ブログネタ:移住したい街 参加中ガタンと大きな揺れがした、シートに深く埋めていた顔を少しだけ上げると低い樹々が窓の向こうに一面に広がり、バスの進む先には縞模様の様に二本のフリーウェイが地平線の向こうへ続いていた。上ったばかりの太陽に低い森は、薄らと朝靄が漂い上ったばかりの太陽の光を受けて白く光っているように見えた。
日本人の体格よりは一回り大きいパッセンジャー・シートから這い出すように窓まで顔を出すと頭が次第にはっきりとして、自分の所在を認知できるようになってくる。そうだ、サンフランシスコのダウンタウンで仕事を終え、そのまま飛行機に乗らなかったのはそれなりの理由があった。
前日の昼、やっとの事でアポを取り付けたのは、そこから何千キロも離れたサンフランシスコのダウンタウンにあるウェブ・デザインの会社だった。それからユナイテッド、アメリカン、ノース・ウェアスト、デルタとメジャーのキャリアへ電話をしたが全て席は埋まっていた。
頼みにしていたアラスカ・エアーもどうもダメらしい。祈る思いでホライズンのオフィスへ電話を入れた。空席を確認すると「Yes」という答えだった。受話器を放り出しそうになって喜んでいると、ガールフレンドが階下のジムで朝のワークアウトを終え、汗まみれのスウェット・シャツでオフィスへ入ってきた。
「どうしたの……」
送話のマイクを掌で押さえ、
「ちょっと待って」
と応え、受話器を耳に当て、途中だったクレジット・カードの番号を伝えて予約を完了させる。
「やったよ、あのウェブ・デザイン会社にアポが取れたんだよ、すごいオポティユニティだと思わない」
「えぇ、本当!?、凄いじゃない、それで出発はいつ、何処行くの?」
「うん、明日の午後のアポなんだ。HDがサンフランシスコなんだ。朝のフライトの予約もとれた。それに乗れば間に会と思う。」
そう告げると顔がみるみるちに曇っていく様子がはっきりとわかった。初め、どんな失敗をしたのか想像もできなかった。
シアトルのダウンタウンから湖を越えた場所にある小さな街には、ベンチャー向けの貸しオフィスが入った新しい建物が立ち並んでいた。その建物のオフィスへ入れば、起業する物全てが揃っている。個々のオフィスと電話やネットの回線を除いて、秘書、経理機能等の会社機能を全てシェアでき、中にはプールやジムまで揃っている。起業家はそんなインキュベータの中でエンジェルを探しながらベンチャービジネスを夢みるのだ。
サンフランシスコにあるエンジェルにやっとアポが取れたのだ。ガールフレンドは素直に喜んでくれる思った。でも目の前にあるのは悲しみをどこかに秘めた瞳と顔だった。理由を知りたかったが「尋ねるべきじゃない」という声がどこかから聞こえた。
椅子の背もたれに架かっている白いバスタオルを取り上げると、車のキィを持って何も言わず部屋を出て行ってしまった。そして、数秒後、携帯にメッセージが入った。
「気をつけて行って来てね、帰りは明後日かその次ね。Good Luck. 私オレゴンへ行くから暫く家を空けるわ」
オレゴン……そうだ。一年前の明日、サンフランシスコからユージンへ向かうグレイハウンドの中でガールフレンドに始めて出会ったのだ。それだけじゃない数ヶ月前にとったミュージカルの公演も明日だし、湖畔の高級レストランにも予約を入れてあった。全てが明日だった。でも、二人で夢見た起業が手の届くところにある。
「きっと彼女も理解っている」そう自分に言い聞かせて、プレゼン資料が入ったPCをブリーフケースに入れ、ダウンタウンのホライズンオフィスへチケットを受け取りに向かった(まだe-チケットもなかった頃の話だ)クレジット・カードで支払いを済ませ。また湖に架かる浮橋を渡って家へ戻ると彼女のスーツケースはもう消えていた。
次の朝、シータックの駐車場へRVを入れ、ドメスティックのターミナルからサンフランシスコへ向かった。ダウンタウンのファイナンシャル・ディストリクトの近くの建物に入ったウェブ・デザイン会社、まだ若いボードメンバーと技術者を前に緊張しながらプレゼンをした。
プレゼンの後、参加したメンバーの顔は皆明るかった。プレゼンを気にいってくれた事をはっきりと伺えた。帰り際にHRの一人が
「後ほどメールで連絡をします」
と告げた。建物を出るとサンフランシスコの高層ビル群は薄い霧に包まれ、肌寒い空気に包まれていた。仕事は意外と速く片付いた。空港も戻ってそのまま帰ってもシアトルに着くのは夜半過ぎだ。何故か足は、グレイハウンドのバス・ターミナルへ向かい気が付くと、シアトルまでチケットを買っていた。バスの入り口へ向かう、ポーターに
「荷物は?」
と尋ねられる。
「これだけだよ」
と応えると彼は肩をすくめた。途中止まったサクラメントのバス・ディポにあるダイナーでくたくたなスパゲティーをバドワイザーと一緒に無理やり胃の中へ流し込む。携帯から電話をかけても留守番電話になるだけだ。早くプレゼンの結果を報告したかった。バスへ乗り込むと急に酔いが回り始める。長距離移動はそれなりのエネルギーを使うものだ。
一日で何千キロを移動する、これがアメリカのビジネススタイルだ。グレイハウンドは、R101を一路北を目指して走る。ドライバーは小さな声で、ブルースの鼻歌を歌っている。バスの振動とそんな鼻歌のリズムで直ぐに眠りに落ちた。
目覚めるとバスは森の中に通されたフリーウェイを走っている。雨があがったばかりの森からは白い水蒸気が立ち上り太陽で輝いている。ユージンまで後少し。バスは程なく小さな町のデュポで小休止をする。小さな町の小さなバス・デュポ、フラッシュバックの様に何かが頭を掠める。すると背中で、
「隣の席空いている?」
聞き覚えのある声が響いた……振り替えると、いつもの笑顔がそこにあった。……さぁ、帰ろう我々の住む街へ。
■シアトルの近郊にあるベルビューと言う街は美しい街並みがあり、美しい自然に囲まれた所です。誰でも住みたくなる所だと思います。
■Run 6Km
■今日のワインは南フランスのテーブルワイン、ボルドーのオーメドックで収穫される葡萄と比べると、重さも無く、カジュアルな感じです。一人で楽しむには丁度良いかもしれません。ほんのり甘く湿気を帯びた地中海の風をイメージさせてくれるワインです。……こういう時間が大切なんです。