注意:本文には性的な表現が使われています。作品の表現に必要な範疇に留めたいと考えておりますが作者と読者の理解の違う場合がありますのでご理解ください。若年層の方及び性表現に嫌悪感を抱かれる方はご遠慮いただく事をお願いいたします。

近未来の世界、人々は高度な電子化へ対応で不眠症に苦しんでいた。「NDT Inc.」社は、独自開発した特殊装置で不眠解消のために「夢」を売るサービスを提供していた。装置の悪用を計画する非合法プロバイダ「MAL(マル)」。NDT社の社員である「不眠症の主人公」と恋人「ケィ」が装置をMALから守るために繰り広げる「近未来・冒険・ドリーム・ラブロマンス」BugsLifeをお楽しみください。
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男は、焦って扉を勢い良く閉め、扉に付いている幾つもの鉤を全て降ろした。ドアの中央に付いている覗き窓から外を確認した。まるで誰かに追われているかのように落ち着かない。振り返えったその表情は態度と同じように落ち着きはなく視線が一点に定まる事はない。全く異なる次元の、別の場所を眺めている様に焦点がない。

部屋は薄暗く、机の上に置かれたスタンド・ライトの黄色い電球がぼんやりと光っている。影が溜まった部屋の隅の奥を見渡す事はできない。足元にあの蟲がいないのか気になったが、耳を澄ましても蟲の動き回る音は聞こえない。多分、勢い良く扉を閉めた理由は、蟲を入れないためなのだろう。

男はドアの脇にある木製のキャビネットに置いてあったスプレー缶を取って何かの薬剤を噴霧した。空中の散布された薬剤が漂い酷い匂いを放った。スプレー缶を元にあった所へ戻すと一つ咳をしてこちらを見る事もなくゆっくりとスタンド・ライトの方へ歩いた。

スプレーだけでは不十分だったのか、蟲達は完全に息絶えていないのか、足を踏み出す毎にパリパリという踏み潰す音が部屋の中に響いた。やはり蟲は部屋の中へ侵入していたのだ。古ぼけた白い木製フレームの薬品棚が部屋の奥まった壁を背に置かれ、直ぐ横には丸椅子がポツンと置かれていた。

男は丸椅子に座り、こちらに顔を向けて変わらない焦点の無い瞳のまま、力なくゆっくりと向かいの丸椅子を指差した。スタンド・ライトに映し出された顔は、薄暗い所で見えた様子より少しは人間らしかったが、中途半端に伸びた顎鬚に白髪が混じって随分と年老いているように見えた。

見回したが彼の他に誰の姿も見えない。看護師がいないのか、もう一度辺りを探ってみたがそんな気配は全くない。見えるのは暗い窓の無い閉じられた部屋の内部とペンキの剥げたふるい薬品棚、そしてスタンド・ライト、机、そしてスプレー缶の置かれたキャビネットだ。

灯りにぼんやりと浮かび上がるやつれた男の顔、見捨てられた井戸の中に残って腐った濁水のような白目、焦点の無い瞳、どうみてもまともな医師には見えない。どうしてこんな男が病院の医師として働いているのだろう。何故ケィは、この医師を紹介したのだろう。いくら考えても理由を考つかない。

男は座れと言う様にもう一度丸椅子を指差す。何も言わなかったが目の奥には威圧的な力を秘めている。麻薬患者のような充血し濁って焦点の無い目をしていた。力において決して負ける事は無いだろうが、どういう訳か逆らう事ができない威圧感があった。

指の先にある椅子に歩み寄り、椅子へ腰掛けた体重が載ると鉄が錆びて乾いた音が部屋の中に響き渡った。驚いて立ち上がろうとしても、肩を上から手で押さえつけられたように、体が重く立ち上がる事が出来なくなっていた。そして丸椅子はギシギシと壊れそうな音を立てた。

視線の高さが合うと真直ぐに向かい会う格好になった。最初はその風体から恐ろしく思えたが向かい合って改めて目を見つめると、恐怖感は強い風に飛ばされたタンポポの種子のように、瞬間に吹き飛ばされ消えた。瞳の奥には意志の強さと優しさを感じる事すら出来た。

視線をテーブルに移し載っている書類に目を通すとゆっくりと頷いた。様子を追っているうちに何故か親しみを感じている自分に気付いた。男の親しみのある横顔は誰かと似ていた。消え始めている記憶を丁寧に辿ったが、やはり思い出せない。どこかで会っている筈だが、場所も名前も思い出せない。

耳を澄ますと低い機械の唸るような音が聞こえるような気がした。しかし、注意深く聞くとそれは機械の音ではなく、男が唸りか、独り言なのか、区別のつかない低い声で独り言を発しているのだった。よく唇を見ると僅かに震えるように動いている。金属製の銀色のボールペンを持ち、置かれた書類をなぞっていた。

声に意識を集中させると次第に言葉が聞き取れるようになってくる。音は耳から空気を震わせて伝わってくるというよりも、頭の奥で小さく響いているような感じだった。目を閉じるとイメージが頭の中にイメージ・コンソールで描かれたような映像が広がり男の音声が響く。

山と湖の風景だ。青い空にゆっくりと綿飴のような雲が浮かんでいる。雲はゆっくりと流れていた。視線の動きに合わせて視界が変化し、他人の目を通して見ている風景のようだった。視線が移ると蛙が空を睨む姿をした見覚えのある丘と、そして眼下には鏡のように滑らかな湖水が見えた。

振り返るように視線が移ると、湖や蛙の丘と反対の方向に、見覚えのある杉の大木とコンクリート造りの四角い大きな建物とそれを囲む長い塀があった。建物に見覚えは無かったが、もし見ている風景が昨年ケィと行ったあの山であるなら。その場所は、ケィと逸れた時に見つけた廃墟と化した建物に間違いないだろう。

あの時見た様子とは違って、新しい朽ち果てた遺跡のように崩れかかってはいない。時間を巻き戻して作られたばかりの様子を再現しているようだ。もしこれが再現された映像ならば、そんな事が可能なのはU-4による映像以外に無い筈だ。

しかし、そんな場所にU-4がある筈はない。仮に回線が引かれていたとしても、U-4へのインターフェイスを開いてはいないのだ。情報をU-4へインプットする事などできないので、U-4でもインターラクション無しで、ゼロからイメージをジェネレーションできる筈はない。

情報がどこからかリークしているのだろうか。入力インターフェイスが存在しない以上、情報リークは考えられない。誰かが、なんらかの目的で作ったイメージを送り込まれているのだ。しかも、イメージ・コンソールを使っているわけでは無いのに、映像が頭の中へ流れ込む。

単に目を閉じているだけなのに頭の中へ像が投影される。同じ事はケィと一緒にいた時にもあった。単なる自分の創造物なのか、それとも誰かがなんらかの方法でシグナルを送り込んできているのか、どす黒い雨雲が広がるように、精神の混乱が一気に広がる。大きく深呼吸をして頭の中へ投影される画像を追った。
■久しぶりの更新です。もう忘れてしまいましたよね。
■Run 5Km, Swim 1Km 膝の痛みはありません……安心しました。
■今夜は、645 Onlineのオードリーさんのお店へお伺いします。
■昨夜から信じられない量の記事を書きました。