ブログネタ:アルバイト恋愛したことありますか? 参加中店の中でも美雪はそれ程目立ってはいなかった。指名や同伴だって数えるほどしかない。店の売り上げ順位で比較しても半分よりも下なのかもしれない。実際にホール係りに彼女達の売り上げランクは知らされない。彼女達にもランク付けや順位付けを教えてはいない、それが店の方針のようだった。
その店では、彼女達の競争心を煽るより、店へ来る男性客へ心の篭った接客により気を配るという方針を通していた。彼女達を競わせて客を取る様な店と比べると多くの売上は上げられなかったが、良い常連客が付き安定した売上があった。バイトの応募を見て店を訪れた時に、面接をしてくれた店長はそんな風に店の事を説明してくた。
その話を聞いて、他店とは違うその店が好きになった。大学を中退して、バーテンダーやホール係りで幾つかの店を渡って来たが、面接の時にそんな話をしてくれた店は初めてだった。それに加え、気に入った理由はもう一つある。店長の目奥には信頼感のような物を感じられ、過去の店を辞めた理由を一切尋ねられなかった事だ。
前の店を辞めた理由は、接客態度がとても悪く客を怒らせて帰らせてしまった娘を怒り、泣かせてしまったからだ。次の日、彼女は店にやって来なかった。事情を知った店長に事務所に呼び出され、散々殴られ、店を解雇になった。そんな店に未練はなかったが、殴られた理由もわからなかったし店の接客の方針にはどうしても納得できなかった。
離職率の高い女性達を維持するのが難しい風俗店で、立場を越えて余計な事をしてしまった事はわかっていたが、サービス業という立場から間違った事はしていないと思っていた。次の日に謝りに行こうと家から店のある繁華街へ向かったときふらっと降りた隣の駅前で求人の広告を見つけ、その店を訪ね求人に応募した。
辞めた理由を説明しようとすると店長はそれを静止した。早速、その夜から店で働くようになった。最初は見習いとして先輩について、接客と店の女の子との接し方を教わった。前の店と大きく違う事はなかったが、やはり競争意識の無い分、女性達はリラックスし、女性同士の関係も上手くいっているように感じた。
開店前の掃除の時間帯には店長と気軽に話ができた。外見は滅茶苦茶だが話をすると、物腰が低く多方面へ深い知識をもつ店長は尊敬できる人物だと感じた。活気があり明るい風俗店なんて言うと少し変だけれどなんとなくそんな言葉のぴったりするのは、店長の人柄と経営方針に因るものなのだろう。
働き始めて数週間が経ちやっと店の雰囲気に慣れてきた頃、美雪が新しく店へ入ってきた。営業の始まる前スタッフ・ミーティングの場で店長が美雪を紹介紹介した。店長の紹介に応じ美雪はハキハキとした言葉で自己紹介をした。容姿は地味な感じだったが、性格はとても明るいというのが第一印象だった。
その日から数日は店の雰囲気に慣れるため、同僚の女性のヘルプとして暫く仕事をしていた。勤務態度は真面目だったし明るい性格だったので、同僚にも好かれていった。彼女も貪欲に客を取りに行かないので同僚達がライバル意識を持たず仲良くできたのだろう。その分指名や同伴はあまり多くなかったが、美雪は気にする様子はなかった。
もう少し自分を磨いてやる気を出せば、倍は稼ぐ事ができるだろうと思った。でも決してガツガツと積極的にお金を稼ぐタイプでは無いなかった。ただ、毎日の仕事を楽しんでいるように見えた。初日からずっと見せているリラックスした様子は、他の娘と違った雰囲気がありとても興味を引かれた。
店の女性達と話をするのは本当に必要な時だけで、個人的な話は実質禁じられていた。だから女性達の個人的な事情もわからなかったし、内面を知る術もなかった。接客中に泣き出す娘もいれば、私的に問題を抱え泥酔してしまう娘もいた。
彼女達も一人の人間であり女性だ。だから個人的な事も当然たくさん抱えている。だけど店では大切な商品として扱えと言われていた。個人的な場所へ入るのは、危険だったし。彼女達もそんな事はわきまえていた。プロフェッショナルなのだ。
会話が無いので個人的な事情なんてわからない、店で過ごしている外面的な様子や表情から想像するしかないのだった。だから美雪の個人的な事情も知る由もなかったが、美雪の持つ優しい雰囲気や、同僚の女性達に向ける思いやりを感じる事はできた。そんな、外面的な興味からでも美雪に対する興味は次第に膨らんだ。
仕事中も美雪を思うようになり、無意識うちに視線が座席へいった。美雪はそこで客に水割りや焼酎割りを作り、客の話し相手になっている。ホールの隅から見える美雪は輝いて見える。仕草のひとつひとつが丁寧で優しさに満ちているように見えた。店には雑誌のモデルができそうなスタイルを容姿の女性もいた。そんな中にあっても美雪は一際輝いているように見えた。
真っ白な桜の花弁が消え、淡い緑色の葉が出始めた季節の夜、最後の客を送り出して店の片付けをしていた。他の娘達が早々と夜の街へ消えてしまっても、控え室で一人本を読んでいた。誰かを待つように、部屋を掃除に入ると、本に落としていた視線を上げ、無理やり作ったように小さな微笑みを浮かべた。
「お疲れ様」
と声をかけたが、その声が地球の裏側で鳴っている音楽のように聞き流した。その日の控え室は女性達の戦闘の激しさを示しすように随分と散らかっていた。散らかった部屋を清潔に掃除するのは嫌じゃなかった。きちんと線の決まった部屋に仕上げるのは、夜の作業にしては申し分ない。店で働いている時間で一番好きな時だったかも知れない。
部屋を片付けている間、美雪は控え室のソファーに深く寝そべるような姿勢で、本に没頭しているよだった。散らかった雑誌を片付けに近くへ行ったが、小さな息遣いが聞こえ、仕事の後に付けたのか、いつもはしない香水の柔らかい香りが鼻をくすぐった。
控え室があと少しで片付く時、ホールの方で物音がした。残っているのは、美雪と今日の売り上げの計算をしている店長だけだ。美雪は音のする方へ目を移すと、読んでいた本をテーブルの上に開いたまま置き、立ち上がってホールへ行った。立ち上がったカジュアル姿は、いつものイブニング・ドレスの時よりずっと若く見える。
ホールで男女の話声が聞こえる。多分店長と美雪だろう。そして店長の怒鳴り声がホールに響いた。暫くして店長が控え室にやって来ると
「戸締りを頼む」
そういい残しエレベータへ向かう通路へ消えていった。何があったのか知らない。女性に向かって声を荒立てた店長も始めてだった。放り出された最後の古い雑誌をマガジンラックへ放り込み、控え室の電気を消すして着替えをするためにホールへ行った。男性従業員はロッカーがあるだけで、着替えはトイレの中か、閉店後の店内だ。
ホールの端に美雪の姿があった。拭きあげてピカピカのガラステーブルの上に、手で顔を覆っていた。その様子からは楽しい事があったとは思えない。店長と美雪に関係がある事など知らない。金銭的なトラブルなのだろうか。ロッカーから着替えを出して黒服から、ジーンズに履き替える。美雪は少しも動かない。
エナメルの靴を脱いでスニーカーに替え美雪の所へ行き「店、閉めますよ」と告げると、ゆっくりと立ち上がる。泣いているのか知りたかったが、長い真っ直ぐでサラサラな髪の毛が邪魔をしている。彼女は暗くなった控え室に戻るとルィビトンの大きなショルダーバッグを控え室を出てさっき店長が消えていた通路へ同じように消えていった。
最後の電気を消して、警報機のスイッチを入れてシャッターをぴったりと降ろして鍵をかける。もう一度シャッターが開かない事を確認してエレベータへ向かった。他に店は早々と扉を閉めていたのでテナント・ビルでは最後だった。ゆっくりとエレベータ・ホールへ行くと髪の毛を後ろで纏めた美雪がいた。
泣いている様子はなかった。何故そこにるか地球の裏側で誰かが丁寧に説明してくれているようだった。何も言わずにエレベータに乗ると、美雪も続いた。スイッチを押すとゆっくりと扉が閉まるり扉の動きと同じように美雪の体の温もりが次第に感じられた。東の空がうっすらと明るくなりかけた街はまだ肌寒さが残っていたが空気は乾いて気持ち良い。車の消え物音の消えたシルエットの街並みを美雪腕を組み、美雪の歩調でゆっくりと歩いた。
■エピローグ:次の日から美雪は店へ姿を見せなくなり、そして何日後か店長から辞めた事を聞かされた。
■間に合わなかった、一度も見直しや推敲できていません。
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