわかる。夜の八時を過ぎていたが空はまだ明るい。4本目のクアーズの瓶が空になる頃、カリフォルニア空は綺麗な夕焼けに染まっていた。空を眺めて5本目のクアーズを開けると。同じ紙袋を持った二人の少女がテントへ帰ってきた。

よく観ると二人とも全く同じ顔をして同じTシャツとカットオフの短いジーンズという姿だった。「ハィ!」とカリフォルニアらしい笑顔と、元気で明るい挨拶だ。彼女達は、荷物を自分のテントへ投げ入れると切り株の隣に座った。

ビール瓶を投げると綺麗にキャッチした。こうして3人の小さな野外のパーティが始まった。ミッシェルとフランソワ・レイモンド、アイデンテイカルなフランス系の双生児だった。ブロンドの長い髪は、二人とも同じ風に後ろで一つに編みこまれていた。どんなによく観ても区別はつかない。ソーセージとパスタで料理を作り小さなパーティは盛り上がり、アルコールの力もあって簡単に打ち解ける事ができた。

空に無数の星が輝く頃になると、涼しい風が吹き二人とも自分達のテントへ戻っていった。一人空を見上げ温くなったビールを飲み星の数を数えたり、その日の事を思い出していると。一人が戻ってきた「寝られない」と言うので、温くなったビールを二人で分けて飲んだ。カリフォルニアの乾いた風が編みこみが解かれた彼女の髪を揺らす。

気が付くと彼女の瞳を見つめ唇を合わせていた。朝鳥の泣き声が森に響く、先に起きた彼女は柔らかい唇を軽く触れ自分達のテントへ戻っていった。
■Run 6Km Swim 0.5Km
■あっ、この物語はフィクションで登場する人物は架空です。でも、あの二人の少女にもう一度会ってみたい。